第2章 野生児と若草色の少女
第10話 狭い世界
ロネリー達が住んでいたコロニーは、平原のコロニーと呼ばれていた。
そんな平原のコロニーから北に向かうと、切り立った
当然、平原で
ゴル爺に聞いた話だと、この山岳地帯のどこかにオルニス族っていう翼を持った種族が暮らしているらしい。
俺はともかくロネリーも、そのオルニス族とやらに会ったことは無いようだ。
翼があるって、すごく便利そうだな。なんて、くだらないことを考えながら、山岳地帯を目指して歩いていたのが、昨日の話だ。
「ダレンさん!! この先に長い橋があります!! どうしますか!?」
「ロネリーは先に行っててくれ!! 俺らで、奴らを足止めする!!」
「ダレン!! 右後方から4人、左後方から3人だ!!」
「分かった!!」
前方を走りながら先の様子を報告してくるロネリーと、頭の上で敵の数を報告してくるノーム。
そんな二人に叫んで返事をしながら、俺は走っていた足を止めて
背中に
ノームが報告してくれた通りの人数を確認した俺は、右足で地面を軽く叩いてノームに合図を送った。
すかさず地面に潜り込んでゆくノームを視界の端で確認しながら、突撃してくる賊を
人数で勝っている敵に囲まれてしまわないように、ゆっくりと後退しながら岩の槍で
そうやって、十数秒間だけ敵の足を止めることに成功した俺は、右足で足元を強く踏みつけた。
直後、辺りの岩場から、でたらめに、岩の槍が突出してくる。
その攻撃に賊が怯んだ隙を突き、俺は
全力で走るために、手に持っていた剣と盾は担ぎ直す。
「ノーム!! もう良いぞ!!」
俺がそう叫ぶと同時に、少し先の地面から飛び上がって来たノームを、俺は走りながらキャッチする。
そうして、頭の上にノームを運んだ俺は、背後を振り返った。
「あいつら、しつこいな!!」
「でも、結構引き離せたじゃないか!! さすがはオイラ達だな」
「余裕こいてる場合じゃないぞ」
そう言った俺は、少し先に見える橋の様子を改めて見る。
切り立った
それでも、足を止めるわけにいかないと判断した俺は、全力で橋の上に駆け込んだ。
ギシギシと
崖下から吹き上げて来る風で、
高さ的に、落ちたら確実に命は無いだろう。それとも、谷底を流れている細い川に飛び込めれば、生き延びることができるだろうか。
「いや、無理だな」
こんなところで死ぬわけにはいかない。それに、既に橋を渡り終えているロネリーを、置いて行くわけにもいかない。
そう思い、改めて加速しようとした俺の耳に、ノームの声が飛び込んできた。
「あいつら!! ダレン!! 走れ!! 全力で走れ!!」
「なんだ!?」
慌てているノームの言葉の意味を知るために背後を振り返った俺は、黒い影がものすごい速度で迫ってきていることを知る。
「だぁぁぁ!! またあいつらか!!」
その黒い影のことを俺は良く知っている。と言うか、こうして賊から逃げている原因は、そいつらと言っても過言じゃない。
ロネリー
犬よりも大きい身体を持っているその黒い魔物は、赤い瞳で俺達に狙いを定め、群れで襲い掛かって来るんだ。
そんな魔物を、どうして賊が手なずけているのか、色々と疑問はあるけど、今はそれどころじゃない。
「やばいやばい!! ダレン、もっと速く走れ!! 追いつかれちまう!!」
「逃げ切るのは無理だ!! ノーム、奴らが飛び掛かって来るタイミングを教えてくれ!!」
「分かった!!」
まだ橋の真ん中あたりを走っている俺達は今、大地の上に立っていない。
つまり、ノームが力を発揮することはできないわけだ。
けど、逆に言えば、橋の上でワイルドウルフに取り囲まれる心配もない。
一列を成して来るワイルドウルフ達を、各個撃破すれば、何とか勝てるはず。
とはいっても、そんな
「ダレン!! 来るぞ!!」
「おう!!」
頭の上で叫んだノームに叫び返した俺は、勢いよく
俺の背中目掛けて飛び掛かってきていたワイルドウルフは、その斬撃をもろに受けて、崖下へと落ちていった。
それを横目で見ながら盾を構えた俺は、
「下がれ!! 下がれよ!!」
剣で盾を叩き、大きな音を立てることで
そうこうしている間にも、ワイルドウルフ達の後から追って来る賊が、近づいてきている。
後方に気を付けながら、ゆっくり後退する俺に合わせて、ワイルドウルフ達も俺に向かってにじり寄る。
このままじゃじり貧だと俺が思った時。
右の頬のあたりを、何かが
「なんだ!?」
「ダレン!! 矢だ!! 賊が矢を撃ってきてる」
「勘弁してくれよ!!」
ノームの言葉で、賊の1人が弓矢を構えている様子に気が付いた俺は、小さな盾に身を隠した。
どうしたらいい? 今の俺には為す
そんな弱気なことを考えた俺の耳に、今度はロネリーの声が飛び込んできた。
「ダレンさん!! 私達が援護します!! 走ってください!!」
まるで俺を避けるような
ただの水と
「さすがは水の大精霊だ!!」
喜びのあまり叫んでしまった俺は、
水弾に
「よくもやってくれたな……でも、お前らとはここでお別れだ」
荒い呼吸を落ち着かせながらその場にしゃがみ込んだ俺は、足元に両手を添える。
直後、俺が触れた場所を起点にして、橋を支えていた
橋を固定していた支えを失ったことで、今しがた渡って来た橋が大きく
当然ながら、まだ橋の上にいる賊とワイルドウルフ達は、必死に引き返そうとしているが、間に合うわけもない。
激しい
「あの……ダレンさん。橋を落としちゃって良かったんですか?」
「ん? あぁ……まぁ、いざとなれば俺とノームが作るよ。それも、岩でできた頑丈な橋をな」
「そうだな。オイラも賛成だ。木製の橋なんて、信用ならないしな」
「そ、そうでしょうか?」
ロネリーの言いたいことも分かるけど、背に腹は代えられないだろ?
「それより、ロネリー、ウンディーネ。さっきはありがとうな。助かったよ」
「あ、ううん。私達だけ逃げるのはあれですし。ウンディーネは遠距離攻撃が得意なので」
「そうみたいだな」
「そうか? 近距離でも結構強いとオイラは思うけどなぁ」
「ノーム……お前、自分でその話を蒸し返すのか?」
「いや、そういうつもりじゃないんだけどな?」
「あはは」
「とりあえず、先に進もう」
ロネリーの瞳の
取り敢えず、橋が壊れたことでさっきの賊が追いかけてくることは、当面ないだろ。
これでようやく、オルニス族を探せる。
そう思って、橋の先にある上り坂を少し登った俺は、その先に広がった景色を見て、絶句した。
「な……これは、すごいな」
「わぁ!! す、すごいですね、あれ、どうなってるんでしょうか?」
「……なぁダレン、オイラ達が住んでたあの山は、本当に狭い世界だったんだな。まさか、岩が宙に浮いてる光景を見るなんて、思ってもみなかったぜ」
「だな。俺もそう思うよ」
「ちょっと待って下さいダレンさん、ノームさん。流石にこんな光景は惑わせの山の外でも珍しいですよ!? 何か勘違いしてませんか?」
苦笑いしながら俺とノームの勘違いを訂正してくるロネリーの言葉を、俺は半分聞き流してしまった。
理由は簡単だ。
上り坂の先にあった光景が、あまりにも不思議で、幻想的だったから。
底が見えない程に深くて巨大な穴に、沢山の巨大な岩が浮かんでいる。
それらの岩の上には、沢山の木々や草花が生い茂っているのだ。
まるで、元々地面だった場所に穴ができ、表面部分だけが宙に浮いたまま取り残されてしまっているようだ。
更に、それらの岩の間には、
「どうなってるんだよ、あれ」
「……ダレンさん。あそこ、集落がありませんか?」
「お、本当だ。言ってみようぜ、ダレン」
ロネリーが指さした場所に目を向けた俺は、確かに集落らしき建物を見つけた。
穴の縁から少し離れた位置にあるその集落には、幾つかの人影らしきものも見て取れる。
そこに行けば、あの浮いている岩の事やオルニス族のことについて聞けるかもしれない。
「そうだな。行ってみよう!!」
少しだけ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます