第4話 転換を望んで


 柚子に与えられた部屋は、最初、歓迎されていた時は縮こまるくらい豪奢なものだったけれど。今は使用人の部屋と同じ……か、それ以下だ。何の飾り気もない板張りの床に隙間風が入る窓、一つだけ備えられたクローゼット。

 小さなテーブルに丸椅子を引き寄せて、ロデルに貰ったバスケットを置く。


「いただきまーす」


 誰もいなくても気にしない。

 当たり前のように挨拶を口にする。

 両親と一緒にいた時は口を酸っぱくして言われていた。

 もぐもぐと口にしながら先程見たものを思い浮かべる。


(リオ……今はセレナさんのところにいるのかな)


 前の部屋を使っていた時、リオはよく嬉しそうな顔をして柚子の居る場所に遊びに来てたけど。

 今その笑顔はセレナに向けられているのかと思えば寂しいし、今はもう柚子を嫌っていると思えば、悲しい。

 大きな役目とか、聖女とか王族とかは関係なく、リオは初めて柚子を歓迎してくれた人だから。


『僕の事はリオと呼んで』


 優しい顔でそう言ってくれていたのを思い出す。

 今はもう全てセレナのものになってしまったけれど……


「いけない、いけない」


 ぺちぺちと頬を叩いて意識を現実に向ける。


「……無い物ねだりは良くないわ」


 初めて出会えた「特別」にしがみついても、リオにもセレナにも迷惑なだけだ。

 それより柚子が次に行くところに目を向けよう。

 よし、と拳を握る。


 もしかしたら、そこで沢山努力すれば、今度こそ温かく迎えてくれるかもしれない。

 ──また見込み違いと疎ましく思われるかもしれないけれど。


 優しい人に出会えるかもしれない。

 ──価値観が違うかもしれないが。


 毎食ちゃんと食べられる環境かも知れない。

(──そうよ、食べ物は大事よ!)


 デザートに林檎を齧りながら、柚子はうんうんと頷く。

 誰かに期待しないと自分の境遇を変えられないのは厳しいが、自分のやるべき事をしっかりと担えば衣食住が整うならありがたい。

 ……これくらいなら望んでもいいだろう。


 もう十八歳なのだ。元いた世界では高校を卒業したら家を出て、働くつもりでいた。だから何も変わらない。


(大丈夫──そうだ、いっそリオに直接頼んでみたらいいのかも)


 リオだって柚子にはいなくなって欲しい筈だし。出て行きたいと言えば喜んで居場所を提供してくれるのではなかろうか。うんそうだ。黙って期待しているより、ずっといい。


 それに、神殿内でも柚子の存在に疑問を持つ者が増え始めている。ここから出ていくのは、もう間もないかもしれない。


「そうよ、まずは交渉してみないと。リオのところに行ってみよう」


 リオは毎日神殿に来る訳では無いけれど。

 次の訪問日を誰かが知っている筈だ。何とか聞き出して、リオにお願いしてみよう。


 柚子は、よし。と拳を握って決意した。

 

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