乙女ゲーの主人公に転生してしまった私は悪役令嬢とともに攻略対象とサブキャラの恋を応援する。
シヅカ
『申し訳ないがちょっと新しいルート作るわ。Ⅰ』
気付くと私は別世界の人間に転生していた。
朧げな前世の記憶を辿ると此処が慣れ親しんだ乙女ゲームの世界だと直ぐ気付いた。異世界転生をテーマにした作品は数多く存在するが、どういうわけか私は主人公に転生していた。
クラスメイトCとか悪役令嬢の取り巻きのモブキャラくらいの立ち位置で転生したかったのに何故主人公なんだ?
時系列的に今は入学式の一週間前である。しかし、このまま経てば初日で悪役令嬢に目を付けられたり攻略対象の候補と出会ってしまう。
そうなれば悪役令嬢と対立したり、攻略対象との関係が拗れてしまえばバッドエンドもしくはデッドエンドになる。
乙女ゲームなのに何故デッドエンドがあるんだ?しかも攻略対象との選択肢や好感度によって問答無用で死ぬとか、うら若き乙女の命をなんだと思ってるんだ!とゲームシステムの理不尽さに怒りを露にしながら入学式を迎えた私は地味に学園生活を送ることを決意する。
もし悪役令嬢だったら悲惨な末路を迎えないように主人公と攻略対象から距離を置いて慎ましく振舞いたかったが、そうは言ってられない。
この乙女ゲームで主人公が攻略対象と迎える終わり方にはトゥルーエンドとグッドエンド、そしてノーマルエンドがある。
ノーマルエンドを迎えた主人公は不幸にも幸福にもならず祝福する側になる。悪役令嬢が許嫁である攻略対象と目出度く婚姻したり、別の攻略対象はである少女と結ばれる。
この世界で前世の記憶を引き継いでしまったからには主人公には申し訳ないが、知人友人を応援する一人の女の子として他者を応援したい。
そう思っていたのも束の間、初日早々悪役令嬢から目を付けられてしまった。悪役令嬢を宥めるため彼女の許嫁で主人公の攻略対象である先輩生徒が仲裁に入り、顔を覚えられてしまった。
平民の身で学園に入学出来た主人公は入学式の時点で学園中に知れ渡っていた。主人公は異例中の異例だから前代未聞であるのは仕方ない。
そして、この世界は魔法が身近な存在になっている。授業でも魔法を用いるが発動までに時間が掛かってしまったことでクラスメイトからは「初歩の初歩も出来ないなんて」と陰口を叩かれた。
(この体の持ち主に恥をかかせてしまった。)
主人公は入学のために努力を惜しまなかった。
そんな彼女の意識を私が塗り潰してしまった。『彼女』の知識のおかげで文字や図式が理解出来ても、『私』が魔法の発動工程や条件を理解出来なくてはこの学園で生活を送れない。下手したら落第である。主人公のためにも私は必死で勉強し、魔法の練習に取り組んだ。
★
「疲れた…。」
宿舎の自室に戻ると私は自分のベッドにうつ伏せで飛び込んだ。基本は相部屋だが宛がわれた二人部屋を私一人で使用していた。
無理もない。本来なら公立の学校に通うべき平民の娘が名の知れた家柄の息男息女が通う学園に通っているのだから相部屋などすれば家の名に傷がつくし、社交界に出れば笑い者にされる。
主人公は平民でありながら魔法の才能が飛び抜けていたため特別に入学が許可された設定だが今の私にはその片鱗を示すことは不可能だ。
私自身はこの世界に来て数週間しか経ってないが、体の持ち主はまだ15歳である。自分本位で図々しく生きていくにはあまりにも無謀だ。
初日からチート級魔法が使える無敵キャラだったら派手に目立ってクラスメイトから恐れられても馬鹿にはされなかったのかなと思ってしまい、邪な考えを振り払う。
万一、それを容易く行使したら私という魂が去った後で彼女に後始末をさせてしまう。それだけは絶対によろしくない。私がしたことは私がいる間に責任を持って清算するべきだ。
(さてどうしたものかな。)
そう悩んでいた時、外に何者かの気配を察した。静かに体を起こしてベッドを下りると恐る恐る窓に近付いた。
カーテンの端をゆっくり捲って薄暗くなりつつある屋外に目を向けると短髪で筋肉質の青年が足早に宿舎の横を通り過ぎていた。
私は声をあげそうになった。
その青年は私が前世で推していたサブキャラだ。彼は攻略対象ではないが、その存在感に心を惹かれた。脳筋に思われがちだが節度を守る姿勢が好印象だった。
私が彼を好きな理由として挙げられるのは主人公との関わり、ではなく攻略対象との関係だ。
顔を合わせれば皮肉の応酬、模擬戦はもはや実戦、学園一の仲の悪さで有名だが互いに相手を認め合ってるし、攻略対象を案じてサブキャラが「テメェは本当にそれで良いのか?」と主人公に対する愛を最後まで貫く覚悟があるのか問い質す場面は本当に熱いし大好きだ。
(今日はどうされたのかな?)
宿舎の規則では生徒の夜間外出は禁止されている。それは名家の嫡子であっても例外ではない。どんな理由であれ規則は守らなければならない。
本編でのサブキャラは校則を第一としていた。主人公が悪役令嬢の取り巻きから嫌がらせを受ける場面で、その生徒が魔法を使用しようとした際は咄嗟に腕を掴んで制止するほどだ。そんな彼が規則を破るなどあり得ない。
何かあったに違いない、と私はベッドに細工をし部屋の明かりを消すと静かに部屋を抜け出して彼の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます