ゴーストハント協会 日本支部 東北方部会 —— 卜部香と桜の夜——
碧月 葉
新しい相棒
今夜は新しい相棒に会う。
落ち着かなくて待ち合わせ場所のファミレスに30分も早く着いてしまった。
僕は、ミルクティーの飲みながらゲームをして時間を潰していた。
前の相棒は、僕の師匠でもある渡辺さん。
彼は能力が高く、とっても優しいおじいちゃんだったが、この春本部に引き抜かれたのだ。
「大丈夫、凄腕のベテランに後任をお願いしたからね。楽しみにしておいで」
渡辺さんはそう言って「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」と笑っていたのだが、この業界の凄腕にはクセが強いというかヤバめ人が多い。
温和な渡辺さんを師に持てた僕は、かなり恵まれた方だと自覚している。
新しい相棒が気難しいオジさんとかだったらどうしよう……。
しばらくするとデニムのテーラードジャケットを羽織った、ワイルド系イケメンが店に入ってきた。
約束の時間にはなっていないし、雰囲気的にもあの人は違うよな。
僕はゲームを続行した。
「えっと、卜部くん?」
だから、彼に話しかけられた時ビクリと肩が跳ねた。
この人が相棒?
……想像していたタイプと大分違う。
「はいっ。あ、あのっ。は、はじめまして、僕が
お陰で、何だかぎこちない自己紹介になった。
「
碓井さんはニッと笑い向い側の席に座った。
「俺、ココで夕飯食ってくけど、君もどう?」
「あ、はい。じゃあ僕も食べます」
碓井さんはシーフードカレーを、僕はタラコパスタを頼んだ。
「へぇ、香くんA大でプログラミングの勉強してるんだ」
「一応……」
「じゃあ本職でも俺の後輩になるかもしれないな」
「碓井さんってSEとかですか?」
「ああ、昼間はシステム開発とかアプリ作ったりしてるよ。この間まではシアトルに居たんだけれど、今は◯◯社で働いてる」
エリートじゃん……。僕とは全然違う。
「ん、どうした?」
「碓井さん、凄い人ですね」
「馬鹿、会って数分で俺のことなんて分かんねーだろ。仕事や肩書きだけで人を判断すんな」
「すみません」
「……一緒に組むんだ。まあ、これからお互い知って行こう」
「はい、よろしくお願いします」
と、こんな感じのやり取りは普通のアルバイト先の先輩後輩でもあるかも知れない。
でも、僕ら仕事は普通とは言いがたい。
「香くん『サーチャー』も『ロッカー』もできるって聞いているけど」
「ええ。渡辺さんにみっちり仕込まれました。『ネゴシエイター』のスキルは特訓中です」
「へえやるな。俺は4つのジョブ全部対応出来るんだが、最も得意としているのは『ブレイカー』。だから戦い方は渡辺さんと大分違うスタイルになると思う」
「了解です」
僕らは戦う。
何と?
ゴースト……つまり幽霊と。
そう、僕らは「ゴーストハンター」。
世界ゴーストハント協会に登録している幽霊祓いのプロだ。
協会は能力別に4つのジョブを認定していて、ゴーストハントの際には4つのジョブ保有者を揃えるという決まりになっている。
僕は幽霊や問題がある場所を探し出す『サーチャー』と幽霊を捕らえ、動きを封じる『ロッカー』の資格を持つ。
碓井さんは、それに加えて幽霊を武力で倒す『ブレイカー』、幽霊を説得して昇天させる『ネゴシエーター』を持つという。
4つの資格を持つハンターはまさに凄腕、恐らく20代だというのにとんでもない人だ。
なんでこんな地方都市に来たんだろう?
「香くん、時間だ。行こうか」
支払いは碓井さんが財布から黒いカードを出して済ませてくれた。
「すみません、ご馳走さまです」
「俺が誘ったんだからいいよ。さて、良い感じに雨もあがったようだし。桜日和の幽霊日和って感じの夜だ。よろしく頼むよ」
「はい」
碓井さんの手には何やら木製の棒のようなものが握られている。
あの反り具合はもしや……。
街灯の灯りは点いているが、あたりはすっかり寝静まっている。
意外にも明るい月の光が降り注ぐ中、僕らは、初仕事の場所へと歩き出した。
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