Flight 5
とは言ったものの……。
勢いで飛空場の玄関口まで歩いてきたが、ふと、わたしは我に返って考え直す。
これからどうすればいいんだろうか。
最初に決められた
どうしたものかとその場で考えていると、入口の方でなにやらざわめきが起こった。そちらに目をやると、集まった人ごみの中に、信じられない人物の姿を見つけた。
「アリア!」
――それはアルスだった。後ろにはリヅォさんもいる。わたしに気付いたアルスがそう呼びかけると、周りがわたしを見てどよめいた。
実を言うと、アルスと会うのは久しぶりだった。
免許の報告も声の通信だけだったので、久しぶりにアルスの顔を見れて嬉しかった。それはかれも同じだったようで、わたしを見つけるとすぐに駆け寄って来てくれた。
「久しぶりだな。 なんで帰って来てくれないんだよ? 別に気なんか遣わなくたってよかったのに。 オレとお前の仲じゃないか」
近くに来たアルスが不満そうな
「ところで、なんでこんなところにいるんだよ? それに、なんかいつもより暗いし」
ふと、アルスにそんな疑問をぶつけられる。どうやら、考え事をしていたのが顔に出てしまっていたらしい。わたしはちいさく苦笑いをもらすと、アルスに事情を説明し始めるのだった。
「そういうことなら任せろ!」
全てを聞いたアルスがなんだか張り切った様子で、声高にそう話した。……何か考えがあるらしい。
「オレたちで
「えぇ!? その『
その勢いのまま、アルスが突発的なことを言い出した。かれにはほんの少し強引なところがある。ここに来たのも半ば強引だったんだろう。おまけに、言い出すと聞かないところもあったりする。
「――決まってるだろ! 今しかないじゃないか! 行こう!」
アルスがそう言って、無理やりにわたしの手を引いて歩き出す。……もうこうなれば、誰もかれを止めることはできないのだった。
アルスが手探りながらもやって来たのは飛空場内の事務所で、今、かれは真剣にわたしと
わたしたちの目の前には、分厚い
一方のアルスはというと、目を輝かせながら、返事を待っていた。その表情はどう考えても、良い返事を期待しているようにしか見えなかった。
「も、申し訳ありませんが、ヴァーネイン様、
「――だめだっていうのか? 私と同じような身分でここにいる者と比べれば、私の方が
覚悟を決めて口を開いた
何か間違っているような気がしないでもなかったが、本当にここまで来たらアルスを止められないのだ。きちんとかれの後ろで待機しているリヅォさんでさえも。
途方に暮れた
しばらく経って戻って来たアルスの顔を見ると、満足そのものだった。
奥に行くと、そこには事務所長の
――こうして、新たなる
「それで――何から始める?」
屋敷に着くなり、アルスはそう尋ねながら、床に下敷きを引いて大きな紙を広げた。そして、じゅうたんの上に寝転ぶと、筆記用具を並べ始める。その傍らにはリヅォさんが腰掛けた。
驚いたことに、リヅォさんも部隊の一員として迎えられていた。リヅォさんは、料理・洗濯はもちろん、何でもこなせる、本当にすごい執事だった。ちなみに、執事の前は何をしていたのか、アルスも知らないようで、経験がすごく豊富なのだとか、そうじゃないのだとか。……とにかく、リヅォさんは
準備は万端、やる気も十分なアルスが、わたしをじっと見つめていた。どうやら、わたしの口からその「答え」が出るのを待っているようだ。
「――舟をつくろう」
いつかは「その日」が来るとは思っていたが、まさかこんなかたちで、夢がひとつ叶うなんて思いもしなかった。その時、わたしは驚いてもいたが、同時に嬉しくも感じていた。
「よし! アリア、これに設計図描いてみてくれ。 足りないところはオレが補うから」
満足げに微笑みながら、アルスがそう話した。どうやら、わたしを全力で支援してくれるようだ。かれのことを頼もしく思いながら、わたしは白い紙の前に座り込んだ。
筆記用具を片手に持ち、わたしはその紙をじっと見つめる。すると、ぼんやりとではあるが、舟の
まずは機体。どんな形にしようかと思った瞬間、ふとおじいちゃんの話を思い出す。確か、あの写真集の星は丸い形をしていると話していた。……なるほど。わたしの頭にはすぐ、機体の
「機体は球体で……」
わたしは紙の隅に、その
そして、次に、翼の形を考える。翼はとびやすいように――風を受けて疾走できるように。
「翼はそう、ちょうど両手を広げるような感じ」
そう言いながら、わたしは実際に両手を大きく広げてみせた。……うん、ぴったりだ。すぐに、機体の図に翼を描き足す。
最後は尾だ。
あとは細かい部分だ。球体の上半分は透明で強力な素材で入口をつくり、下半分には舟の動力を入れる。とぶための装備はできるだけ操作しやすいものが良い。自動操作機能があれば、なおさら良い。中には運転席と、後部座席に二人分。――そう、これだけは絶対に譲れなかった。
二人にそう話しながら、わたしは設計図を細かく描いていく。
設計図を描くのは初めてだったが、アルスにはその知識があるようで、わたしに細かく
――そして、設計図が完成した。
「大体の部分はオレとアリアで何とかなりそうだ。 あとは動力だな」
「アリア様のお母様に助言をいただきましょう。 そうすれば、わたくしが動力をつくれるはずです」
わたしとアルスは機体、リヅォさんが動力と役割を分担して、その次の日から早速舟づくりが始まった。
当面の目標は中間報告の日。
舟の整備を自分自身でできるよう、
一方のリヅォさんはというと、動力完成までの間はしばらく留守にしていた。わたしのことを聞いたお母さんが快く協力してくれたおかげで、立派な動力が完成した。
完成の後、リヅォさんはわたしたちを陰ながら支えてくれた。わたしたちだけでどうにもならなかった部分は、リヅォさんのおかげで上手くつくることができたのだった。
中間報告の数日前、ついに舟は完成した。
舟はわたしの想像通りのものに仕上がっていた。……いや、それ以上の出来だ。あとは試運転をするだけだ。
できたばかりの真新しい舟に、わたしは触れてみることにした。機体の確認をしたり、運転席に座ったりなどしているうちに、わたしはふと、改めて実感した。……あぁ、これはわたしの舟なんだ。――ひとつ、夢が叶ったんだ。あまりに嬉しくて、わたしは懐から手帳を取り出し、その気持ちをすぐに書こうとした。
――ぽつり。広げた手帳に、何かが落ちた。気が付くと、わたしは泣いていた。半分は嬉し泣きだったが、残りは今までの思いがこみ上げてきたせいで、流れた涙のようだった。
本当のことをいうと、売られかけた時、不安で仕方なかった。マーシャに話を聞いてみようと思った時、実をいうと、本当のことを知るのが怖いと思った。部隊を出た時は寂しかった。だって、わたしはたったひとりで、味方なんていなかったから。そんな思いがせきを切ったように、涙として流れて来たのだ。
……だけど、わたしのそばにはアルスがいた。何度もわたしを助けてくれた。ここまでやって来られたのも全部アルスのおかげだ。本当に感謝してもしきれないくらいだ。
その時、隣にいたアルスが何も言わずに、わたしの頭を撫でてくれた。わたしは泣き止むどころか、余計に涙があふれるのを感じた。……でも、今、アルスがいてくれてよかった。
止まらない涙を拭いながら、わたしはふと、思いついた舟の名前を手帳に書き込んだ。そして、涙が枯れるまで、わたしは泣き続けたのだった。
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