もふもふしたもの

蓮宗

第1話

白いもふもふの話


僕の家の前には古いアパートがあり、1階部分が駐車場になっている。この辺りは車が無いと不便なため、どこの家にも大体1台は車がある。そのくせ古い町だから、昔からあるような家ばかりでごみごみしていて土地は無く、駐車場付きのアパートは人気のようで、古くても大体埋まっている。


冬の朝のことだった。玄関から出て息をゆっくり吐き出すと、その息は白い煙のように空に向かっていき、やがて消えていった。自分から出たものが世界の一部になっていくようで、小さな頃から寒い日の、白い息は好きだ。


そんな寒い朝、まだアパートには車が何台かとまっていた。その車の下がふと気になってしまった。中学生にもなってこんな姿見られたら、と思う自分もいたが、通りをちらりと見て誰もいないことを確認すると、冷たいコンクリートに膝をついて車の下を覗き込んだ。


ふわふわな、真っ白な小さなかたまりがそこにいた。大きさはハムスターよりちょっと大きいくらい。子猫…?にしては小さいし、野良ハムスターなんているんだろうかと思いながらもそのふわふわな生き物を見つめていた。不思議だけれど、キーホルダーとか、ぬいぐるみだと一度も思わなかった。じっと見られているのに気がついたのか、もぞもぞと白いかたまりが動き出した。生き物ならGのつくあの虫や、毒のあるもの以外ウェルカムな僕は、顔が見たくてわくわくしていた。


おかしいと気づいたのは、目の前を歩いているはずのこのもふもふがこちらを振り返った時だった。こちらを見ていると分かるのに、目も鼻も見えない。確かに毛らしきものは長いが、手足も見えない。なのにこちらを見ているという確信めいた感覚があった。不思議なものに出会ったはずなのに嫌な感覚は無く、見つめ合うこと数分。学校に遅刻するわけにはいかないしどうしようかと悩んだ瞬間、ふわふわの毛並みがまるでたんぽぽの綿毛のように解れていき、ふわりと空気にとけて消えた。


なんとなく、白いもふもふも僕の白い息と同じで世界の一部なんだろうな、頭の何処かから心の何処かにストンと落ちて、その考えが正しいものだと納得できた。


今でもたまに白いもふもふを家の周りで見かけるけれど、触れたらやはり綿毛のように消えてしまうのだろうかと少しだけ気になっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もふもふしたもの 蓮宗 @renren_1010

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ