これだけは譲れない! お姉ちゃん一本勝負!
卯月
前編 ソアラ・マリア・ムッチャマッチョ・パーデンネン
今日は
僕はアルフ。チョッキーナ共和国の外交特使だ。
女王陛下のお名前はソアラ・マリア・ムッチャマッチョ・パーデンネン様。
ご年齢は50歳になられる。
在位30年。
内乱につぐ内乱で荒れはてていた国家を細腕一つでまとめ上げた、偉大な女王様らしい。
誕生日パーティはずいぶんと風変わりなイベントがおこなわれるそうだけど、ご本人の名前以上に風変わりなイベントなんてあり得るのかな……?
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
始まってみれば何ということのない普通のパーティだった。
普通の城、普通の会場、普通のもてなし。
平凡でありきたりだけれども、内乱で荒れていた国をここまで復興させたのだと思えば大したものだろう。
さて一時間ちょっと順番待ちをさせられて、ようやく僕がご
ビクゥッ!
僕は飛び上がった。
初めて見る女王陛下のお姿にすっかりビビッて、いや
執事たちを連れてあらわれたのは獅子のような威厳ある大男……ではなく大女。
野ウサギでも見るようなギラギラした眼光で僕を見ています。
獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすってやつ。
「チョッキーナの特使殿!
ようこそパーデンネンへ!」
魔獣の
一応言っておくけど女王の声です。
コワイ、ヤバい、殺される。
ヨウコソってなんだっけ、「お前を殺してやる」って意味だっけ?
「こ、こここれは女王陛下、あの、その……!」
ヤバい恐怖のあまり用意していたセリフが飛んだ!
なんだっけ! 100%わすれちゃった!
「オ、オタンジョービ、オメデトウゴザイマス」
小学生か!
僕は自分にツッコミをいれた。
多分帰国したら外交官クビになるであろうテキトーな言葉が、つい口からあふれ出てしまったのだ。
せめてもの礼儀にと最敬礼で頭を下げる。
怖くて顔をそむけたわけではない、たぶん。
「ワッハッハッハッハ!」
大声で笑う魔獣、もとい女王陛下。
僕の背中にズシッ! と大きな手が乗せられた。
本当は肩に乗せたつもりなんだろうけど、手が大きすぎて背中まではみ出していた。
僕の視線は
その時はじめて目の前の相手がハイヒールをはいていることに気がついた。
もう少し視線を上げるとドレスの
ハイヒール、はく必要あるのかなこの人……?
僕が眼前の脅威にふるえ、さらに帰国後の
ザワッ!
会場が一段とさわがしくなった。
見れば会場の入り口に真っ黒なローブを身にまとった
黒ローブの人物は案内も
女王陛下の側近たちがシュバババッ! と音がしそうなほど素早い動きであいだに立ちふさがる。
「よい」
女王陛下は屈強そうな側近たちをたった二文字で制して、みずから前に出る。
黒ローブも女王陛下の目前で立ち止まった。
二人の体格はまったくの五分。
いやハイヒールのぶんだけ女王陛下のほうが大きいかな。
「
「無論」
黒ローブはかぶっていたフードをはずした。
あらわれた顔は、なんと女王陛下とうり二つ!
双子だ!
こんなゴツい双子姉妹生まれてはじめて見たよ!
「今日こそ私が上に立つ」
「そう言って何度泣きを見たのかな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
二人の間にただならぬ空気が流れはじめた。
た、戦うつもりなのか、二人のお誕生日だっていうのに!?
身分ありげな人物たちがなにやら熱く語りあっている。
「今年もこの瞬間がやって来たか」
「ええ、今年の勝者はどちらなのかしら!」
え、常連客がいるのこの勝負?
黒ローブのほうはバサッと上着を脱ぎすてた。
内側は深紫色のドレスだった。
人間の腰ほどもある太い腕。
ドレスから見える
……なんか毒されてきたな僕。
「お客様、危ないのでお下がりください」
「あっはい」
女王陛下の側近のかたにうながされ、僕も壁際によった。
「あの、何が始まるんです?」
「これから女王陛下と魔女王様の間で、順列を決める勝負がとり行われます」
「魔女王?」
知らない名称に首をひねる僕。
側近のかたは優しく微笑むと初心者の僕に解説してくれた。
魔女王とはパーデンネン王国の中央にそびえ立つ『グングーン山』のてっぺんに住み、この国を霊的に守護している偉大な存在なんだって。
グングーン山は僕も見たことがある。
天にむかって
あれのてっぺんって人が住めるような
「じゃあ、これから始まる勝負は女王と魔女王の入れ替え戦?」
負けたほうが一年間孤独な岩山の上で生活しなければいけない……みたいな?
「いえそうではなく」
「えっ?」
「『どっちがお姉ちゃんか』を決める勝負です」
「は?」
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