第47話 フェリス王国編――肉不足
アリスが馬車のリビングに戻るとそこにはフィン、クレイ。そしてアンジェシカが座っていた。
三人はそれぞれ自分のしたいことをしているよで、アリスに気付いていない。
「おばあちゃん、フィンにぃ、クレイにぃ。ただいま」
アリスは、そんな三人を驚かせないようにと思いながら声をかけた。
すると一番に本から視線をあげたフィンが、アリスに「おかえり」と声をかけてくれる。
「あらアリス戻ったのね。おかえりなさい」
「おー、アリスもう飯?」
何か作っていたらしいアンジェシカは、魔道具を大事そうにしまうと顔を上げた。
そして、クレイはアリスを見ると、ご飯しかうかばないようだ。
呆れを含ませ表情で、クレイを見たアリスはぷいっとそっぽを向くとアンジェシカとフィンの間に座った。
「そう言えばアリス、作ると言っていた鞄はできたの?」
「……うん、い、一応できたよ……」
アンジェシカに鞄の出来具合を問われたアリスは、視線を逸らしながらなんとか答える。
一瞬の無言と共にアリスの行動を見ていたアンジェシカの口元が、僅かに引きつる。
「アリス、鞄って何かな?」
空気を読んだようで読まないフィンが問う。
それにアリスは何と答えたものかと考え、現物を出して説明する事にした。
「これなんだけどね。これだと、スリに遭うこともないし、戦いの最中も両手がふさがることは無いでしょう?」
「へ~!! すげぇカッコイイ!! 俺にも作ってくれ、アリス」
「確かに……アリスの言う通り使いやすそうだ」
ボディバックを見るなりクレイが、アリスに作って欲しいと言い出した。
それを見事にスルーしたアリスは、繁々とボディバックを眺めるフィンの言葉に耳を傾ける。
「このバックは、完全防水がついてるから中に入れたものは濡れないんだよ」
「いいね。私にも一つ作って欲しいな。材料は用意するから頼めるかい?」
「うん。いいよー」
材料を用意すると言うフィンに、アリスは即答で作ることを約束する。
「アリス! 俺のも作ってくれよぅ~。材料は用意するから~~~」
まるで子供だなと思いながら、仕方なくアリスはクレイの分も作る事にした。
「あら、この紐は何かしら?」
「あ、これね。叶結びの四つ葉のクローバーでね。幸運を運んでくるんだ。使った石は、魔除け、勇気、行動力をあげてくれるの」
「そう。とても素敵ね」
鑑定を使ったであろうアンジェシカは、出来るだけ平静を装いたいのだろう。だが、アリスの話を聞き、答えた声は上ずっていた。
「それにしても、また凄い物をつくっちゃったのね」
何かを諦めるように一度目を瞑ったアンジェシカは、一つ息を吐き出すと告げた。
自分で作ったアリスもあきらめるしかないと同じ気持ちなので、無言でうなずく。
「なんかね……こうなったらいいな~って口に出すと、勝手に魔法が付与されるの」
「……流石、愛し子ということかしら?」
「うーん。わかんない」
魔法が勝手に付与される状態についてアリスたちが話をしていると、馬車側から声がかかる。
その声にいち早く反応したクレイが「昼だ!」と叫んだ。
今日のお昼は、天気もいいことだし外で食べることになった。
大きな木の下の木陰に馬車を止め、木の根を避けるようにして絨毯を引き、皆が足を延ばして座る。
アリスはワクワクとした気持ちのままジェイクの隣に陣取った。
「アリス、ご飯は何を出したらいいかしら?」
「牛丼とお味噌汁だよ」
「わかったわ」
アリスの代わりにフェルティナが魔法の鞄を持ち、皆に牛丼と味噌汁を配る。
それが終われば、祈りを捧げ昼食が始まった。
「そうだ。次の街に行ったらお肉買わないと……もう、ミノタウロスのお肉無くなっちゃった」
「な、なにぃぃぃ!」
今回の牛丼でミノタウロスの肉が終わった事を思い出したアリスは、そのことを伝える。
すると、ご飯粒を飛ばしながらクレイが叫ぶ。
迷惑な、なんて思ったアリスはクレイにジト目を向けた。
「この辺で狩れる魔獣に牛型はいなかったよな?」
「えぇ、そうよ。確かこの辺はオークか、トロール。奥の方に行くとロック鳥、ワイバーンがいたはず……」
「仕方ない。ワイバーンを狩ってくるか」
話の内容がおかしいとアリスが気づいたのは、ジェイクの「ワイバーンを狩ってくるか」と言う一言だった。
どれだけ食べることに執着してるの? と、小一時間程問いただしたいと思ったアリスは「まだオーク肉あるから」と言ってみる。
だが、肉スキーばかりのインシェス家では、牛肉——ワイバーンの肉は絶対に必要な物だったらしい。
「ふむ。ならやはり、今日はここに泊まって私とゼスで狩って来よう!」
「緊急事態ですし。バレなければ問題ないでしょう」
「じゃぁ、そうしよう」
「気を付けて言ってきてくださいね?」
「大丈夫だ。ワイバーン如きすぐ終わる」
「解体なら任せてちょうだい」
なんでミノタウロスの肉が無くなっただけで、ワイバーンを狩りに行くのか……?
家族の会話が既に理解できないアリスは、ついにスルースキルを発動した。
そう、すべてを聞かなかったことにしたのだ。
そんなやり取りをしながら食事を終えたところで、アリスはジェイクを呼ぶ。
「おじいちゃん」
もじもじと身体をゆすりながら、アリスはジェイクの前に立つ。
そして、ストレージからジェイクの目の前にボディバックを差し出した。
「これね。おじいちゃんのために作ったの。使ってくれる?」
「あ、アリスが……わた、わたしのためにっ!!」
ダバーと涙を流し始めたジェイクは、ボディバックと一緒にアリスをきつく抱きしめる。
正直、ここまで喜んで貰えると思ってなかったアリスは、どうしたらいいのか分からず固まった。
「ちょっと、父さんアリスが父さんの涙で汚れるから離して!!」
「じいちゃん、アリスが困ってるから離せ」
「おじいちゃん、喜ぶ気持ちはわかるけど……アリスを抱きしめるのはダメだよ」
ジェイク以外の三人の言い方が酷い。そう思ったのはアリスだけではなかったようで、アンジェシカもフェルティナも呆れた顔で男性陣を見る。
その目に耐えかねたゼスが、一度咳ばらいをするとジェイクからアリスとボディバックを引きはがした。
「父さん、いいですか? アリスはもう一二歳なんです……そうやすやすと抱きしめてはダメな年ごろですよ?!」
「いや、しかし……家族だし……なぁ?」
「ダメです」
「ダメだね」
「ダメだ!」
ゼスが黒いオーラを出しながらジェイクを叱る。
しどろもどろになりながら、なんとか反論しようとするジェイクをゼス、フィン、クレイの順で黙らせた。
『アリス、皆なんで怒ってるの~?』
『私にもよくわからない……』
『フーマ、アリス好キ、ダメ?』
『そんなことないよー!!』
ユーランに問われたアリスは、ユーランと一緒に首をひねる。
と、そこへ寝起きのフーマが、可愛らしく首を傾げた。
その瞬間、家族がいるのも忘れてアリスはフーマを抱きしめる。
腕の中に入ったフーマはしっとりもふもふ。
首筋にまきついたユーランは、滑らかで極上な肌触り。
アリスの中で、何かが壊れた瞬間だった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます