第45話 フェリス王国編――ボディバック作り
朝ごはんにアリスが選んだのは、ロールパンを使った卵サンドとオーク肉の薄切りを入れたバケットサンドだ。
これならユーランとフーマも食べられるだろうと、考えて決めた。
「さぁ、キッチンさん。今日もよろしくね」
朝から元気に神のキッチンへ挨拶したアリスは、さっそくキッチンにレタス、トマト、チェダートーズのスライスと卵の準備を頼む。
レタスをちぎるアリスの手元を不思議そうにのぞき込むフーマは、何を思ったのかレタスをパリパリとちぎり始めた。
そんなフーマにレタスを任せたアリスは、続いてキッチンに頼む。
「トマトは、一センチぐらいの厚さでスライスに。卵は鍋で一五分湯がいて下さい」
作業台の開いたところにオーク肉を取りだしたアリスは、キッチンにオーク肉を一センチでスライスしてくれるようを頼む。
ついでにボールを一つ出して貰いスライスされたオーク肉を入れ、まずは塩コショウをまぶす。
次に、小麦粉にカレー粉を混ぜた粉をしっかりとオーク肉にまとわせる。
そして、火にかけたフライパンでオーク肉を焼く。
「あぁ、いい匂い。いつかカレーも作りたいな~」
カレーのいい匂いを嗅ぎながら、アリスはフライパンに入ったオーク肉をひっくり返す。
両面に火が通ったところで、酒、醤油、砂糖を入れさらに味を付ければオーク肉のカレー風味ソテーの出来上がりだ。
「じゃぁ、キッチンさん今の手順でお肉をあるだけ焼いて下さい」
肉を焼く作業をキッチンに任せ、アリスは湯がき終わった卵の殻をむく。
これも一度むけばキッチンがやってくれるので任せる。
剥き終わった卵を素手で、ぐにっと握りつぶす。
卵サンドの卵は粗目が好みだと自覚しているアリスは、迷うことなくそれを繰り返した。
そうして潰れた卵にたっぷりのマヨネーズを混ぜ、最後に塩コショウを振りかけ味を調えれば卵の出来上がりだ。
そして、レタスと卵をパンにはさむ。この時端までしっかり入れるのがアリス流。
もう一つは、側面にしっかりとマヨネーズを塗り、レタス、トマト、チーズカレー風味のオーク肉のソテーを挟む。
『ユーランとフーマは、果物が良い? それともサラダがいい?』
『ボクは、サンドイッチが良い!』
『フーマ、食ベタコトナイ。美味シイ?』
『フーマもきっと気に入るよ! アリスの魔力が沢山込められているから、美味しいよ』
『ナラ、フーマモ食ベル』
ユーランの希望を聞いたアリスは、二人の精霊用にオーク肉とチーズを抜いたサラダを作る。
綺麗に飾り付け、朝食を仕舞ったアリスは、昼食用にとキッチンに牛丼、豆腐と玉ねぎの味噌汁を作って貰った。
それらをしまったアリスはキッチンにお礼を言うと、ユーランとフーマと共にキッチンを後にした。
朝日が昇り切った頃合いで、皆が起きてくる。
クレイの頭を見たアリスは、可笑しくなり噴出した。
毎朝の事だが、今日のは流石に酷い。
イケメンなのにと思いながら、アリスはクレイの頭にさっとミスト状にした水を魔法で吹きかけ髪を整える。
「おぉ、アリス器用だな! ありがとう」
「クレイにぃ、フィンにぃを見習って、もう少し見た目に気を使った方がいいよ?」
アリスの視線を追ってフィンを見たクレイは、一瞬悔しそうに顔を歪めた。
そして「俺にはアリスがいるからいいんだ」と、訳の分からない事を言い勝ち誇ったように笑う。
そんなクレイをフィンは、目を眇めるように見ていた。
そうして朝食の時間。
祈りを終えてオーク肉のカレー風味ソテーをサンドしたロールパンをかじったジェイクが、突然「今日、出るぞ」と告げる。
「もう出ちゃうの?」
「あぁ、フェルティナの両親も待ってるからな。少し早めに行こうと思う」
「そっか、おじいちゃんたち待ってるもんね」
「あぁ、首を長ーくして待ってるぞ!」
「あはは、ドラゴンみたいに?」
「そうだ。ドラゴンみたいにだ」
ジェイクとアリスの楽し気な笑い声がリビングに響いた。
楽しい食事の時間はあっという間に終わり、インシェス家は馬車に乗り込みフェイスの街を後にする。
入るときと違い出るときは、そのまま出れるようで時間はかからなかった。
++++++
再び始まった馬車の旅の間に、アリスはジェイクと約束した鞄を作ろうと決める。
決めてしまえばあとは行動するのみのアリスは、さっそく寝室に入ると「
詠唱を終えると、アリスの前に素朴な木の扉が現れる。
扉の中央には、裁縫を示す針と巻き糸の絵が描かれていた。
扉を開いたアリスは、さっそく中へ入る。
部屋の作りは宝飾台とよく似ているとアリスは思った。
宝飾台と違いのは作業机の周りには、裁縫で使えるようにか色とりどりの糸が置かれていること。そして、机の下にはミシンがあった。
椅子に座ったアリスは、まず飾り用の屑石——マカライトをユーランに託す。
『ユーラン、これを四つ葉の形に削ってくれる?』
『四つ葉って、葉っぱ?』
流石に四つ葉の意味が分からなかったらしいユーランは、アリスに問う。
そこでアリスは、ストレージから羽ペンと紙を取り出し四つ葉のクローバーを書いた。
『こういうのでお願いしたいの』
『これならすぐに出来るよ! 任せて、アリス』
『アリス、フーマモ』
『じゃぁ、フーマには……これを小さな丸にして貰おうかな?』
フーマもやりたいと言うのでアリスは、小ぶりなヘマライトを四つフーマにお願いする。
精霊二人が、石を削っている間にアリスは形を考える。
ボディバックにしたいから、三角柱みたいな形にする。
で、大きさはおじいちゃんに合わせて……縦四〇センチ、幅二五センチ、底は十五センチぐらいの厚さにしよう。
大体の大きさが決まったアリスは、次に使う予定の皮を選ぶ。
ジェイクに買ってもらった皮は、ブラックディアの皮、グレートグリズリーの皮、スモールアリゲーターの皮の三種類。
外に出ることが多いジェイクの事を考えたアリスは、スモールアリゲーターの皮を選んだ。
皮は良いけど……とアリスは悩んだ。
中に張る生地の存在を忘れていた。どうしようかな……そう考えた途端、アリスの前に黒い生地が現れた。
まさか……わざわざ、買わなくても作れるの? と、生地を見て思ったアリスは、今は忘れようと思いなす。
「よし、じゃぁ先に……あぁ!! ファスナー作ってないや! ユーラン、フーマ。ちょっと宝飾台に行ってくる!」
ファスナーを作るためそう言い残したアリスは、返事を待たず急いで宝飾台へ移動した。
物の数秒で、宝飾台の椅子に座ったアリスは、まずファスナーの形を考える。
あまりに大きのはだめだけど、使いにくいのもダメだと思ったアリスは取っ手を長方形の細長い物でイメージを固める。
そして、鎖になったミスリルを一掴み机に取り出し、ファスナーをイメージした。
ミスリルの鎖が消え、青銀の美しいファスナーが一〇本現れる。
それを手に持ち、アリスは再び裁縫箱へ戻った。
裁縫箱へ戻ったアリスは、一つ大きく息を吐くとチャックを机に置いた。
「よし、やってみよう」
まずアリスは、おおよその形をイメージする。
すると、黒い布、アリゲーターの皮、ファスナーが消えた。
そして、次の瞬間アリスのイメージ通りのバックが現れる。
アリスがイメージしたのは、頂点の部分が平らになり、そこから集めの肩紐が伸び丸みを帯びた底へと繋がている二等辺三角形のバックだ。
ファスナーは全部で三つ。左の側面と鞄の上部、中間に一つずつ。ファスナーを開けば、しっかりとしたポケットが出来ている。
そして、今回のバックに留め具はない。
頭から肩にかけて被るようにすればいいと、アリスは考えたからだ。
「おぉ、本当に想像だけでできちゃった!」
初めてにしては良くできた方だとボディバックの完成度の高さにアリスは、満面の笑顔を浮かべた。
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