第42話 フェリス王国編――報連相
流石にヤバい物を作ってしまったと自覚したアリスは、慌ててアンジェシカの部屋を訪れた。
数回扉をノックしたアリスは「おばあちゃん」と、今にも泣きそうな声で呼びかける。
すると、バタバタっと何かが倒れる音が鳴り、アンジェシカが扉を開いた。
「アリス、そんな声を出してどうしたの?」
「あのね……相談したいことが出来て……」
うるうると瞳を潤ませアンジェシカを見上げたアリスは、彼女に部屋へ入れてもらいベットに座る。
そして、意を決したようにアンジェシカを再び見え上げたアリスは、そっとストレージからヤバイ腕輪を取り出した。
「あら、綺麗ね! これどうしたの?」
「……作ったの。でね……おばあちゃん鑑定してみて」
黒い紐にミスリルの青銀が映え、色違いの赤い石を三つ頂くそのブレスレットをアンジェシカは褒める。
だが、アリスの言葉を聞いた彼女が次の瞬間には、動くことすらしなくなった。
長い長い沈黙をアリスは、俯いて過ごす。
そうしてしばらく経ち、アンジェシカが再起動すると「ふぅ~」と疲れた様に息を吐き出した。
そして、アンジェシカが、手を持ち上げる。
その仕草にアリスの肩がぴくっと揺れた。
「アリス、怒っているわけではないわ。心配しなくていいのよ」
優しくアリスへ声をかけてくれたアンジェシカは、持ち上げた手をアリスの頭にのせるとゆっくりと撫でる。
しばらくアリスを撫でたアンジェシカが「そうだわ」と言うと、ありえない事を言い出した。
「このブレスレットは、無かったことにしましょう!」
「は?」
「だって、こんな大それたもの見なかったことにするのが一番じゃない!」
「確かにそうだけど……それ、フィンにぃの誕生日プレゼント……」
確かにアンジェシカの言う通りだと分かっているアリスは、それでもブレスレットを作った目的を語る。
アリスの言葉を聞いたアンジェシカは、こんな大変な物を世に出したらそれこそアリスがどうなるか分からないと内心かなり焦っていた。
「アリス、どうしてもフィンに渡したい?」
「……うん。家族皆の分作りたいの」
「そう……それは、嬉しいわね」
全く嬉しそうではない声音で、嬉しいというアンジェシカにアリスはやっぱり作っちゃダメなんだと凹む。
そこへ、外から戻ったジェイクが部屋へ入ってくる。
「二人して、どうした?」
「ジェイク、おかえりなさい。実はね――」
と、アンジェシカが鑑定結果を含め、アリスが作ったブレスレットの話をする。
それを聞いたジェイクは、いつものように顎に手を当て考えていた。
「まぁ、出所がアリスだと分からなければいいだろう」
「鑑定持ちはそう多くはないけれど……見られたらバレるわよ?」
「アンジェやアリスほどの鑑定持ちは、そうそういないだろう。それこそ魔道具で見ない限り、製作者なんて絶対にわからない」
「隠蔽の魔法陣を留め具に刻めば、絶対にバレることは無いわよね」
意外と軽い会話を交わすジェイクとアンジェシカの様子に、アリスは重い気持ちが無くなりホッと胸を撫でおろす。
それと同時に、自分が思っていたよりも大事じゃなかったのかな? と考えた。
「しかし、ユーランとアリスの二人で、ここまでの効果を出すとは……将来どうなるかが怖いな」
「あら、私は楽しみよ?」
「この技能とはなんだ?」
「それは私も初めて見るわね。フィンの誕生日プレゼントらしいから、フィンが受け取ってから見せて貰いましょう」
「それは楽しみだな」
プレゼントで渡せることになったアリスは、凹んでいたことも忘れて晴れやかな笑顔を見せる。
とりあえず隠蔽の魔法陣を刻むためブレスレットは、一時的にアンジェシカが預ることで話がついた。
晴れやかな気持ちでいたアリスにジェイクが、思い出したかのような顔で「私の鞄も作ってくれるんだろう?」と、聞く。
「おじいちゃんの鞄は、勿論作るよ。あと、アクセサリーは、皆の分ちゃんと作る! お守りになればいいから……」
「アリス! なんていい子なんだ!」
「あら、じゃぁアリスが作った鞄に私が沢山収納できるように魔法陣を刻もうかしら」
「おばあちゃんと合作だね!」
「うぅ!!」
孫バカを発揮したジェイクに抱き上げられたアリスは、ジェイクの頭を優しく撫でる。
それでさらにジェイクが暴走したのは言うまでもない。
夕方になり、アリスは神の台所へ移動した。
ご飯を作るためだ。
「今日は何にしようかな……。最近特に暑くなってきたから、つけ麺が食べたい。でも、魚介がないから流石に作れないよね~」
キッチンの作業台の前をウロウロしながら夕飯を考えていたアリスは、冷製パスタを作ろうと思いつく。
暑い夏にはちょうどいいと早速調理にとりかかる。
「まずは、麺から作ろう! 準備するのは強力粉、卵、塩、オリーブオイル」
皆が食べる量から考えて、かなり多めに用意して貰う。
キッチンにボールとヘラを用意して貰ったアリスは、ボールに材料を全て入れヘラで切るように混ぜて見せた。
「ぼろぼろになるまで、こんな感じで混ぜてね。後、トマト、バジル、にんにくの用意をお願い」
キッチンが混ぜてくれている間――と言っても数秒だが、アリスは見本を見せるようにトマトを二センチの幅でスライスして、角切りにする。
バジルは、そのまま手で全て契っておく。
にんにくは、芽を除いて薄くスライスする。
「じゃぁ、こんな感じで用意して貰ったの切って下さい。あ、ユーラン……トマト食べちゃダメだよー」
『アリス、ダメ~?』
「ダメ~。食べるならちゃんと果物用意するから、ユーランは何が食べたい?」
『ん~、ボク、今日は桃がいいな~』
「わかった。じゃぁ、キッチンさん、白桃を二つ剥いて、ユーランが食べやすい大きさで切ってお皿にお願いします」
『わーい。やったぁ~』
くるくると回って喜んでいたユーランの目の前に更に入った白桃が現れる。
キッチンさんはどこまでも優秀だなと、褒めたアリスは夕食の準備を続けることにした。
「もう一つボールをお願いします」
ボールをキッチンに出して貰ったアリスは、下ごしらえの済んだトマト、バジル、塩、オリーブオイルを手で混ぜ込む。
白く乳化してきたところで、これは冷蔵庫に入れ冷やしておく。
次に、麺づくりを再開する。
ぼろぼろになった生地を纏め、作業台に打ち粉をして体重を乗せて丸めようとするも流石に体重が足りないようで纏まらない。
そこで、キッチンに再び頼み生地を黄色くなるまでまとめて貰った。
まとめた生地を一六個に分けたアリスは、生地をひとつだけラップにくるむ。
そして、またもやキッチンさんにお願いして作業をやって貰った。
「ここから、生地を冷蔵庫で二〇分休ませて、出来上がったら打ち粉をして綿棒で厚さ一、二ミリ伸ばしてね」
あっという間に冷えた生地が出来上がり、そのまま平らに伸ばされた状態で作業台に乗った。
流石は早いと感心しながら、アリスは次の工程を一度だけやって見せる。
「まずは、打ち粉をして、三つに折りたたむ。そしたら、包丁で六ミリぐらいの幅で、切る! キッチンさんやってみてー」
まるでキッチンに教えているかのような気分になったアリスは、まるで先生のような口調でキッチンに告げる。
すると優秀な生徒であるキッチンは、アリスが瞼を瞬かせている間に全ての作業をすませていた。
これには流石のアリスも、乾いた笑い声が出た。
切って貰った麺を解し、打ち粉をまぶし終えたアリスは再びキッチンにお湯を沸かして貰う。
沸いたお湯に塩を適量入れ、麺を入れる。
数回かき回し、なべ底に着かないようにしたら麺が浮かび上がってきたところで、ざるに揚げ冷水で洗う。
そうして、出来上がった麺を冷蔵庫に入れておいたトマトソースに絡めれば、トマトとバジルの冷製パスタの出来上がりだ。
流石にこれだけじゃ足りないと考えたアリスは、追加でキッチンに厚焼き玉子とワイルドコッコの照り焼きサンドイッチを作って貰った。
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