第38話 フェリス王国編――初めての買い物
美味しい夕食のためアリスは、クレイとジェイクと共に市場に向かって歩いていた。
「美味しい魚があると良いな~」
「アリスは、魚なんて食べたことないだろ?」
クレイの突っ込みを聞いたアリスは、しどろもどろになりながら「だ、だから食べてみたいんだよ」と返す。
単純なクレイはアリスの言い分を素直に受け取る。
「あんなもん人間のくいものじゃねー」
「とりあえず、見てみたいの!」
肉スキーなクレイに何を言っても無駄だと悟ったアリスは、無理矢理会話を終わらせた。
そうして歩くこと十分、アリスたちは市場へたどり着く。
市場には、多くの人が歩いている。
その両サイドにテントのように上に布を張った屋台が並び、その場で食べられるものや野菜、果物、肉など沢山の食材が並んでいた。
そして、屋台からは活気ある声が客を呼ぶ。
「ふおぉぉ、市場だ!」
飛び跳ねて喜ぶアリスのフードを抑えたジェイクが「落ち着きなさい」とアリスを窘めた。
「アリス、手を離すんじゃないよ?」
「うん!」
「クレイ、アリスを見ておくように」
「わかった」
元気よく返事をしたアリスはジェイクの手をしっかりと握り市場へと入った。
「安いよ! 良かったら食べてみてくれ!」
洋ナシのような見た目の果物を出しながら店の店主が、アリスたちに声をかけた。
眼を輝かせたアリスは一つ貰う。
ぱくっと食べた白い果実は、洋ナシと言うより完熟した白桃だ。
舌触りはねっとりとしているのに、さっぱりと甘い。
これを使うならムースかな? などと考えたアリスはジェイクに十個買って欲しいと告げた。
「一〇個だね! 三つで銅貨一枚だから、一二個買った方がお得だよ!」
「では、一二個貰おう」
気前のいい店主は、ジェイクが一二個買うと言うと一つおまけしてくれた。
それにお礼を言いつつアリスたちは市場を進む。
主に肉関係が多いのか、三軒に一軒は肉屋だ。
良いにおいを漂わせる屋台では、串に刺した肉が売られ。
別の場所では、違う肉に香辛料をたっぷりとかけ、パンに挟んだものを売っていた。
それを買う冒険者の人が、受け取ったパンを美味しそうに頬張る姿にアリスもクレイも美味しそうと感想を漏らす。
市場の中ほどまで歩いてきた、アリスは欲しかった魚を見つけた。
握ったジェイクの手をひっぱり、アリスはせかすとその店を訪れた。
塩漬けにされた魚が樽に入れられて売られている。
見た目、鯖っぽいものやイワシ、鯉に似た魚があった。
「いらっしゃい。魚の塩漬けだよ!」
店主が顔を上げ、アリスたちを迎え入れた。
初めて見る魚の名前が知りたかったアリスは、しれっと鑑定を使う。
何気ない行動だったにもかかわらず、鑑定が美味しい食べ方を教えてくれた。
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名前 : シーマ・カレル(塩漬け)
材料 : 塩、シー・マッカレル
製作者 : ユリウス
備考 : 三日間、水につけ塩を抜く。
食べ方 : 塩焼き、煮込みに最適。
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塩漬けの魚なんて見たことがないアリスのために、鑑定が教えてくれたのだとアリスは感謝する。
そして、どうせ買うなら大量に購入しておきたいと考えたアリスは、ジェイクに確認することも忘れて店主に向かい「このお魚を樽ごと欲しいです!」と、告げていた。
アリスが言うなり店主とクレイは「え?」っと驚き、ジェイク苦笑いだ。
「アリス、流石に全部は多いんじゃないか?」
「んー。次いつ買えるか分からないし、このお魚をお煮つけにしたり、おにぎりの具にしたいからいっぱい欲しいの。ダメかな? おじいちゃん」
アリスの言うお煮つけが何か知らないジェイクは、ふむっと顎に手を当て考える。
が、基本孫バカなジェイクは、アリスがうまいというのなら買っておくのも悪くないと言う結論を直ぐに出した。
「すべて、貰おう」
「え、いいんですか?」
「あぁ、問題ない。アリス、樽ごとしまいなさい」
「うん!」
ジェイクが代金を店主に払う間にアリスは魔法の鞄に仕舞う振りをして、ストレージに樽をしまった。
塩漬けの魚の値段はなんと一樽あたり、大銅貨一枚だった。
値段を聞いたアリスは、え、安すぎない? と、不安になる。
だが、代金を受け取った店主はとても喜んでいた。
それを見たアリスもホクホク顔で、お礼を言うと店を後にする。
ジェイクと手をつなぎそぞろ歩くアリスの視界にまたも、珍しい店が目に入る。
土をつけたままの苗木が何本も並んでいる売る店だった。
気になったアリスは、ジェイクに「あそこが見たい」と告げ、手をひっぱる。
「アリス、あんな店に何の用があるんだよ」
既に買い物に飽きたらしいクレイが、つまらなそうに言う。
が、アリスにとっては大事なことだ。
何故ならルールシュカからもらったスキル:神の箱庭には、新しい果物の苗や薬草を植えることが出来るのからだ。
新しい物が手に入ったら植えてみてねと言うルールシュカの伝言もある。
ならと、アリスは新しい苗を手に入れることにする。
「いらっしゃい」
「あの、この苗木はどんなものが成るのですか?」
不愛想な店主は、アリスたちをチラッと見ると椅子に腰を下ろした。
そんな店主にアリスは、果敢に質問する。
「それは、アンガツの実がなるよ。その隣は、精霊木だ。その隣は、マツゼンの実……」
ひとしきり説明を聞いたアリスは、何が何だかわからない。
そこで、アリスは再び鑑定を使う。
アンガツって渋柿みたいなもので、魔力回復材の材料だった。
精霊木は、名前の通り精霊が好む木で、こちらも魔力回復材の材料と出ている。
マツゼンの実は、松の実。用途には、薬の材料と出ていた。
なるほどと、アリスは納得する。
そして、アンガツの苗木を一つ買ってもらった。
お値段はなんと苗木一本銀貨一枚。中々に高い買い物だ。
「さて、次はどうする?」
「ん~。欲しい物はもう手に入ったから、帰ってご飯つくろうかな~」
「お、アリス、皮製品扱ってる店があるぞ!」
突然クレイに手を握られたアリスは、そのままクレイに引っ張られて皮製品を扱う店へ連れ込まれた。
この店は軒先に日差し除けの布を張っているちゃんとした店で、店内には冒険者だと思われる男性や女性が物を品定めしている。
「ほう、ここの皮は中々いいな」
「だよな。これなんかすげーいい感じだよ!」
冒険者向けの皮製の防具やバックなどが、所狭しと並んでいる。
それを眺めなたアリスは、この世界のバック事情を考査する。
この世界に来て見たバックは、紐の長いショルダーバックか、縦長で筒状で口を紐などで絞って締める担げるタイプのダッフルバッグのどちらかだ。
確かに長期間旅に出る場合、容量が大きい方がいいとはいえ、戦う時に手がふさがるのはいただけない。
それなら空間魔法を付与したボディバックやリュック、メディスンバックのほうがいいはずだ。
「バックか、作ったことないけど……試しに作ってみるのもいいよね! 作るなら布より皮がいい。あぁ、でも中には布が欲しいな。とりあえず、買っておこうかな……」
鞣された皮の前で考え込んでいたアリスは、鞄を作ろうと決心した。
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