第2幕 それぞれの想い

清盛君、それで、あなたは何を思って福原(現在の兵庫県神戸市)に港を作ったのです?


清盛「さっきも言ったが、日本の国土は狭い。資源も限られている。それに、経済も物々交換が主で、外国との差が歴然であった。わしは、大宰府も統括していたからよくわかるのじゃが、外国はすでにもう、通貨、つまり金じゃな、これによって経済活動が行われていた。このままでは、諸外国に経済面で到底追いつけぬ。そこで、大宰府どまりだった大陸の貿易船を瀬戸内海まで導き入れ、宋銭を大量に輸入して、通貨経済の基盤を作った。これによって、我が国の経済は飛躍的な進化を遂げた。幸い、奥州では砂金が豊富に採取できたので、これを元手とした。大輪田泊(現在の神戸)や音戸の瀬戸(呉への航路)などを整備し、海難事故を鎮めるため厳島神社(広島県)も建立した。」


なるほど。あなたはすでに海外、つまり、世界を見ていたと。


清盛「まぁそういう事じゃな。天皇家やら東国の坂東武者らは世界から遠ざかっており、世界情勢など知るすべもなかったからな。わしのやってる事なぞ、自分勝手な道楽としか見えんかったのじゃろう。」


「神戸っていやぁ、おれの海軍操練所もそこにあったぜ?」


唐突に口をはさんだのは、坂本君だね?


龍馬「神戸はいい港だったよ。そうか、その元を作ったのはあんただったのか。おっさんも船が好きかい?」


清盛「なんだこの若造は。無礼な奴だな、おっさん呼ばわりとは。少しは敬意ってものをだな……」


龍馬「はは、すまないね。おれはそういうの苦手でね。で、船は好きか?」


清盛「船はいい。いろんなものをもたらしてくれる。大陸から取り寄せたものの中で、一番のものは書籍じゃ。わしの知らないことをたくさん知ることができた。我が国もそのうち海の向こうの国々と広く交わるときがくる。そのためにも、交易を重ね、情報を仕入れ、準備する必要があると考えたのじゃ。」


龍馬「まったくもって、そのとおりだ。日本の国は狭すぎる。地球儀ってやつは知ってるか? 勝(海舟)せんせーのとこに初めて行ったとき、そいつを目の前に置かれて、こんこんとお叱りを受けたのを今も覚えてるぜ。世界はこんなにも広いんだ、こんなちっせぇ国の中で、倒幕だ、攘夷だってばかばかしいとおもわねぇのかい、ってな。」


清盛「ほほう、お前の時代にも、世界を観てたものがいたんじゃな。その通りじゃ。」


信長「それは俺も感じておった。海外は日本のとんでもなく先を行っておる。それはおそらくいつの時代もそうではないか。俺も、海外となんとか渡り合える国に作り替えねばならんと思っておった。そのためには、手段を選んでいる場合じゃなかった。早々に日本をまとめ上げ、海外の列強と渡り合える国力をつけねばならないと、そう思っておった。」


大久保利通「私は、明治維新のごたごたが片付いたのち、ヨーロッパへ渡った。先に行っておった者たちから、欧米列強の産業の進歩の目覚ましさを聞かされていた。伊藤君も、一緒に行った。」


ですね、日本の現状とのあまりの技術的な差に途方にくれたのを覚えています。


利通「日本の国内ではいまだ、武士だ、なんだと騒いでおったが、そちらの方は、吉之助さぁ(西郷隆盛)に任せておいて、大丈夫だと考えていた。それよりも、日本を新しい近代国家にするために必要なものが何かを見ておかねばならないと思っていた。」


西郷「……」(まだ寝ている。)


利通「結果として、収穫はあまりあるものだったが、吉之助さぁとの溝は修復しようもないほど深いものになっておった。」


龍馬「おれが死んじまってからも、争いは終わらなかったんだねぇ。」


利通「坂本君には、申し訳ないことをしたと思っている。あれは、いわゆる手違いだったのだ。」


龍馬「いやぁ、まぁいいさ。仕方がねぇよ。俺を襲ったのが誰かなんてのはいまさら聞きたくもねぇしな。俺を狙ってるやつぁ、そこら中にごろごろいたんだ。警戒もせずにいた俺の自業自得ってもんだし、それも俺の生き方ってやつさ。」


ところで、龍馬さんは何がしたかったんですか?


龍馬「おれぁ、船が大好きなんだ。維新とか新政府だとか、どうでもよかったんだ。そんなのは、(後藤)象二郎にやらせておけばいいってな。あいつは、俺の話なんぞをもとに大政奉還を成し遂げやがった。おれには、だれがやろうがどうでもいいことだし、早く、自由に世界と商売がやりたかったんだよ。その件については、亀山社中も象二郎の命で(岩崎)弥太郎が受け継いでくれたらしいし。まぁ大方は俺の思うようになってるしな。」


岩崎弥太郎さんは、その後、三菱を築きましたね。


龍馬「あいつぁ、あまり好かなかったが、商才は群を抜いてたしな。俺の想いは形は変えたが、世界と交易するという目的は達成できたようだしな。」


西郷隆盛「ほんなこつでごあす(本当にその通りですという意味らしい)。おいは、新政府が新しい近代国家に作り替えるというときに、もう武士の時代は終わりだとおもうちょりもした。そいが(それが)一蔵どん(大久保のこと)に対する士族の不満がもう抑えきれんところまできちょりもした。こんままでは、また、新政府軍と旧士族の争いが始まりかねんとおもうた。おいは、その旗頭としてちょうどよいとおもわれちょりもした。こんままでは、旧士族に担がれ、一蔵どんと争わんといかんなる。そいで、おいは新政府を去ったんじゃ。」


西郷さんは、征韓論も唱えておいででしたね。


西郷「あい(あれ)は、一時的にでも旧士族を維新政府から引き離すためとおもうてのこと。本気ではありもはん。その証に、おいが一人でゆく言うておったんじゃがな。そこで、死ぬればそいはそいでよかった。むしろ、おいが居なくなる方が旗頭を失った士族も新政府に従うしかなかろうとも思うちょりました。」


利通「じゃっどん(でも)、そいはできん! 吉之助さぁにはまだやってもらわんといかんかったことがあったんじゃ!」


西郷「一蔵どん、おはんの言うことも、わかっちょった。じゃっどん、結局はおいがいんでも、どうにかなったじゃありもはんか。」


利通「そいは……。おはんが士族に終わりを知らしめてくれたからでありもはんか……」


西郷「そいでよか。そいがおいの使命ちゅうもんじゃ。おいはまっこと充分に働かせてもらいもした。後悔どころか、すがすがしい気持ちでいっぱいでごわんど。」


そういって、西郷はまた眠ってしまった。


武士の面々が、寝入る西郷の顔をまじまじと見る。この男が最後の武士であったかと。


「ふぅむ。いささか、武骨なお人ではあるが、その意気やよし。後世にもこのような人物が現れているのだから、今後の日本もどうにかなるのだろうな。」

聖徳太子が久しぶりに口を開いた。


太子「そなたらの想い、しかと、後世につながっておるのだろう。残念ながら、人と人は所詮は口で語り合わねば分かり合えぬもの。そうして語り合ったとて、その心うちは、やはり、見えぬもの。しかれば、その行動をもって、後世の者たちがいかに解釈し、その想いをおもんばかるか。それにかかっておるということだ。」


お? おっと、しっかりまとめられてしまったぞ? 俊輔よ、しっかり締めなければ初代内閣総理大臣たる威厳も何もないぞ?


あ、えっと、みなさん、今日はお集まりいただいてありがとうございました。まだまだ、言いたいこと、話したいことはおありだと思いますが、そろそろお時間ですので、締めさせていただきます。


ちなみに、私も皆様と同じようにここに呼ばれた者の一人でして、呼んだ当事者は、遠く離れた時代に生きている者です。


最後に彼からの質問を、よろしいでしょうか?


『最後に一つ、願いが叶うとしたら、何をお望みになりますか?』



……。



全員「お前の時代に生きてみたい!!」









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