虚光が望んだ虚構

 「……残光のみんな…倒されちゃったか…」夜明け前の残月…その弱々しげな光に照らされた無人の荒野に目をやり、光が呟く。




 「………また……独りになっちゃった………」




 その声は吹き荒ぶ風にかき消され、真白の耳には届かなかった。


 「……この技を使う時が来るなんて……思わなかったよ……」光はおもむろてのひらを天へと向ける。




「輝劇終幕……うつろのひかり




 光…残光の名残が…二人を取り巻くあらゆる光が、白い髪の少女へと集まってゆく…


 「これが…僕の正真正銘、最後の技だ。」彼女の右手に集約した、神々しい程にまばゆい光の剣…それは皮肉にも、闇を照らす希望の光にも見えた。


 「……」黒い髪、黒いまなこ…そしてその身体に黒い激情紋様を浮かばせた真白くろが、その左手に握られた黒刀を構える。陰影が…残存する夜の闇が、彼女の刀へといざなわれてゆく……




 「影芝居……無影むえい無踪むそう…」




黒刀を更に黒く塗り潰そうと、陰影が直線の形をとって刀身を循環している…その様子はまるで、刀の柄からきっさきへと、墨の雨が降っているかのようだった。


 純白と漆黒、両者の視線が交差し、そして………




 光と影がぶつかり合った。




 山の一部は完全に崩落し、木々や草花が吹き飛ばされている…風光ふうこう明媚めいびな色橋の山、そしてそのふもとに架かる橋は、最早跡形もなくなっていた…そしてその荒地に倒れているのは…黒髪の少女。


 「ぐ…ごほっ!!」傷だらけの体を折り曲げて激しく咳き込む真白くろ…ゴボリと音を立てて吐血する彼女の前に、急に何かが現れる。


 「!!!」


真白は疲れ果てた身体に鞭打って、黒刀を握りしめ眼前の光を見上げる。「……」光はそんな彼女を見下ろし、そして…




 




 目を見開く真白くろ、唖然としている彼女を見て光は口を動かす…しかしその口端から血が漏れるだけで、言葉は声にはならない…




 (……そんな顔…しないでよ……)光の意識が遠のく。




 (君が大嫌いな僕が死ぬんだよ?だからさ……)闇夜に散る鮮血、彼女の視界が暗く閉ざされてゆき………




 (お願いだから……笑ってよ……………)




 「無事かい真白?」倒れている黒髪の少女に声を掛けたのは、同じく黒く美しい髪をもつ「楽しみ」の具情者、緑楽血染だ。「………」血染は近くに倒れている、もう動くことのない白い髪の少女に目をやる。「やったことにしちゃ…随分と呆気ない幕引きだったね…」そう言いながら、彼女は真白を抱き抱えようとする。


 「ありがとう血染さん…でも大丈夫、一人で歩けます…」髪と目が白に戻った真白…情力により癒えた傷をさすりながらゆっくりと立ち上がり、光の方へと歩いてゆく…近くにあった黒刀が、役目を終えて彼女の影に沈んだ。


 「……」真白は足元に投げ出された光の手を見る。一つの大都市を壊滅寸前まで追い込んだ…そんな組織を束ねていたとは思えない、華奢きゃしゃで綺麗な手…


 「……こんな結末しか…有り得なかったのでしょうか……」真白が苦い表情で呟く。


 (…最後の最後まで憎らしいやつだ…結局この手で葬れなかった、この外道めが…!)


 真白の心の中、唯一目覚めている黒が呪いの言葉を吐く…しかしそれが光の耳に届くことは永遠にない。朝焼けの日射しが、白い髪をもつ二人の少女をじわじわと照らし始めていた………

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