第三章:色橋揺乱編

屋上での遭遇

 「…にしてもいいよねー、使える情力が六つもあるなんて。」電波塔を情力で登りながら韋駄天が言う。


 「まぁ便利と言えば便利ですが…大変ですよ、記憶は抜けるし、自分の分身が現れるし。」真白は軽く笑いながら冗談を言う。


 「ははっ、そうだったね。ま、それはそれで楽しそうだけどさ。」緑色の目を愉快そうに輝かせながら、韋駄天は手掌しゅしょうで足場の鉄を操作する。


 (真白…たくましくなったよなぁ…いや、これが本来の真白なのかな…?)横目で真白を見る韋駄天、その目はまるで、成長した子を見るように優しかった…だがそんな彼女に、真白は気付いていないらしい。


 「そろそろ屋上です……韋駄天さん…」「うん…多分だけどこの情力…真白と…いや、黒と同じ…」「「憎しみ」…十中八九そうでしょうね…」真白が重々しく同調した。




 タンっ、と音を立てて屋上へと降り立つ二人。その眼前に控えるは、三人の少女達。


 「…肌触きふれ、あの子達が?」「えぇ、侵入者さん…あらぁ?二人とも可愛い顔してるわねぇ~、食べちゃいたいくらい!」黒髪の子と金髪の子が会話をする…特に金髪の方は、やけにつやっぽい視線を二人に送っていた。


 「八重やえ、下の人形達がやられたみたい…見に行ってくる…」


 「あなたのゴーレムを?…そう、用心しなさいよ。」八重と呼ばれた黒髪の少女は、銀髪青目の少女、泥濘でいねいを、目を合わせずに気遣う。


 「…ゴーレムじゃない、人形…間違えないで…」不満げな表情を見せた彼女だったが、すぐさま情力を使って土を操作し、人くらいの大きさのゴーレムを瞬時に生成した後、それに乗って下へ降りていった。


 「んじゃ、あたしは茶髪の方をやるわね、白髪の子はあんたに任せる…彼女、かなり特殊な具情者っぽいから、あんたといえど気をつけなさいよ〜…」そう言ったサイドテールの子、こころは二人に声を掛ける。


 「そこのお二人さ〜ん!聞こえてたでしょ〜?ほらほら、茶髪のあなた、場所変えるわよ!こんな狭い所じゃ満足に戦えやしない!!」心は韋駄天を手招きする。


 (…従った方が得策かな?あの黒髪、あっちが「憎しみ」の具情者だろうけど、真白もかなり情力を使わないと太刀打ち出来なさそうだし…ワタシがいない方が巻き込みを気にせず戦えるか…?)一瞬の思考ののち、「いいよ、その提案乗ったげる!」明るくその申し出に応じた。


 「…真白、本当にヤバくなったら分情達に頼るんだよ…彼女達はみんな、キミの味方なんだからね…!」そう言い残すと、韋駄天は心の方へと向かっていった。


 「八重、目ぇ閉じてなさい!」心に言われた通りに八重はまぶたをおろし、心は屋上を蹴って夜の闇へと飛び込む。韋駄天は情力を「喜び」の「韋駄天」に切り替え、強化された脚力で彼女を追いかけて行った。




 「肌触、下の階に避難してて頂戴、彼女のお相手をするわ…」八重は肌触に言い、頷いた彼女はぱたぱたと階段を降りてゆく。


 「お待たせしたわね…私の名は烏丸からすま八重やえ…まぁ、あなたが知るのは名前だけでいいかしら…」黒い目を再び開けた八重、夜風に彼女の美しい黒髪がなびく。


 「傘音かさね真白ましろです、あと名前以外にも教えてもらうことがあります。昼の騒動…あれはあなた達の仕業ですか!?」


 八重は何も言わない。


 「答えてください!あれはあなた達がやったんですか!?」


 ……静寂、風の音だけがその場に響く。


 「…てめぇらかって…聞いてんだろうが!!」


 真白の髪と目が赤く染まり、彼女の周りから水が溢れ出す…真白の怒りの分情、赤に真白の体の支配権が移ったのだ。「水鉄砲!!」その水が集まって球となり、そして八重目掛けて撃ち放たれた…しかし…


 「…どういうことだ…!?」真白あかの攻撃は外れた…いや、正確に言えば。水球はまるで、上から何かで押さえ付けられたかのようにバシャっと音を立て、地面に飛び散ったのだ。


 「温情よ、一度だけ警告してあげる。この水みたいになりたくなければさっさとここから消えて。」八重は地面を人差し指で示す。


 「……」真白あかは少し考え込んだ後、目を閉じる……



 「黒、交代だ、あとは任せる。」心象世界の中、赤は「憎しみ」の分情である黒を呼んだ。「彼女の情力…赤は何だと思った?」その黒が逆に質問をする。「…ま、正直分からねぇってのが本音だが…情力そのものに作用する情力か、或いは…」「或いは?」赤は眉間に皺を寄せる。「…この世のことわりに関わるもの…かもしれねぇな…」

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