路情

 夕暮れ時。


 再集合した彼女達は真白の感情、その分身が通っているという高校へ向かっていた。


 「真白の「喜び」の感情かぁ、一体どんな感じなのかなぁ…」


 バスに揺られながら韋駄天が呟く。「「喜び」だけの存在やろ?こいつよりやかましいんとちゃう?」焔が親指でその韋駄天を指し、茶化しながら瞳に言う。


 「どうでしょうね…ともかく彼女が具情者である可能性は極めて高いし、加えて私達に好意的であるかどうかも分からない…用心するに越したことはありません。」思案顔の瞳だったが…「あ、そうだ言い忘れていました。皆さん、には…」


 その瞬間、轟音が鳴り響いた。


 「何や!?」焔が窓の外を伺う。


 「あっちから聞こえてきたかな…おや、まさに今あたし達が向かってる方じゃないか、ワクワクするねぇ…」血染が笑みを浮かべながら音のした方向を見やる。


 「どうやらここからは走った方が良さそうですね…皆さん、バスを降りましょう。」


 瞳の指示に従い、真白達は緊急停止したバスを下車して学校を目指す。しかし再び、今度は別の場所から爆音が聞こえ火の手が上がった。


 「うわ、あっちもか!瞳、済まんけどうちはあっちの様子を確認してくるさかい、あんたは真白達と一緒に目的地に向かっといてくれ、すぐに追いつくから!血染、悪いけどついてきてんか!」


 そうまくし立てた焔は情力を発現し、火をロケット噴射のように足の裏から放出させて音のした方へとすっ飛んでいった。


 「やれやれ、せっかちな子だねぇ…まぁいいや。瞳、そういうことらしいから後で合流しよう。」そう言って血染は焔を追い掛けるべく、大きく跳躍した。


 「真白さん韋駄天さん、行きましょう。」残された瞳達もすぐさま走り出す。


 「…そういえば瞳さん、さっき何か言いかけてませんでしたか?」道路から森に入った真白達一行、移動の最中に真白が瞳に尋ねる。


 「あぁ、途中でしたね…では走りながらで申し訳ありませんが…」前置きも程々に、瞳は二人に説明し始める。


「情力が強い感情に起因していることはもう大丈夫ですね?」二人は頷く。「しかしそれは、今この世に存在する者の感情による現象です…では…の感情…その行く末はどこか…?」「亡者の…感情…!」韋駄天は思わず息を呑む。


 「そう。亡者の感情は、果たしてその魂と共に冥界へと旅立つのか、それとも……」だが、その続きを聞く機会は訪れなかった…、いや、…まさにその「答え」が姿を為し、彼女達の前に現れたからだ。


 「…百聞は一見に如かず、あれがこの世に留まりし感情、強い残留思念…その成れの果てです。」


 瞳達は、人の形をしていながら人とは全く異なるモノをその目にしていた。成程形は人のそれだが、その感じは、いわば「シルエット」だ。まるで影が実態をもったかの様にユラユラと輪郭りんかくが波打っており、はためく布の様にも見える。その存在から表情をうかがうことは叶わず、唯一その両目だけがはっきりと、そして爛々らんらんと輝いていた。

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