探曲小説

@hikarinoyomi

ショータイムは華やかに

試合開始の鐘が鳴る。あざやかに、そう、自然に、見えた景色を思い出す。

 目を閉じてすぐ、変わらなかったはずの世界ゆめが、赤く赤く、赤く染まって、そんな情景をすっと、自分の胸の内に落とし込んだ。

 嗚呼、くだらない。 滑稽な世界も。この高鳴りも、実際は開演しなかった舞台イマジナリー


眼を開く。粉雪がまばらに舞い落ちているのを眺めて、マイクは思う。

「…、気持ちの悪い紙吹雪だな」

 悪態をついた。マイクの知っている紙吹雪と、この降り続ける雪を同一視したところで、胸の中の突起にさらに嫌悪感がつっかえるだけなのはわかっているのだが、意識を向けてしまうのは仕方のないことだ。

ただ等間隔に降っては、地面に溶け消えるわけでも、僕らの衣服に染みこむわけでも無いこのを、嫌なものだと結論にしておくことが精一杯だ。

 近くの暗号機の記憶を手繰り、もう何度目かの舞台を頭の中で思い描く。

 といっても、開演たいけんしたことは覚えていても、起こった演目できごとはわからない。

 腰に揺れる三つの球を確認しながら、無造作に置かれた機械に手を置いた。


「ハンターが近くにいる!」

聞こえた。見えるわけでも無いのに、本当に鳴っているかもわからない声が。

 この声は彼女だ。忘れない、忘れるはずがない、彼女の声。

 胸騒ぎを抑えるように空を向き、彼女の残像を頭から振り払う。

 演じよう、大丈夫だから、ここは舞台の上、僕はマイク・モートン。

 ノイジーサーカスの、一人の、そう、聞こえないだけで、今周りには多くの拍手喝采が鳴り響いている。そう。そのはずだ。

 きっとこの舞台の考案者も、役に自分の考えがあるなんて誰も想像つかないでしょう?人々の笑顔はいつも僕を喜ばせ、賑やかな雰囲気はどんな不安でも解消させた。


そう、笑っている。 みんな、笑ってるはず。

 今から始まるのは愉快なショー。もっともっと、愉快なショーを。

 白い作りかけの球体を大事に持ち替え、くるっと、格好をつけたように振り返る。刹那。

 ___ガッタン


 ぽつんとした暗号機の光ステージライトが、暗い雪の降るレオの思い出ステージに立つ、曲芸師に降り注ぐ。

 マイクは腕を大きくふりあげ、お辞儀してみせた。見えない観客プレイヤーに向かって。そしてこう口を開く。


「主催はマイク・モートンでお届け! 甘いひと時にご招待するよ!! う~、イッツショータイム!」



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