クルエル・フィールド
ラクレット
世界最大の武装組織
2009年2月11日午後2時57分。
都内。帝都ホテル。昭和元年創業の由緒ある高級ホテルだが、戦時中に空襲で焼失して建て直し、さらに6年前の大がかりな改装工事を経て、今では老舗の雰囲気を全く感じさせない近代的な半透明のガラス張りの13階建てのビルとなり、その下には宿泊客以外も利用できるカフェを兼ねた温室植物園と、創業当時の洋館を意識したエントランスがある。
そのホテルの地下1階の大ホールでは、棘の蔓によって正方形に縁取られた薔薇模様が並ぶ、煌びやかだが硬いカーペットの上に置かれたパイプ椅子に、日本のみならず諸外国から集まった無数の記者が座っている。天井にはウエディングケーキのような巨大なシャンデリアが出入り口から壇上にかけて、縦に4つ並んでいる。万一にでもこれが落下しようものなら真下にいる人間はまず助からないだろうが、現実に下にいる記者はそんなことは微塵も考えていないようだった。
そのシャンデリアも明かりは今は消されており、左右の照明が間隔を空けて点々と照らされているのみで、広々とした部屋は全体的に薄暗く、記者の中にはメモ帳に唇が触れそうなくらい顔を近づけてペンを走らせている者もいる。
この大ホールに集った世界中の記者達は、ある人物の到着をそわそわと待っていた。規定の時刻まで残り数分であるが、それが彼らには一日千秋のように感じられた。日本人記者が眠気覚ましのタブレット菓子を噛み砕きながらぼんやりと呟いた。
「世界最大の武装組織の幹部か……はた迷惑な連中だ」
日本列島最北の青森県から海峡を挟んだ先にある、広大な面積の島。日本側の呼称は北海道。その領有権を主張している自称軍事国家『マチリーク・アルミア』は、日本はおろか国連加盟国全てから国として承認されていない。
だが、この『軍事国家』は、世界に幾つか点在している国家を自称するお遊びグループとは明確に違い、500万を超える文民と各種インフラ設備に独自の文化、そして世界第10位内にも入ると噂されるほど強力な軍事力を誇っていた。
その武装はもはや反社会勢力の範疇を遥かに超え、ヘリコプター、戦車、潜水艦に軍艦まで複数所有し、国内にはそれを製造する巨大な兵器廠を持つ他、更にダメ押しにマチリーク領内には鉄鉱石と石炭の鉱脈が幾つもあり、小規模だが油田すらもあった。
そんな危険極まるマチリークは、幸か不幸か外部の干渉を一切拒否しており、かつては国連軍のヘリコプターや巡洋艦を海に沈め、一般人にも例外なく攻撃的で、許可なく上陸した日本人を集団でリンチし、近くを通りかかっただけの貿易船が砲撃される事件もあった。
極めつけは、海上保安庁の巡視船も恐れて来ないのをいいことに、彼らが領海と呼ぶ海域で麻薬取引をしていたロシアンマフィアとヤクザの船を襲って両方撃沈し、海を漂う生き残りを拉致すると、見せしめとして彼らを廃棄物処理のライオンシュレッダーに生きたまま放り込み、生きながら肉片に変えた。
そして残った最後のヤクザに日本語で「私は虫以下の腐った犯罪者です。世界に悪臭をばらまいた罪を清めて頂くためにこれから私はミンチとなります」と言わせ、彼だけは音読の褒美に射殺されてからシュレッダーに投げ込み、最終的にその髪や衣類の切れ端が混じった肉片を軍用犬に食わせる様子を収めた映像を動画サイトに投稿したことまであった。
何も語らず日本を含め他国の呼びかけにほとんど応じない癖に問題は多く起こすことから、マチリークは閉鎖的かつ凶暴な組織というのが世界全体の認識だった。だが、それらは過剰だが単なる防衛としての攻撃行為であり、彼らの方から他国の領土に攻撃を仕掛けたことは今現在ない。また、ヤクザを始め各国の犯罪組織とは関りが一切ないことはCIAも認めている。
後ろ盾もない武装組織ながら小国なら容易く捻り潰せる軍事力を持ち、それでいてこちらから仕掛けなければ大人しい。だからこそ目を付けられたらどうなるか想像もつかない。
静かだからこそ底の知れない残酷さ。『クルエル・フィールド』いつしかマチリークは世界からその名で恐れられ、後に独裁者により大量虐殺が行われたカンボジアの処刑場はパロディで『キリング・フィールド』と呼ばれた。
そんな『クルエル・フィールド』だが、近年は気味の悪い穏健路線を図り、近づいてきた民間人に対しても無線とサイレンによる警告と、それが無視されても威嚇射撃で済ませて追い返すなど、島内でも多少の変化が生じていることが報じられていた。
そこに来て、突如としてマチリークの幹部が組織としての意思を表明するため来日したのだ。噂のみが先行して、その実態はほとんど不明の武装組織の幹部とはどのような人間で、また何を語るのかに世界は色めき立ち、集められた記者はその者が登壇する時を今か今かと待っていた。
「来たぞ」
誰かがそう呟いた途端、失明せんばかりに大量のシャッターが切られ、壇上の席を映す獣の眼のようなテレビカメラから日本中の液晶に届けられた映像には、シャッターの点滅に注意する旨のテロップが表示された。
登場したこの会見の主役である男も実際眩しいようで、不快そうに顔をしかめて着席し、朱色のテーブルクロスが敷かれたテーブルに両手を組んで置くと、唇を舐めて濡らした。
日本人の女性スタッフが彼が話しやすいようにマイクの位置を調整すると、彼は一言礼を言って軽く頭を下げた。そうしてから、集った記者連中を目を細めて値踏みするかの如くギョロギョロとそんな音が聞こえそうなほどに見回した。まるで刺客が紛れ込んでないか目を光らせているように。
出入口の横に設置されたこの会見を映したテレビにテロップが表示される。
マチリーク軍外務部トップ『外務卿』 アンドレイ・ジェスタフ氏。
大層な肩書の割に、やってきたのは30代前半くらいの男性だったので記者達は意外に感じた。ジェスタフは細い白線の入った漆黒のスーツとラム革のベストを着込み、白髪に黒髪が混じった長い銀髪を後頭部に流し、そして刃のように鋭く乾いた目付きのいかにも冷徹そうな印象の男だったが、中々にマダムキラーな顔立ちでもあった。
顔つきを見るに白人だが、マチリーク人は先述のヤクザをミンチにした時にも分かるように標準的な日本語を淀みなく話す。そのため日本語に明るい白人やハーフを疑いの眼で見る人間が世界的に問題となっている。マチリークの尖兵と思われるからだった。
各国の主要メディアの記者が彼と名刺を交換しようとしたが、警備員によって静止されていた。ジェスタフの方は老いた日本人女性の通訳と座ったまま笑いもせず握手をしていた。
遅れて、書類を抱えた秘書と見られる彼と同年代の美しい女性が隣に座った。ジェスタフは秘書と目を合わせて小声で幾つか会話をすると、彼女から渡された書面に数秒目を通して頷いてからマイクに顔を向け、記者らの全員が黙るまで待ってから口を開いた。
「私はマチリーク軍外務卿のアンドレイ・ジェスタフと申します。この度マチリーク軍特使として貴重な会見の機会を設けて頂けたことを心から嬉しく思っております。まず初めに、海外のメディアの皆様に対して説明が遅れたこと、また今まで我々の攻撃行為により被害に遭われた、あるいは恐怖を感じられた全ての方々に深くお詫び致します。我々には国民を侵略から守る務めがあったのです」
彼は真横に日本人通訳がいたにも関わらず、強い日本語鈍りではあるものの流暢な英語でそう謝罪の言葉を述べた。こうした会見に臨むことに慣れているのか緊張している素振りは全く見られない。それどころか、手入れの行き届いた白い人差し指にはめたトルコ石の指輪を眺める余裕すら見せている。
「事前に書面でお伝えしましたが、誠に勝手ながら警察の方から会見は20分と要請されており極めて短時間ですので、大元帥に代わって私が語るべきことは皆様から賜った質問の中で並行してお答えさせて頂ければと思っています。では質問のある方は挙手を……。はい。そこの真正面の水色のシャツの方」
ジェスタフはそう言って黒人の記者を指名すると、すぐさま日本人のスタッフがその記者にマイクを手渡した。この日本人はホテルの従業員なのかなと記者達は当初見ていたが、恐らく私服の警察官だろうなと今は思っていた。背広の脇の下が膨らんでいる。
「アメリカのクロック誌のハワードと申します。まず、今まで外部と交流することを避けるばかりか武力行為すら厭わなかったあなた達が、何故今になって釈明の会見を開く気になったのですか?」
「我々についての誤った認識が世界で共有されつつあることを、由々しき問題であると判断したからです。 我々が近寄るものに攻撃を加えてきたのは、そうした誤解に無抵抗では国民に危害が及ぶのではないかと危惧したからです。
しかし、そうした行いが誤解を確信に変えつつあることは我々としても本意ではありません。我々がいくら民族自決を唱えようと世界的には私達は日本国の領土を違法占拠する武装勢力と見られています。それ自体我々の行いによる因果応報ですが、これからを生きる子どもにこの問題を押し付けるわけにはいきません。私がこの会見を開いたのはそれが理由です」
ジェスタフはそう言うと、次の方どうぞと言った。
喉が渇いたのか目の前のミネラルウォーターのペットボトルを手に取ったが、毒を気にしたのかラベルを剥がして不自然な箇所が無いか撫で回してから開けて飲んだ。
「次の真ん中の右から5番目の席の方、どうぞ」
「韓国、ソウルジャーナルのユンです。今までマチリークと接触を図り、死傷した民間人は日本人のみで44人、全体では100人を上回り、内1人は韓国人です。先ほど誤解に対して無抵抗では国民の命が危ないという旨のことを仰っておりましたが、失われた他国の人命についてどうお考えなのか、ジェスタフ外務卿ご自身の意見を我々に披瀝して頂けると幸いです」
ジェスタフはいくつか韓国人記者の韓国語訛りの英語が聞き取れなかったのか、通訳の言葉に耳を傾けつつ凄まじい速さでメモを走らせていたが、その字は心電図を彷彿させるほど汚かった。多分、本人にも今しか読めない字だろう。
相当頭の切れそうな男だというのはやってきた時に推察できたが、派遣された男はマチリークの悪評から想像していたような粗野で血に飢えた防弾チョッキを着た軍人ではなく、洗練された官僚風の男だった。おまけに護衛を一人も付けていない。無抵抗の意思を示すパフォーマンスだろうか。
どう取るべきか迷うが少なくとも期待を裏切られた記者らだったが、むしろこの不穏な武装組織が体系化された高度な集団であることを悟り、少なからず興奮を感じた者もいた。ここまで大きな組織だと、もはや疑似家族制度に暴力と恐怖による支配だけではやってけないというのを弁えているんだなと、ある東欧から来た記者は思った。
「それはお気の毒ですね。しかし考えてみてください。呼び鈴も鳴らさずに塀を乗り越えて他所の邸宅に入っておいて、家主がその人をもてなすと思われますか? 私はそうは感じません。
そうした行為が近隣諸国の皆様の恐怖を煽ったことには私も心を痛めております。しかし、自衛として致し方なかった部分もあることはご理解を賜りたいと思います。
また少なくとも、日本国との交渉を任されている外務卿のこの私が知る限り、接触を図った方で事前に軍に上陸許可を申し出た方は1人としていなかったこと、我々に対して必ずしも友好的でなかったことも考慮して頂きたいと思います」
韓国人の記者が憤然とした顔つきで立ち上がる。
「その言い方ですと、失礼ながら外務卿ご自身は亡くなられた方達は死んで当然だったと言う風に感じられるのですが」
「そうですね。私は一児の父です。私は家族を愛しているので亡くなられた方がもし我が子だったら当然悲しみ、怒るでしょう。しかしそうはなっていません。この件について、私自身は他に何を語るべきでしょう?」
ジェスタフが早口でそう吐き捨てるように言い終えた時、横にいた秘書が彼の肩を叩いて、怒ったような顔でジェスタフへ何かを言うと、彼は少し考え込んでから再びマイクに唇を近づけた。
「思慮を欠いた発言だったことを謝罪します。被害者の方々には心からご冥福をお祈り申し上げますと共に、このような悲しい事故が二度と起きないよう務め、誠意を見せてゆく所存でございます」
彼が数秒黙ったのは永遠に戻らぬ人命を悔いたわけではなく、単純に形だけの謝罪をどう述べるのか脳内で文章を作っていただけだろう。他人事だという本心が容易に見て取れた。
「DBCのカトウです。なぜ、閉鎖された国であるあなた方があれほど強力な銃火器を保有しているのですか?
また、あなたは昨日このホテルに入った際にシュマイザー短機関銃を持たせた3人の護衛を随伴させていましたが、特使といえど日本としても国際的にもあのような無許可の実銃の携行は許されないと思うのですが、いかがですか?」
「銃火器の保有はあくまで我々が国土と国民を守るためであり、あなたの国アメリカや日本と戦争をするためではありません。我々としても銃を手放せる日が来ることを願っています。
そのために我々を正式に国として認めて頂き、日本政府や諸外国の承認を得て国連に加盟するために私は来日したのです。続けてよろしいでしょうか?」
「はい」
ジェスタフは水を飲みながらも、日系人の記者の目をじっと覗き込んでいた。
「次に、そうですね。一昨日……だよな? ああ。野党第一党である革新党の黛幹事長が我々マチリークのことを、連中は少し文明が発達しただけの蛮族の群れだと中傷したことは御存じでしょうか?」
「は、はぁ一応。それが?」
「そうです。黛氏の仰る通り我々は少し文明が発達しただけの蛮族の群れです。認めます。だからこそ、ボディガードに銃を持たせたことも蛮族故の行いだと笑って理解してもらえると信じています。
また、日本にかつていた侍には、刃物を持ち歩く帯刀の文化があったと聞きます。刃物を持ち歩くことが許されたお国柄なら、同じ武器を持ち歩くこともきっと寛容であると思います。我々は何しろ浅学非才の群れですから」
「な、なるほど、ありがとうございました」
ジェスタフがここで初めてニコッと微笑んだ。ハンサムな顔立ちの彼の微笑は、遅れて来た記者が見たらチャーミングに映ったかもしれないが、そうでない多くの者達からは非常に嫌味ったらしく見えた。
何故なら今の彼の開き直った発言は、自分らを悪罵するならこっちも好き勝手やらせてもらうという意味に取れ、それを防ぐためにも記者達はマスメディアでマチリークに対して否定的なことは言い難くなったからだった。
つまり、彼に楔を打ち込まれたと言える。マチリークを罵倒すればそれを免罪符に今度は戦車を運び込むかもしれない。そうすれば今度は罵倒した側が責任を問われて他誌に罵倒される番だ。これからは、どんな三文誌だろうとマチリークへの記事には言葉を選ぶだろう。
「他に質問がある方? あぁ二列目の右端の眼鏡をかけた方にマイクを」
ジェスタフはそう言うと、また水を飲んだ。暖房が効いた部屋が暑すぎるのか彼の額には汗が滲んでいた。秘書の女がポケットティッシュを差し出したのでそれで額を拭っている。
「スペイン放送連盟特派記者ハパスと申します。日本側はあなた方マチリークを日本領の中の自治区として治外法権を認めていると公式で発言していますが、それではどの部分が不満なのでしょうか。時間も迫っているので恐縮ですが簡潔にお答えください」
ジェスタフは少し考え込んでから口を開きかけたが、事前にそれについて台詞を考えていたのを忘れていたのか、秘書の女性に指示して渡された書面を見ながら、それを読み上げた。
「マチリークを日本の自治区として今後続けていく場合、形式上は自治を認めると言えど内政に必ず日本が干渉してくるであろうと言うのが我々軍部の考えです。
無論、我々が他国と一切交流する気が無いのなら、そもそも私がここに来ることもなかったのですから交流自体は拒む気はありません。うーん……簡潔に言うなら日本と我々は五分でありたいと言っておきましょうか。第一、日本は70年ほど前の中国の例がありますから」
さっき侍を引き合いに出して話したように、彼は意外と日本史を勉強しているんだなと記者達は敵ながら感心した。
「ありがとうございます。それとマチリークは最近コカの葉の栽培や麻薬の製造を始めたという報道が一部でありますが、事実ですか?」
「どこが言ったのですか? それ」
ジェスタフのやんわりとした話し方に少し気が大きくなった記者が、どこで聞いたかも覚えていない噂話の真偽を彼に尋ねた瞬間、顔つきはそのままジェスタフの声色に重みが増した。変なこと聞くなよと周りから舌打ちの音がした。
「根も葉もないデマですね。我々は麻薬というものを嫌悪しています。仮にもしそのようなものに軍が手を出してると知れば私は即座に辞職します。同様にそのような汚物を流す破廉恥な連中は滅ぼす対象であってビジネスの相手になどなりえません」
「失礼致しました。丁寧にお答えして頂きありがとうございます」
冷や汗をかきながら記者が頭を下げ、ジェスタフも軽く頭を下げると、無言で隣の女性秘書に代わりに喋るよう手で促した。
「大変勝手ながらもうすぐ時刻が達してしまうため、ご不満の方々も多いと存じますが次の方の質問で本日はこれまでとさせて頂きます。では……そうだな……一番奥にいらっしゃる大変可憐な男性の方に」
彼女の方は英語でなく日本語で話したので、ようやく仕事が回ってきた通訳がそれを翻訳した。彼も一応仕事をさせないと悪いと思ったのかもしれない。
しかし、随分と抽象的な言い方だなと訝しむ記者達は、みんなそれは誰かと後方を振り返った。そこには少女と見紛うほど愛らしい顔立ちの男性が立っていたので、スタッフも考える間もなくすぐ彼にマイクを手渡した。
「え、あー……サンクトペテルブルク新聞の日本駐在員の……ゴーゴリと言います。あなた自身は軍事国家を自称する組織の中でそこそこの地位にいるわけですが、あなたは人を殺めたりそれを指示したことはありますか?」
男がマイクをもってしてもか細い日本語でそう言うと、ジェスタフはすぐさまその質問に微笑んで答えた。
「私は兵士として人を殺したこと自体はありますが、それについて謀議したり部下に強要したことはありません。同時に今後もするつもりもありません。私は国家の安寧を希求する公務員ですから……」
ジェスタフはそう言うと、立ち上がって深々と頭を下げた。彼の視線が下に下がった時、一斉にシャッターが切られて目が痛んだ。彼が頭を元に戻しかけた時、記者の誰かが突然日本語で叫んで彼に食い下がった。
「外務卿! もし日本側があなたの国に対して攻撃行為に及んだ場合、あなたはどうされますか!?」
「本日は皆様、お集まり頂き誠にありがとうございます。今質問をされた方がいらっしゃいましたが、そうですね。もしそうなったと仮定した場合、私にも兵は与えられますが私は戦闘においては役立たずですので安全な場所で筆仕事をするだけです。
これは決して脅しではありませんが、我々マチリークは好意には好意で返しますが、悪意には敵意を持って徹底的に報復することを約束します。では」
彼は最後ににんまりとした表情でそう発言してから再度一礼し、どよめく多くの声を無視して通訳と秘書を先に歩かせてホールから退室した。彼のスーツの裾から銃剣の樹脂製のケースの先端が僅かに見えた。
国連の正式な国家承認を目的にマチリーク本国から派遣されたアンドレイ・ジェスタフ外務卿の記者会見は、瞬間最高視聴率は驚異の87.2%を記録した。
奇異の目で見られることを我関せずと言わんばかりに飄々と詭弁と持論を巧みに使い分ける男にある者は疑惑を、ある者は羨望を抱いた。
しかし、ジェスタフの心中では別の思惑があった。
俺にはマチリークを国連加盟国にさせることなど正直どうでもいい。どちらか言えば反対だ。俺らを蔑んでる国際社会の一員になるなど不愉快極まる。ま、せいぜいアレの連れ戻しに失敗した場合に備えた予防線だと思うか。オリンピックに出たがってるヤツもいるしな。
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