第31話

 次の日、六年二組の生徒が二人、学校を休んだ。春香はインフルエンザに罹ってしまい、一週間ほど学校に来れないそうだ。もう一人休んだのは美来だった。葵は、元気はないが登校している。


 朝の会で石神が引き続き暗い表情で教室に入る。葵や美来についてのコメントはなく、今日もまた形式的に朝の回が進行していく。すると、全生徒が気になっていることを航が代弁した。


「先生、犯人誰だったんですか?」

 石神は航に視線を向けることなく、用意してきた文章を読むように答えた。

「もう解決した。葵もやってしまった子も納得している。だからみんなには関係ない」


 そうはいかないと、全員がヤジを入れるが、生徒達を全く相手にしなかった。

 納得できないのも無理はない。美来は今日学校へ登校していないし、葵も何も喋らなかった。昨日の美来の態度にみんな美来を犯人だと思ってしまっている。よくよく考えれば、美来がやる動機は見当たらない。だが、全員が犯人探しに夢中になり、正義を盾に美来を襲う。


 クラスは僕のせいで崩壊した。こうなることは少なからずわかっていたことだった。


 真実を知りたかった。何が起きているのかを知りたかった。

 昨日の美来の家でのあの反応、そして合唱祭前、美来が「友達でいてね」と言ったこと。美来の行動には必ず裏がある。そう思った。


 そして、おそらく美来が何を考えているのかを知っているのは、美来以外に一人しかいない。

 朝の会が終わり、教室から出ていった先生の後を追う。


「先生!」


 先生はこちらに振り返り、僕の方を凝視した。新学期に久方ぶりに会った時と風貌は何も変わっていない。長身にやつれたその頬。そして、目の下に携えた隈。だが、目の色だけは新学期と違うように映った。


 それは、今になって生きた眼光に変化したのか、もともと僕が見逃していたのかはわからない。

 先生に近づき、僕が今知らなければならないことを聞く。


「僕が矢印を止めるにはどうするべきですか」


 廊下で「大嫌いだった先生」に最初で最後の教えを乞う。


 石神はポケットから煙草を取り出した。そうして手で合図され、いつもの空間に僕らは向かった。


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