第25話

 合唱祭当日、最悪な事態が発生した。伴奏者の春香が学校を欠席したのだ。


 朝の会が始まる前、春香以外の生徒は席に座っていた。春香がなかなか学校に登校してこないので、クラス中が騒つき、教室のドアが開いた時には、全生徒が春香の登校を期待した。

 しかし、教室に入ってきたのは石神で、そのまま春香の欠席が伝えられた。


「東堂が三十九度の熱を出したとのことで欠席の連絡が入りました。それじゃ、合唱祭頑張ってください」


 事務的な連絡が朝の会で発表される。

 朝の会が終わり、すぐに生徒達が再び騒つき始めた。


「やばくね?」

「春香、インフルだって」

「まじかよ」


 すると、実行委員の二人が教卓の前に立ち、生徒達を宥める。


「みんな落ち着いて。とにかく林先生に連絡して弾いてもらえるか頼もうよ」

「わかった、僕言ってくるよ」


 葉月の提案に、いち早く光輝が教室から出て、林先生の元へ向かった。


「ねー、葵か里帆できないの?」

 直後に真美が呟いた。

「そうじゃん。パート別の練習で二人とも弾けてたし、いけるよ!」

 明美がそういうと、嫌そうな顔で里帆が答えた。

「え、でも、ほとんどぶっつけ本番だし…」

いつものような明るさはなく、拒んでいるようだった。

「里帆なら大丈夫だよ」

 普段、里帆と一緒にいる子がそういう。

「うーん…」


 すると突然、葵が立ち上がった。


「私、やってもいいですか」


 教室中が驚いている。普段おとなしい葵の、ピアノへの熱意が伝わってくる。


「葵さん、いきなりだけど大丈夫?」

 葉月が声を掛ける。

「うん。ずっと練習してきたから」

「私も葵ならできると思う」

 里帆が安心した表情でそう言う。

「正直、私にはこんな大役できない。すごく怖いの…、だから葵はすごいと思う。今度は私が応援してもいい?」

 里帆が葵の手を掴んでぎゅっと握った。

 そのタイミングで勢いよく教室のドアが開く。


「みんな、林先生大丈夫だって。とりあえずなんとか…」


 全員が光輝に冷たい視線を送る。

「うわ、空気ぶち壊したぞ、光輝。」

「え?」


 クラス中が笑いに包まれた。

 結局、春香に代わって葵が伴奏を引き受けることになり、僕らは合唱祭に臨んだ。葵とは始まる前に何度か練習をした後、本番前最後のリハーサルを行った。僕が思っている以上に葵は上手に弾けていた。オーディションに落ちた後も、練習を積み重ねていることは容易に想像できた。

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