おおっと! マスターが襲われた
横山記央(きおう)
おおっと! マスターが襲われた
「ちょっと知ってる? 隣のマスター、襲われたんですって」
「それって、十階の部屋に住んでいるあのマスターのこと?」
「そうよ。先月のことらしいわ」
「襲われたって、あそこのセキュリティは万全って言ってなかった」
「ええ、マスターは日頃から防犯には気を遣っていて、四階には警備員たちも常駐していたって話しよ」
「それなのに襲われたってこと?」
「かなり腕の立つ警備員たちだったらしいけど、襲ってきた相手に、その警備員たちは、手も足もでなかったんですって」
「怖いわね。私たちのところは大丈夫なのかしら」
「あそこよりも新しいセキュリティになっているから、大丈夫なはずよ」
「ところで、襲われたってどんな感じだったの?」
「数人が突然部屋に押し入ってきて、根こそぎ持って行かれたそうよ」
「根こそぎ?」
「そうなのよね。でも家にあるものは、箪笥や引き出しの中身はもちろん、鉢植えを割ってまで何かないか探し尽くしたっていうわ」
「そこまで徹底しているなんて、悪質な取り立て屋みたいじゃない」
「それがね、取り立て屋じゃなくて別の職業らしいのよ」
「襲うくらいだから、強盗とか、かしら」
「いいえ、その襲撃者の一人が、ユウシヤって名乗ったらしいわ」
「ユウシヤ? ……融資屋かしら。銀行関係のお仕事をしてそうね」
「名前からは、助成金に詳しかったり、保証人を上手く立ててくれたり、困ったときに助けてくれそうなのにね」
「やってることは、正反対よね」
「本当よね」
「それで、肝心のマスターは無事だったの?」
「ええ、遠くに飛ばされたけど、大きな怪我はなかったって聞いたわ」
「それは不幸中の幸いよね」
「ええ、なんでも持っていたお守りのお陰らいいわ」
「そんなお守りがあるなら、私も欲しいわね」
「実は、そのお守り、今家にあるのよ」
「ええ! どうやって手に入れたの?」
「マスターが譲ってくれたの」
「よかったじゃない。これで我が家も襲われても安心ね」
「ところが、そうじゃないのよ」
「どいうこと」
「そのお守りを持っていたから、ユウシヤに襲われたらしいの」
「そんな、それじゃ次は私たちが襲われるかもしれないってこと?」
「私もさっき知ったばかりなの。前もって知っていたら、マスターから譲り受けたりしなかったのに」
「それなら、そのお守り、早く誰かにあげちゃいなさいよ」
「そうしたいんだけど、手遅れみたい。ほら、この音。ユウシヤがやってきたようよ」
『魔物ども、この勇者が、奪われた護符を返してもらいに来たぞ』
「ちょっとあなた、ユウシヤって、融資屋じゃなくて、勇者じゃないの! 間違うにも程があるわ! ええかげんにせい」
「以上、ネタ『ユウシヤ』でした」
「「ありがとうございました」」
「魔王さま、いかがでしたか」
……。
……。
……。
《不合格》
おおっと! マスターが襲われた 横山記央(きおう) @noneji
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