クロス・ピリオド
@hototoke
プロローグ
扇風機の前でソファに寝そべりうとうとしていると、インターホンの音で起こされた。
休日の昼寝を邪魔する不届き者は誰だと心で悪態をつきながら玄関へ向かうと、聞きなれた声が聞こえた。
裸足のままたたきに立ち、カギを開けてドアを開ける。
「お前また寝てたのか?ケータイに電話もかけたしLINEも入れたのに一つも反応しねーな。」
目が合うなり、訪ね人の口から文句が飛び出した。
「ああ……。スマホ充電切れてるかも。」
「はあ? 華の女子高生のスマホが家にいて切れるとかあるか? 最後に充電したのいつだよ。」
「んー……四日前くらい? てか慎にい、それ何持ってんの?」
足の裏を足の甲で拭きながら廊下に戻ると、後ろから柔らかい何かで軽く頭を叩かれる。
「お前サンダルくらい履いて鍵開けろよ。そして足を拭け、汚いな。」
「……慎にい、お母さんみたい。少し砂埃が上がっても死にゃあしないよ。」
「そういう問題じゃないし、誰がお母さんだ。」
「いてっ!」
もう一度、今度は手で頭を叩かれる。軽く叩かれただけなので実際は痛くないのだが、大げさに訴えて唇を尖らせて不服アピールしてみるが、相手は鼻で笑って家へ上がり込む。
手に持っていた小さい布袋を後ろ手に渡され受け取り中を覗くと、白い犬のぬいぐるみが入っていた。
「これ、幸子おばちゃんから?」
「そう。いつまでお前のこと子供だと思ってるんだろうな。」
「あたしまだ子供だもん。ぬいぐるみも好きだもん。嬉しいもん。」
「はいはい。」
ぬいぐるみを袋から出してテーブルに置き、コーヒーを用意するためにキッチンへ向かう。
冷蔵庫の中から冷やされた缶コーヒーを手に取りリビングに戻ると、先ほどまで綾香が寝ていた扇風機前の特等席が取られていた。
「ねえ、そこあたしの特等席なんだけど。」
恨みがましく訴えてみるが、鼻で笑われる。
「そういやお前、昨日涼子さんから電話来たか?」
「お母さんから? いや、来てない……と思う。」
「思う?」
「スマホ…昨日学校から帰った後確認してない……。」
慎にいこと慎也が左の眉を上げる。
「綾香お前実は16じゃなくて61だろ。俺でも毎日充電するし起きてる間4~5時間に1回くらいはスマホ確認するぞ。」
「女子高生がみんなスマホ中毒だと思ったら大間違いだよ。」
「中毒どころか使用されてねえじゃねえか! とりあえずすぐ充電してこい!」
顎で2階の部屋を示されて、綾香は唇を尖らせながら、しかし素直に部屋へ向かう。机の上に放置されていたスマホに充電コードを差し込むが、画面は真っ暗なままだった。完全に充電が切れているらしい。少しして充電マークが表示されたのを確認すると、スマホは左手に持ったままベッドに寝転ぶ。
「お母さんから電話ってことは、また飛ばなきゃいけないのかな……。」
クロス・ピリオド @hototoke
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