タイムスリップしたらなんかの使いと勘違いされたので頑張るしかない
ほのかな
第1話
時は秋。の、初めぐらい。この国が徐々に寒くなり始め、紅葉がちっとは色づき始めた頃。この季節ぐらいになると多分、時間とお金を持て余してるやつは南の方に避難するんじゃないかと思われるんだけど、時間はあるけど金は持て余して無い俺はというと逆にこの国の北の方に来ていた。当然なのだが
「さあああみいいいいいい・・・」
寒い。めっちゃ寒い。正直舐めてた。もっと旅先の環境を調べておくべきだった。出発地点の気温しか考えてなかった俺は、現在普段着に薄めのコート一枚。トランクの中には防寒とは関係ない雑貨が多数。上着がもっと欲しいが、さっきも言った通り俺はお金をあまり持ってるわけではない。厚手のコートなんて買ったら、帰りの新幹線代と同じくらいの金が飛ぶ。体の寒さは我慢できても懐の寒さは我慢のしようがない。耐えるしかない
「さっさと目的を果たして帰るか・・・」
俺はトランクを引きずりながら歩き始めた。まあ、さっさととは言っても、ここから電車を乗り継ぎ、数本しかないバスに乗るという長い旅路が待ってるわけなのだけれど。
ブロロロ・・・
「んー・・・はあ・・・」
数本しかないバスから降りた俺は背伸びをしてため息をついた。旅路に何か変わったものとか語りたい物があったら記述したかったんだが、特にないので全カットだ。強いて上げるならバスを待ってる時がとてつもなく寒くて辛かった。
「えっとここから先は・・・」
手元のスマホを見る。バス停から目的地の神社まではそんなに遠くない。一応観光名所として意識はしているらしい。
「よし、それじゃ・・・」
一歩前に踏み出そうとしたその瞬間、スマホの電波が一瞬にして圏外へと変わった。
「あー、やっぱり田舎は電波弱いな。まあ、道はわかったし、大丈夫かな」
気にせず前を向いた。が、目の前の光景は気にせずにはいられなかった。山道にいたはずなのだが・・・いつのまにか周りから何もかも消えていた。木も。道も。ぽつぽつとあった小さな家々も。あるのは真っ暗な黒のみ。
「・・・・・は?」
呆然と何もせず立ち尽くしていた。すると今度は次第に景色の構成が始まった。古びた木の床。脆そうな壁。落ちてきそうな天井。足元になんかおもちゃみたいな小道具。そして最後に土下座してる男性と女性。
「おねげえします・・・」
「おねげえします・・・」
気が付けば俺は祈られていた。いや、お願いって何を?つーか、俺はどうなってんの?
「えっと・・あの・・」
色々と訳がわからない俺は、とりあえず目の前2人に声をかけてみた。すると2人はバッとものすごい勢いで顔を上げた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
3人の沈黙が辺りを包む。やがて男の方が呟いた。
「使いじゃ・・・」
「・・・は?」
男は古屋の外に転がってんだか走ってんだかわからない感じでなんとか外に出てうるさく叫んだ
「仏様の使いじゃああああ!この村に助けが来なすったぞおおおおおお!」
え?は?いや、意味わからない。意味わからないけれどなんかやばいことに巻き込まれたのはなんとなく感じる。
「ああ・・・おらたちは見捨てられてはいなかったんだぁ・・・ありがたやありがたや・・・」
「いや、あの」
事情を説明しようとしたのだが、古屋になだれ込む多数の人々がそれを許さなかった。
「仏様の使い!?」
「本当かあ!?」
「・・・確かに見たことねえ格好をしておる・・・」
あー、だめだなこれ。ここで否定したら多分俺が大変なことになる。でもどうするよ。神通力とか俺は持ってないぞ。などと自分の身を考えていると、人だかりの中から1人の老人が出てきた。
「仏様の使い様・・・こんな小さな村に来てくださり、誠にありがとうございますだ」
老人が深々と頭を下げる。
「えっと・・・この村のまとめ役のような方でしょうか?」
「おお、流石仏様の使い様じゃ。言わずともお分かりになられるとは」
いや分かるよ。流れでなんとなく。他の人でも分かると思うよ。
「さて、いきなりで申し訳ないのですが・・・この村は非常にまずい状態に置かれておりまして・・・どうかお力を貸してはくださりませんでしょうか」
力を貸すって・・・俺は普通の人なんだけど・・・なんて正直に話せたらよかったのだが、そんなことできる状況でもなく、返事はハイか了解しかなかった。
「と、とりあえず事情を話してくださりませんか?」
「恐れ入ります・・・まずは外へ・・・」
外に出れるのは好都合だ。自分の置かれている状況がわかるかもしれない。周りの野次馬を退けつつ、俺と村長・・・と呼ばれているのかはわからないけれど、まとめ役の老人は外に出た。そして目にしたのは・・・まさに世紀末のような世界。
「うわあ・・・」
まず主張がでかかったのは全滅してる田んぼ。植えてる物が大体枯れてる。そして村の中で力なく座り込んでいる人々の表情。さっきは落ち着けなかったからよくわからなかったが・・・野次馬の人も含め目に入る人が全員やつれている。村全体から活気や元気というものが一欠片も感じない。
「・・・この地域はもともと寒いのですが、最近は冷害が特に酷く・・・作物はご覧の通りほぼ全滅です。その結果、飢え死ぬ者が後を経ちません。大きな声では言えませぬが、間引きをしていると思われる家族も多く出ております。このままではこの村は・・・」
冷害・・・間引き・・・俺は再度村を見渡した。建てられてる古屋はどれもこれも弱々しく、現代の大工が建てたとは到底思えない。村人が着ている服は、適当なボロ布か何かで作られてるようにしか見えず、俺が着ているものとはあまりにもかけ離れている。まさか・・・いや、どう考えてもここは・・・過去の・・・飢饉があった頃の時代なのか!?
「仏様のお使い様。どうかわしらをお助けくだされ。この通りじゃ・・・」
村長(仮)は頭を下げた。いやいやいや飢饉て。助けろて。マジで神様仏様じゃないとどうしようもない案件じゃん。俺は普通の男よ?漫画の主人公みたいな不思議な力とかないの。どうしろっつうんだよ。
「え・・・あ・・・う・・・」
返す言葉が見つからない。いや、「無理です」って返事ならある。あるけど言えるはずがない。ただただ頭を下げた村長を見つめることしかできない。と思っていたその時
「へ!?」
村長は目の前で崩れていった。村長だけじゃない。壊滅した田んぼも。やつれた人も。古屋もみんな崩れていき、視界が真っ黒になっていく。
「これは・・・」
景色が再構成されていく。バス停。木々。ぽつぽつと建てられた小さな家々。コンクリートの道。そして景色の再構成が終わると、いつも感じる空気を肌で感じた。
「戻って・・・来た?」
見渡す限りはさっきまでいた道。謎のタイムスリップから帰ってこれた・・・らしい。思わずその場で座り込む。
「よかったあ・・・あのままあそこにいたら・・・」
いたら・・・どうなってた?俺は助かった。でもあの人達は・・・
「これで・・・終わりなのか?」
納得できない。このまま帰るなんて、できない。俺はスマホを取り出した。さっきと違ってアンテナは全部立ってる。
「・・・ああもう。なんでこんなことに・・・」
スマホで稲作や冷害のことを持てる限りの力で調べ続けた。というかなんで俺にこんな役目が回ってきたのだろうか。作物に詳しいやつなんて俺以外にたくさんいる。例えばどっかのアイドルとか。
「っ・・・文句考えても仕方ねえよな」
自分に出来る限りのことをとにかくするしかなかった。さっきの時代にまた行ける保証なんてどこにもないのに、そうする事しかできなかった。
「・・・できそうなことはわかった。だが・・・」
あの時代でもできそうな冷害の対策はあった。でも正直付け焼き刃程度の方法にしか感じない。現代の強い種籾を持って行けたらいいのだけれど・・・そんなものこの付近には売られていない。それに稲を植えても収穫まで時間がかかりすぎる。それではみんな飢えて死んでしまう。食料問題を根本的に解決できないと意味がない。
「・・・ん?」
スマホを見ながら考え込んでいたその時、画面に黒い大きな点が出てきた。
「・・・うお!」
ハエだ。一瞬わからなかった。田舎だからかデカい。俺が驚いてスマホをビクつかせると、ハエも驚いて一瞬で飛び去って行った。
「ったく・・・驚かせやがって・・・」
虫なんかに時間取られてる場合じゃ無・・・
「待てよ・・・」
それから少しして。色々と準備を終えた俺はバス停の近くに立っていた。半ば諦めながらも、ほんの少しの奇跡を信じて。
「・・・何やってんのかね俺は・・・」
ため息をつき、足元のコンクリートの道を見つめる。が、コンクリートの道は突如崩れ始めた
「っ!・・・これは・・・」
さっきと同じことが起きている。景色が崩れて真っ黒に。やがて景色が構築されてゆき・・・あの村の姿が。
「仏様のお使い様!」
後ろからまだ聞き覚えのある声が聞こえた。
「急に消えてしまわれたので驚きましたぞ!一体どうなされたのですか?」
「あー、すみませんでした。少し調べ物を。それから、長いので私のことはただの『使い』でいいです」
さて、果たして俺にどこまで出来るのか。奇跡も能力も無いから、足掻くだけ足掻くしかない。せめて少しでも救いが増えればいいのだが・・・
「村のみなさんを集めてください。色々と話したいことがあります」
とりあえずまず最初に田んぼに関わる話をした。冷害で稲がだめになるのは、低い水温により活着ができなかったり、受粉ができなかったりというものらしい。なので対策としては主に稲に関わる温度をなんとかする事があげられる。まずは水路の変更。水源から直接持ってきては水の温度がどうしても低くなる。だから日の当たる方向を考えて迂回路をわざと作ったり、溜池を途中に入れたりしていたそうだ。あとは稲自体の姿勢。稲の姿勢を良くし、葉をピンと立てることで田んぼの水や土に日の光をきちんと当てるようにする。
「・・・あと、収穫できた米は全くなかったわけじゃ無いんですよね」
「ええ。あまりありませんが・・・」
「それ。出来が良く無いものは除いて、できる限り全部次の年のために植えてください」
「全部・・・ですか・・・」
「はい。この環境で生き残ったのですから、それらはたまたま冷害に強い存在として生まれた可能性が高いです。それらの米を中心として数を増やしていけるかもしれません」
まあ、この辺は付け焼き刃に近い。米の品質改良は3000年程もかかったそうだ。これぐらいで劇的に良くなるとは到底思えない。
「だけんど、そしたら何食えばいいんだ?保存食も限りがあるで」
当然と言えば当然の質問が出てきた。
「もちろん何も考えていないわけではありません。これを」
俺は現代で印刷したいくつかの虫の写真を村長に渡した。
「これは・・・」
「食べれる虫です。わかりやすいようにしゃ・・・絵で持ってきました」
「虫ですか?イナゴやハチの子どもなどは聞いた事がありますが・・・」
そうも言いたくなるだろう。山とかたくさんあるのに日本に虫を食べる文化はあまり無い。もっと昔なら結構あったらしいが。だがそれはその方面に可能性が大いにあることでもある。この国にとって食虫は開拓してない鉱山みたいなもの。使わない手は無い。
「この国では食虫文化はあまり広まっておりません。検証してないだけで、食用として使える虫がたくさんいます。模索しない手はありません」
「模索って・・・食えないやつを食っちまったらどうすんだ?毒とか持ってる奴もおるし」
「・・・心配は最もです。ですが作物が駄目な以上、手段はこれしかありません。新たな食文化の作成。例として虫をあげましたが、活用してなかった植物などでも構いません。今まで試してないものをとにかく試し、それを記録し、皆に広げるのです。もちろん食べる物によっては死者も出るでしょう。ですが何もしなければどのみち全員死にます」
不安の声をあげていた村人達は一気に静かになった。残されているのは酷な道ばかり。絶望したくもなる。そんな村人達に俺はひとつ放った。
「・・・もしも生きたいと願うのなら、考える事を諦めてはいけません。貴方達の先祖は何を食べれば良いかわからない状態から、自分の身で試し、焼いたり煮たりと工夫し、食べる物をたくさんの人達に広めていきました。常に考え、模索し続けてきたのです。そのおかげでこの国の食文化が出来たのです。考える事を諦めなければ、山も川も全てが味方になってくれます。生きたいのなら、考える事を諦めないでください」
我ながらよくもまあこんな事が言えたもんだ。俺の時代の食生活を教えたら、多分誰もこんな言葉で動いてはくれなかっただろう。
「おら・・・やる!なんでもやってみる!このまま死ぬなんてまっぴらごめんだ!」
「私も・・・せめて子供のために何か残してあげたい!」
死臭漂う村に活気ある声が広がり始めた。これで・・・よかったんだろうか。少なくとも自分にできる精一杯はやった。俺が本物の使いだったら色々できたのかもしれんがな。みんなすまない。
「・・・我々は甘えていたのですな。我らの先祖達に」
村長が少し気を落としながら話してきた。
「いや、こんな状況じゃ仕方ないですよ。それに俺達の方がよっぽど・・・」
なんて話してたらまた村長の顔が崩れていく。周りの他の人や家も。これは・・・時代を飛ばされる感覚。
「・・・・・ここまでか」
また周りが真っ暗になっていく。真っ暗に。真っ暗に・・・だがさっきと違い、目の前に突然何もない真っ白な光景が広がった。
「・・なんだ?」
何もない。いや・・・人が1人だけ立ってる。小さな少女が。
「ありがとう」
少女はそう言った。
「私が誰だか、わかるよね?」
「・・・・・・」
俺が飛ばされた時代。飛ばされた場所。そしてそもそも俺が急にこの地に訪れた理由。なんとなく感じていた。この不可思議を起こしている存在の正体に。
「座敷わらし・・・正確には子返しされた子ども達」
少女は静かに頷いた。子返し。それは子どもを神様に返す事。どうやってかって?殺すのさ。昔は子どもは7歳まで神様のものとされていた。だからその歳になるまでの子を殺すのを「子返し」と呼んだ。これは多分、殺しを少しでも正当化させるための言い訳だろう。酷いと思うだろうが仕方がなかった。これの目的は多くが口減らし。食べ物が無いから人を減らすしかなかったのだ。そういう事態になった時、やりやすいのはどうしても子どもな訳で。
「正解」
少女がパチパチと拍手する
「まさかこの今になって貴方みたいな人が来てくれるなんて思わなかった」
「・・・偶然知ってね。なんかじっとしてられなくて」
全ての始まりはいつもやってるゲーム。昨今、色んなゲームに色んなキャラが出ており、神話の神様とかによく白羽の矢が立つ。そんで座敷わらしもそれに含まれていた。俺はネットでいつものように新キャラの能力とか見ていたのだが、その日に気になったのはキャラの小ネタだった。座敷わらし自体は色々発祥があるようだが、その中にこんな凄惨な話があるとは思いもしなかった。家に来てくれたらラッキーな何かとしか思っていなかった。で、なんか何もせずにはいられなくなって・・・気づいたら新幹線へ向かっていた。子どもが喜びそうなおもちゃをトランクに詰め込んで。
「俺は・・・やるべき事をやれたのか?」
座敷わらしは少し視線を逸らした後、小さく首を横にふった。
「わからない。そもそも本当は見て欲しかっただけなの。私達が少しだけ生きていた世界のことを。これは私達の我儘。巻き込んじゃってごめんね」
少しだけ生きた、か・・・
「俺たちの事は・・・憎くないのか?」
今度はすぐに首を横にふった。
「少しズルいとは思うよ。でも普通に楽しそうに生きてる子が増えて、普通の家族が見れるだけで私達は嬉しい。私達の両親は大抵ごめんなさいごめんなさいって謝ってばかりでさ。なんかもう・・・辛くて悲しいのばっかりで。幸せな家族が見たいなってずっと思っていたから」
「そうか・・・」
この子達はどういうものを見てきたんだろうか。それはきっと長い長い間に渡る碌でもない事ばかりで・・・
「そろそろ時間・・・かな?」
「あ・・・」
さっきみたいに、また景色が崩れ始める。多分、これが本当に最後。
「来てくれてありがとう。お供物もありがとうね。みんな喜ぶわ」
景色がまた、真っ暗になった。それからしばらくしてだんだん景色が再構成されていく。道、近くにあってくれたコンビニ、バス停、全てが見慣れたものになると、俺はバス停の近くに1人立っていた。
「今度こそ戻って・・あれ?」
トランクが戻ってこない。まさかあれごと・・・
「・・・新しいの買わないとな」
色々な意味で、今回の旅は終わった。後は帰るのみ。バス停の近くに出してくれたのは、もしかして親切心なんだろうか。
「・・・ご飯、何にしよう」
バスを待つ間、俺はこの後の事を考えていた。新幹線に乗ってる時間は結構あるだろうから、駅で弁当でも買ったほうがいいかもしれない。今の時代、子どもでもお小遣いで簡単に買えそうな物となった弁当を。
「・・・贅沢な時代に生きてるんだな。俺達」
どうしようもない罪悪感を胸に、俺は帰りのバスを待つのだった。
タイムスリップしたらなんかの使いと勘違いされたので頑張るしかない ほのかな @honohonokana
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