お笑い終わらない

空本 青大

お笑い終わらない

俺の名前は吉本仁志よしもとひとし、ごくごく普通の高校2年生だ。

学校が終わったあとはいつも俺の部屋で友達とだべっている。

クールぶって小難しいことを言ってればカッコいいと思っている渡辺健わたなべけんと、

予測不可能な奇行と不可解な発言で場を乱す浅井浩之あさいひろゆき

俺含め3人でいつも通り部屋でスマホゲームしたりや本を読んでいるときのことだった。


「あ~~~笑いで世間を席巻してぇなぁ!漫才しようぜ!!」

「良いだろう」

「どうしたおまえら?」


俺がスマホをいじっていると、浩之が突然何かを言い出し健が即座に乗っかってきた。


「この本読んでたら感化されちまったよ~。あぁ人を笑わせてぇ・・」


そう語る浩之が手にしている本のタイトルをチラ見する。


「え~と・・【人間よ、断罪の業火に焼かれるがよい】?どこに笑いの要素あるんだよ!!何に影響されたんだっつーの!!これを読んでるお前もこの本の作者もこえーよ!!!」

「仁志よ否定するのは簡単だ。浩之は一歩を踏み出す勇気が欲しいのさ。俺たちは黙って友人の背中を押したらいいんじゃないのか?知らんけど」


俺のツッコミに対し諭すような口調で健が口をはさむ。


「最後の知らんけどはいらんだろ!いいこと言ってたのに台無しじゃねーか!」

「それじゃあボケとツッコミのポジション決めたるぞおまえらぁ!」


俺と健の言葉に対し意に介さないといった様子で浩之は話を続けた。


「俺はいいから健と浩之でやれよ。漫才なら一人いらんでしょ」


「別に漫才は3人でもいいらしいが、初心者だし2人のほうがやりやすいか。

よし健、ボケとツッコミ決めはこれでいいか?」


そう言って浩之は拳を自分の顔の前に掲げる。


「ああ、いいぜ」


健も同じように拳を顔の前に掲げる。

じゃんけんで決めるのか?と思ったその時、


「うおらーーーーーーー!!!」

「っしゃあーーーーーー!!!」


2人は拳を振りかぶりお互いに殴りかかる。


「なにしてんのーーー⁉」


俺の声に反応し2人の拳はお互いの顔の寸前でピタッと静止する。


「人間の歴史は戦いの歴史。何かを手に入れようとするとき、力と力がぶつかり合い、最後に立っていたものがすべてを手にする・・違うか?」


健の言葉に浩之がうむ・・と小さくうなずいた。


「今令和だよ⁉おまえらどんな血生臭い世界で生きてきたの⁉普通にじゃんけんで

いいじゃん!」


すると2人は顔を見合し、


「なるほどそれなら互いの拳を汚すことなく決めることができるな・・」

「ふっ、やるじゃねーか仁志」


俺に対し賞賛の言葉と眼差しを向けられる。


「真っ先に思いつけよ・・」


こうしてじゃんけんで勝負を決し、浩之がボケ担当、健がツッコミ担当となる。


「じゃあ俺がボケるから健がいい感じにツッコんでくれ」

「まかせな。浩之のボケをソテーして皿に盛り付けてワイン添えてやる」


健のよくわからん意気込みに不安を感じながら、俺は2人の漫才を見守ることに。


「はいどうも~ヒロユキ&ケンです~。略してキケンってね!何?そんなことは聞けんってか!」

「俺は何があっても聞いてやるよ、世界中を敵に回してもな。ていうかヒロケンって略したほうがポップで親しみやすいと思う。ユキケンも捨てがたい」

「なるほどな~言われてみたらヒロケンのほうがいいかもな。後で改めて話し合うとして、それはそうと最近暑いよな~。もうすぐ夏!アツはナツいってね!・・はぁ、やっぱ今の無し!ちょっとボケがレトロすぎたわ・・」

「古いものが改めて評価されることは間々あることだ。というか俺のツッコミでお前のボケに翼を授けてやる。何も恐れることはない・・信じろ俺を」

「・・サンキュ。お前が優しくするもんだから、雨が降ってきちまったようだな。目に雫が落ちてきちまってる。まるで涙みたいだ・・」

「俺の傘に入って行けよ。止むまで居てやる」

「・・ったくこのハートフルモンスターがよ!」

「へっ、言ってろ」

「「・・・・・」」


唐突に流れる沈黙。

カチカチと時計の針の音が部屋に響き渡る。


「「どうもありがとうございました」」

「ふざけんな」


いきなりの終了に思わずツッコむ俺。

2人は謎に満足げな顔をしていた。


「人を笑顔にするって素敵だな」

「ああ、浩之の晴れの日の森を思わせる爽やかで穏やかなボケ。そして俺の時には厳しく、時には優しく吹く風のようなツッコミ。今この場にアマゾンが広がってたな」


まじかこいつらといった感じで2人を眺めながら俺は批評を述べる。


「まずボケてるのかツッコんでるのかよくわからんし!ただただなんかロマンチックな茶番みせてるだけじゃねーか!!」


そして驚く顔を見せる2人にとどめの一言を添える。


「まあはっきり言ってツマランかった」


俺の言葉で四つん這いになって落ち込む浩之。


「つまらない?俺の渾身のボケが信じられん・・。でも仁志の顔はずっと真顔だった・・。なあ健!俺はつまらなかったのか?」


顔を見上げ浩之は健に尋ねる。


「お前は俺のダチだ。そんなお前にだからこそ言うべきだろう。正直おれにはよくわからなかった」

「他人事みたいに言ってるけどお前同罪だぞ?」


健の言葉に俺は釈然としない想いを抱きながらツッコんだ。


「くそう!俺は憎い!自分が!!世界が!!!あらゆるものを業火で燃やし尽くしたいぃぃぃぃぃ!!!!!」

「あの本のタイトルみたいなこと言ってるし・・」


床に突っ伏しながら嘆く浩之の肩にポンと手を置き、健は穏やかな口調で語る。


「あの本のテーマは人間の本質と向き合うことだ。鏡に映ったありのままの自分と向き合い、罪を背負い、己を律しながらあえて茨の道を歩く・・。俺の肩貸してやるからよ、一緒に歩いていこうぜ?」

「健、サンキュ・・。お前に借りた本改めて読み返して人生の糧とするぜ・・。」


そっと抱き合う2人。

俺はかける言葉もなく独りその状況を見つめた。


「あれお前の本だったのか・・」


はぁっと深いため息をついた俺はふと窓の外の空を見つめる。


「お笑いというか、とんだお笑い草だな・・」


笑いはかくも奥が深い。


この2人のように深みにはまって怪我しないよう、


自分を大事にしていこう。


そう心の中で誓い、この愛しき友達ばか2人を眺めながら


俺はそっと笑みをこぼした―—
















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