第10話

「え?……ど、どうしてですか?」


まさか反対されると思わず、驚きました。


「……とにかく反対だ。もう一通り見学したし、とりあえず今日は帰ろう」


そう言ってロベルト様はどんどんと歩いていってしまいます。私は慌ててあとを追いかけました。


先程の提案、どこが悪かったのでしょう……。


「……」

「……」


帰りの馬車の中は、重苦しい空気が流れていました。


「あの、ロベルト様……先程のお話ですが、理由をお聞かせくださいますか?」


「今の教育内容で十分だ。そう思っただけだ」


「反対の理由はそれだけですか?」


「……」


学校の話をした時からロベルト様の様子が変だと思っていましたが、原因は学校のお話だけではないような気がします。もしかして私のせいでしょうか。


「ロベルト様、私はリリンティアン領を良い領地にしたいのはもちろんですが、今回の仕事を通して、ロベルト様の婚約者としてふさわしい女性になりたいと思います。何か私に問題があるなら仰ってください」


思い切って聞いてみると、ロベルト様は少し考え込んだ様子でした。返事を待っていると、ロベルト様はしばらくしてから口を開きました。


「君に問題がある訳ではない。君は今回の仕事に対してどんどん提案をしていて、大部分が納得できるものだ。ただ……学校に関して言えば、もう少し子どもたちの自由を尊重したいんだ」


「自由、ですか?」


「リリンティアン領の学校は、基礎的な知識をしっかりと網羅していただろ?それで十分じゃないか。子どもたち全員が花の産業に関わる訳ではないのだから、花の育成に特化した教育は押しつけにならないだろうか……。彼らには、将来の仕事を自由に選ぶ権利があるはずだ。実際には、両親の仕事を継ぐ者が多いだろうが……俺は、もっと自由に職業を選択してほしいと思っている」


そう話すロベルト様のお顔は、なんだか寂しそうでした。


「分かりました、学校の件はもう少し考えましょう。期限がある訳ではないですので、考える時間はたくさんありますから」


「あぁ……」


ロベルト様は、子どもたちの将来を大切に思っているのでしょう。やはりお優しい方なのですね。仕事を自由に選べるようになってほしいなんて……。


……もしかして、ロベルト様もやりたいことがあったのでしょうか?


「ロベルト様が子どもたちの将来を真剣に考えてくださることが嬉しいですわ。……実は私、本当は占い師になりたかったのです。こう見えて占いが得意なんですよ」


「君が占い師?」


「あら、似合いませんか?」


「いや、そんなことはない。……俺は学者だ。鉱物学者になりたかったんだ」


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