占い好きな令嬢は、占いのせいで無気力王子と婚約する羽目になりました。

香木あかり

第1話

私には、人には言えない秘密があります。週に三回だけ夜の街に出て、素性を隠して占い師をしているのです。


街はずれの小さな建物が、私の仕事場です。ここには、夜な夜な人には言えない悩みを抱えた貴族や商人が、占いに導いてもらおうとやってくるのです。


今日も悩めるお嬢様がやってきたようです。これは……モリーナ子爵家の三女、アナベルさんだわ。あぁ、なるべく貴族のお客様は別の占い師にまわしてほしい、とオーナーにお願いしていますのに……仕方がありません。来てしまったからには占うしかないわ。






「私、ルイス伯爵のことをお慕いしているのです……!彼も私のことが好きだと言ってくださいます!奥様の別れていただくためには、どうすれば良いのでしょう」


名前は言わなくて大丈夫だと伝えたはずですが、勢い余って口を滑らせる方が多くいます。アナベルさんもそのタイプのようですね。


それに……ルイス伯爵って、物静かで穏やかな方よね。まさか不倫なさっていたなんて。伯爵夫人のマリー様にはお世話になっているし、変にアドバイスなんてしたくありません。


それらしく言って、伯爵とは距離を置いてもらいましょう。


「全ては星の導きのまま。……あなたは、少し急ぎすぎているようですね。今はじっと動かず、耐えることが結果として良い方向に進むでしょう」


「何もするなということですか?」


「そうです。想い人に会うのも避けたほうが良いでしょう。今はエネルギーを蓄える時期です。趣味や勉学に力を注ぎ、自分の魅力を高めるのがオススメですよ。お茶会などにも顔を出して、広い交友関係を作るにも向いている時期です」


一旦伯爵とは離れて、冷静になってくださいね。他の人との交流を増やせば目も覚めるかもしれません。


「そんな……伯爵は私のことをお嫌いになってしまうのでは?」


「今、あなたの力は弱まっています。このまま突き進めば、伯爵の力も弱めてしまいますよ。今は我慢の時です。力を蓄えれば、きっと良い方向に進むことでしょう」


「……分かりました!頑張ってみます!」


あぁ、良かった。他人の恋愛事情に口を挟みたくはないけれど、不倫なんて誰も幸せにならないものね。




知らない方の占いなら本格的に出来るのですが、貴族相手だと、どうしても貴族間の相関関係が浮かんできて真面目に占いが出来ません。お客様に不利益が生じない程度にデタラメを言ってしまします。お金をもらう以上このような状況は良くありませんから、以前正直にオーナーに伝えたのですが、


「別に構わないよ。貴族にも評判が良いし、占いなんて結局は自分次第なんだからね」


と言って、このやり方を認めてくださいました。それからは、もう好き放題言うようになったのです。


でも、やはり貴族相手は疲れるし、やりたくありません……。私は普通の占いが好きなのに!


オーナーが貴族のお客様を私に担当させるせいで、貴族間の恋愛模様が丸見えです。パーティーなどで気まずい思いをしてしまうのが、最近の悩みです。

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