遅くなったおゆはんには

夕雪えい

きのことたまごの雑炊

 トントントン。なんの音?

 包丁で、きのこの根っこを落とす音。

 トントントン。なんの音?

 包丁で、ねぎを細かく切る音。

 ふんふんと伸び上がるいぬをキッチンから向こうに追い払う。


「こらこら、ねぎはおまえにゃ毒だからね」


 追い払われてもいぬはしばらく粘っていたけど、やがて不服そうに鼻を鳴らすとリビングへと去っていった。


 鍋にはお湯を沸かしてある。

 きのこを鍋に放り込んでやる。しめじでも、しいたけでも両方でもいい。

 時刻は夜の十時近く。帰るコールからしばし。

 あの子は今日も帰りが遅いので、お腹に優しい夕食を作るのだ。


 白だし。少しだけ酒も入れて、味は簡単に整える。ざっくりで良い。

 タイミングを見計らってお米を入れる。

 煮立ったら、溶いておいたたまごを回し入れて。

 ねぎはよく煮えた方が好きだから、早めに入れてしまう。


 いぬが騒ぎ出す。

 玄関に押しかけていったいぬをなでながら、


「ただいまー」

「おかえり」


 ちょうどのタイミングだ。

 今日のおゆはんは、ほっこりあたたかきのことたまごの雑炊。

 ありあわせのお漬物を添えて。


「あー、今日も疲れた。いただきますー」


 湯気の向こうのあの子の笑顔。

 ふわふわたまごの雑炊にすいっとレンゲが入る。

 ほふほふはっふり。ゆっくり味わってめしあがれ。

 いぬは、近くをぐるぐる。

 今日も一日おつかれさま。


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