スマイルデビル

ムネミツ

第1話 スマイルデビル

 「へイ、ミスター引ったくりさん♪ ギブアップするかい?」

 「げげ! お前は黒山羊野郎っ!」

 街の路地裏で僕はひったくりに背後からチョークスリーパーを掛ける。

 「ハイ、ワン・ツー・スリー♪」

 ああ、首が締まっているから答えられないねでも容赦はしないよ。

 「ハイ、僕の勝ち~♪」

 気を失ったひったくりのおじさんを地面に転ばせると彼が奪ったバッグを

被害者のお婆さんに返す。

 「はい、お婆ちゃんのバッグ♪ 引ったくりは、バックレないようにしておいたから安心してね♪」

 バッグとバックレを掛けた小粋なギャグを僕はおばあちゃんに言って見る。

 「ありがとよ、けどギャグのセンスは勉強しな」

 「キビシーッ! お後が宜しいようで~♪」

 評価は残念、僕はお祖母ちゃんに背を向けて路地裏に戻り引ったくりを担いで

三角飛びでビルの壁を伝って去って行った。

 

 「どーも~♪ スマイルデビルで~す、犯罪者のお届けで~す♪」

 まだお昼前だってのにハンバーガータイムな交番のお巡りさんへ引ったくりをおとどけする。

 「……ぶ~っ! またお前か! 俺の飯時に悪党を連れて来るな!」

 お巡りさんがコーラを噴き出して交番の壁に現代アートを描く。

 「いや、そっちこそ毎日何色食べてるのさ? 僕の方こそショックだよ!」

 冗談交じりな愚痴も言いたくなる勤務態度だね、このお巡りさん。

 「うるさい! 俺はバーガー教の戒律で一日五食はハンバーガーを食うんだ!」

 お巡りさんがとんでもない文句を言って来る。

 「野菜も食べよ~~~っ♪」

 タラッタラッタと、僕は交番を後にダッシュで走り去った。


 「バーガーも良いけど、ブリトーもね♪」

 青空の下、適当なビルの屋上でランチを取る僕。

 マスクの笑顔を開けば口の中に口が~っ!

 野菜スムージーを飲みつつボケて見るけど、レスポンスがないのはつまらない。

 「さてと、今日は講義がないから一日中スマイルデビル活動しちゃうぞ~♪」

 ブリトートスムージーでランチを済ませた僕は、ゴミはスーツのポケットにしまい

ビルの間を飛び回りパトロールを再開した。

 

 僕はスマイルデビル、笑顔の黒山羊さんをモチーフにしたスーツで悪い奴をやっつけるクライムファイターだ♪

 「おっと、ゴートビジョンが事件をキャッチだ♪ イッツ・ショータイム♪」

 僕の真下には銀行から飛び出す目出し帽のザ・強盗、悪党が笑うのは許せないね。

 「げげっ! 黒山羊野郎っ!」

 強盗を成功させて笑顔だったのが驚きの顔に変わる強盗。

 「踏み台にさせてもらうよ!」

 容赦なくその頭を踏みつけてクッションにさせてもらう、おならじゃなくて鼻血を噴いてるけど気にしない。

 「くたばれ!」

 「撃ち殺してやらあ!」

 強盗二号と三号が銃で撃って来るけど、マスクの笑顔の部分で受けて弾く。

 「はっはっは~♪ ヒーローは歯が命♪」

 素早くジャンプで一人の膝を踏み抜き、もう一人の顎を蹴り上げる。

 「はい、銀行強盗の叩きのめしでございま~す♪」

 ギャラリーになってる通行人や、銀行の人達が笑顔で万雷の拍手を僕にくれる。

 「銀行強盗はバ~ンク♪ っと、やっつけましたよ~♪」

 僕が思いついたギャグを言うと、群衆は一気にシーンとなって通り過ぎてしまった。

 「オ~マイガ~! 仕方ない、強盗が取ったお金を銀行に返しに行くか」

 叩きのめした強盗を銀行の中へ放り込んでから、奴らが奪ったお金を持って僕は銀行の中へ入る。

 「ありがとう、スマイリー♪」

 受付のお姉さんが笑顔でお金を受け取る。

 「強盗達は縛っておくから、警察への通報は宜しく」

 銀行員の人が持って来てくれたロープで強盗達を縛り上げると、パトカーのサイレンが聞こえて来たので僕は銀行から立ち去った。

 

 「今日の活動はこれで終了、家に帰ってピザでも食べよう」

 監視の目を潜り抜けて、アパートの近くの適当な路地裏に入り変身を解く。

 パーカーにジーンズとラフな格好の金髪青年、ニックに戻った僕は我が家へと帰る着いた。

 「ただいま~♪ って、一人暮らしだけどね」

 誰か僕とシェアしてくれる人を募集しようかと思いながら、冷蔵庫を開ける。

 「一緒に笑顔でピザを食べてくれる恋人とか欲しいよ」

 クライムファイターで忙しいけど、青春はしたい。


 温めたピザとコーラをリビングに持って来て、テレビのスイッチを入れる。

 「本日のニュースです、くだらないギャグを言いながら悪を倒す黒山羊男で有名な

スマイルデビルが銀行強盗を退治したのをカメラが捕えました」

 キャスターが酷い紹介をして僕のニュースを流す。

 「悪党を退治してくれるのは良いけれど、真面目に戦えないのかしらね?」

 キャスターの隣のコメンテーターのおばさんが悲しいコメントを言う。

 「コメディアンを気取っているのでしょうが、彼には真面目に戦て欲しい物です」

 そんなキャスターの締めで次のニュースに変わる。

 「ひどいなあ、僕は真面目に戦ってるんだけど?」

 レスポンスがないテレビに文句を言ってしまう。

 「でも、人を喜ばせて良い笑顔にするのがコメディアンなら僕はコメディアンだ」

 売れない田舎のコメディアンだったお祖父ちゃんが言っていた。

 天国のお祖父ちゃん、僕もお祖父ちゃん譲りのギャグを武器に明日もスーツを着て悪党をやっつけて皆を笑顔にして見せるよ。

 僕はピザを平らげ、コーラを飲み干して天国のお祖父ちゃんに誓った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマイルデビル ムネミツ @yukinosita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ