二十一話 これから死ぬんだから当たり前だろ
直樹と大輔は、
魔力をあまり消耗したくない直樹と大輔は、七割程度の力を宿した
切り離したとはいえ魔力パスで本体とは繋がっており、また独自に自立思考する力はある。戦闘能力は三割ほどの力しか持っていない本体よりも強いだろう。
だが、七割程度なら直樹たちも魔力を規定消費内で抑えられるだろうし、三割程度なら本体なら強化されたホワイトたちでも倒せるだろう。
と、地面に降り立った瞬間を狙って、極太のおどろおどろしい闇の触手が鞭のごとくしなりながら直樹たちに叩きつけられる。
「殺意が高いね」
「これから死ぬんだから当たり前だろ」
大輔はバックステップで躱し、直樹は側転して躱す。躱しながら直樹は体を一瞬だけ漆黒に光らせる。
すると、直樹は学生ではなく黒装束を着ていた。
和洋折衷というべきか、着物仕立てにも似ているフード付きの黒ローブ。金属で補強されている黒の靴に、黒の上下。腰には二振りの小太刀が鞘に収まっている。
これらの装備は“収納庫”などといった異空間に入っていたわけではない。原理は魔法少女の
つまり、大輔が羽織っている白衣や腰に差している二丁の銃、直樹の黒装束や小太刀も普段は魂魄に収めており、戦闘時になったら実体化して着ているのだ。
着ていた服は一時的に魂魄内に収めてある。ただ、魂魄に収めるための専用装備ではないため、魂魄に収まっていられる時間は一日程度だが。
直樹はおもむろに二振りの小太刀を抜き去った。
すると。
「腕は落ちてない感じだね」
「いや、もう少し切れるはずだったんだがな」
切り払われた触手は周囲に飛び散る。びちゃりと液体状になりながら、辺りをおぞましい闇で染めていく。
直樹はそれを観察しながら、抜き去った二振りの小太刀を弄んだ。
一本は漆黒。波紋は一切なく、光の一切の飲み込む常闇。名は
もう一本は深紅。鮮血で形作られたかの如く妖しく輝く。名は
直樹の愛刀だ。
「どれくらい回復してる?」
「職業系の
「同じくらいだね。けど、僕も
切っても意味がないのか。周囲に飛び散った触手から新たな触手が生え、四方八方から直樹たちを襲う。大きさは先ほどよりも小さいが、数が比べ物にならないほど多い。むしろ小さくて数が多いから、余計厄介だ。
しかし二人は慌てない。
直樹はチラリと大輔を見る。大輔は問題ないと頷きながら、その場でスピンしながら跳んだ。スケート選手真っ青だ。四回転ではきかない。十回転はしている。
「……つまり、無理に使った方が回復が早まるのか?」
「どうだろ? 両方ともアレの眼だし」
「ああ、確かに」
大輔が着地したのと同時に、襲い掛かってきた無数の小さな触手が一つ残らず消し飛んでいた。
と、遅れてパパパパパパパパッと空気が弾ける音が聞こえ、周囲一帯の建物が崩壊する。
大輔の両手には形状の違う二丁の銃があった。
まず右手。名はイーラ・グロブス。
四十八口径の銃口を持つ銃身四十センチほどの自動拳銃。灰色の重厚な全身には金茶色の線が走る。拳銃というには長すぎるが、その肉厚な全体を見れば、納得のいく長さ。
そも自動拳銃は言ったが、地球のそれとは構造が異なる。スライド機能はない。セイフティーもなければハンマーもない。
見た目と弾倉がそれに近く、一弾ごとに自動で次弾装填をしてくれる
まず
リロード時は、魔力操作で弾倉を排出、近くにある特定の弾倉を引き寄せて自動で装填する。排出した弾倉は地面に捨てられることはなく、ベルトに下がる弾帯にスッポリと収まる。
そも大輔はオタクで多少知識はあろうとも、地球の銃も銃弾を触ったこともない。再現するのは難しく、
次に左手。名はインセクタ。
横並びの二十八口径の銃口二つと、六弾装填できる横並びの回転式弾倉を二つ持ち、全身三十センチほどの回転式拳銃。黒緑の銃身には蜘蛛の巣の如く金茶色の線が走る。とても重厚で頑丈。
こちらも回転式弾倉があるから回転式拳銃と述べたが、中身は全くもって別物。弾丸の構造が違うためこちらも排莢の必要がなく、弾倉が二つあり振出式。
リロードの際は二つの
引金にはイーラ・グロブスと同様の機能が組み込まれており、二つ銃口があるためトリガーの魔力操作によるギミック操作で発射する銃弾の数を決めることができる。魔力操作によっては指定した時間差遅れでそれぞれを放つことができる。
ちなみに材料には虫の魔王の眼球と心臓、魔石が使われている。
大輔はイーラ・グロブスとインセクタに組み込まれた空気砲を放つ機構を使用し、マシンガンの如く圧縮した空気弾を連射し、正確無比にすべての触手を打ち貫いたのだ。
空間干渉にあたる“収納庫”が使えない今、実弾を使うのはすこし躊躇われたのだ。あとは、音速ほどしかない空気弾で触手の強度を確かめるためもあった。
直樹は建物が崩れ去るコントラストに顔を顰めながら、幻斬と血斬を逆手に持った。
「まぁともかく、強度は空気弾でも問題なさそうだな」
「うんあとは、あれをどうやって消滅させるかだけど……直樹はあとどれくらい使えそう?」
「マージンを考えると、200ちょっとだな。お前は?」
「500ちょっと。流石に
地球に強制送還された頃よりも減少していたステータス値は幾らか回復している。大体、二倍程度だろうか。
しかしながらそれでも使える魔力量には限りがある。まして今は、二割までしか使えないという制限があり、既にその半分は
一昨日の
だが目の前の
元が取れないのだ。
だが。
「まぁそれくらいでも問題ないか」
「そうだね」
無数の極太の触手が直樹たちを襲う。二人は後退しない。鞭のようにしなりながら振り下ろされる極太の触手へ向かって走る。
速いのは直樹。音速をも突破する速度で走りながら、襲い来る触手を回避する。そのまま振り下ろされた極太触手の上に乗り、その上を駆ける。
バンッと直樹の一蹴り一蹴りで触手が弾け、孔が空く。遅れてやってくる衝撃波が触手をすべて消し去る。まるで直樹が闇の触手を浄化しているようだ。
だが、音速だ。直樹には猛烈なGはもちろんのこと、極寒の衝撃波が襲い掛かっている。体にかかる負荷は多大だろう。
なのに無傷。肉が砕けたりもしていなければ、髪型が崩れている様子もない。黒装束の一切にほつれもなければ凍ってもいない。
理由は直樹が着ている着物仕立てに似ているフード付きのローブ。風圧調整に温度調整、重力調整、身体強化、隠密強化……。大輔お手製のアルビオンでは神具とも言われるほどの力を持つ装備だ。
名前はない。
「肉弾戦は得意じゃないんだよね」
御冗談を。そんな阿呆なことを言いながら振り下ろされた三つの極太触手に向かってイーラ・グロブスを向ける大輔。
パーンと間延びした銃声が一つ響いた。それが確認できた頃には、その三つの極太触手が
やったのは単純。音速の三倍で放たれる四十八口径の通常弾を
大輔の異世界で鍛えられた銃技は極まっている。
故に
しゃべるバイクと旅する精悍な少女が使う技だ。大輔は必死になって真似した。それなら
閑話休題。
直樹は音速で極太触手の上を駆ける。
次々と襲ってくる極太触手は肉体だけで放たれる衝撃波で消し飛ばす。そして次の極太触手に跳び移る。また消し飛ばしては跳び移る。
絶え間なく襲う細い細い触手。幾度も直樹を触手の牢獄に閉じ込めようとするが、クルリクルリと常闇と深紅の小太刀を
音より早く駆け、衝撃波が常に迸っているはずなのに、感じるのは静。静寂纏ったその一筋の影は、おぞましい触手を清浄へと浄化する。
そも
気が付いた時には、別の触手が吹き飛ばされている。そこにいたと、気配や魔力、存在を感じていたのに、それは幻だった。人外の近くを持つ
恐るべきはその隠密偽装戦闘。戦いの最中ですら相手を騙す優れた認識操作。
大輔はコンクリートの大地を駆ける。流石に音速で疾駆しなければ闇の触手に逆に絡め取られることになる。生産職であり基本的に肉体スペックが高くない大輔は、やろうと思えばできるがわざわざ直樹みたいに駆ける必要はない。
だから
細い触手相手には空気弾を、極太触手相手には実弾を放ち、穿つ。高等技術であるはずの多撃同時連射を普段使いしながら、間断なく襲い来る触手を貫き、消し飛ばす。パンッと空気が破裂する。
右手に持つイーラ・グロブスをベルトの右に下がる複列弾倉の弾帯に流れるようにあてる。すればグリップの底から空の複列弾倉が排出さる。
またグリップに組み込まれた機能により、弾帯に下がる未使用の複列弾倉の一つがおもむろに浮き上がり、自ら装填する。排出された複列弾倉は装填された弾倉と入れ替わるように弾帯に収まる。
左手に持つインセクタの二つの回転式弾倉をそれぞれ横に振り出し、それをベルトの左に下がる剥き出しの銃弾の弾帯に流れるようにあてる。すれば回転式弾倉に組み込まれた機能により、弾帯に下がる剥き出しの銃弾がおもむろに浮き上がり、自ら装填する。銃弾に薬莢がないため空薬莢はない。
隙なく交互にリロードする。絶え間なく引き金を引き、時にはイーラ・グロブスとインセクタを打撃として使いながら、踊る。翻る白衣が美しく、はためく金茶のネクタイが軽やかだ。
イーラ・グロブスは砲撃。一撃一撃が必殺の名を関するほどの威力を持つ。片手で持てる大砲だ。
インセクタは多彩。横並びの二つの銃口から放たれる弾丸を駆使し、ガンスピンを応用し、二つの銃口からの同時発射や遅延発射によって、互いの銃弾をこすり合わせ、軌道をずらす。
貫通性ではなく跳弾性に特化した弾丸を装填すれば、地面や近くの家、ビル、電柱……様々な障害物を跳躍しながら不規則な軌道で襲い掛かってくる。多跳躍交弾。しかも、事前に決められたかの如く一つの弾丸が十の触手を射貫く。
大輔の本領はモノづくり。
だが、それを支えるのは“天心眼”と“星泉眼”、“解析”や“黒華眼”の一部の
そしてその二つを利用すれば、敵の攻撃を予測し、誘導し、正確に銃弾を発出すれば予定通りの最大限の攻撃が可能となる。恐るべきはその機械のごとき正確無比な予測と銃撃。
「ギギャアッヤァルラウアリアロアッ!!!」
「チッ」
「面倒だね」
直樹たちを襲っていた触手たちが体に引っ込んだ。ウミウシに似たそのおどろおどろしい体が蠢き、ドクンドクンと脈動する。
面倒なことをするのは確実。そう踏んだ直樹と大輔は一瞬で空中に飛び上がり、反転。脈動する
さっさと殺す。
だから、温存していた魔力を使う。
「[首斬り]」
先に攻撃したのは直樹。
一筋の影となりて
[首斬り]。“暗殺術”の
つまり“暗殺術[首斬り]”の魔力を幻斬と血斬に纏わせ、
真っ二つになった
「拡大――」
落ちる大輔は白衣をはためかし丸眼鏡をキラリと光らせる。イーラ・グロブスとインセクタを真っ二つになった
引き金を引いた瞬間、両方の銃口から飛び出た弾丸が拡大し、全長三メートルほどの大きさになる。イーラ・グロブスとインセクタの両方の銃口に組み込まれた機能の一つ、拡大化だ。銃口から発出した銃弾を巨大化するだけのシンプルな機能。
そしてそこらの砲弾よりも恐ろしい巨大な銃弾が音に及ぶ速さで空を斬った。
「[衝波弾]」
そして着弾。
その刹那、不自然な程に指向性を持った衝撃波が真っ二つの
[衝波弾]。“銃術”の
「……おい、俺ごと消し飛ばそうとしなかったか?」
「いや、直樹なら避けると思ったから配慮しなかっただけだよ」
「確信犯じゃねぇか!」
眼鏡をクイッ。迸った衝撃波が作り出した瓦礫の上に華麗に着地した大輔に、地面のそこから飛び膝蹴りが繰り出される。衝撃波と爆発に巻き込まれ、瓦礫に埋もれた直樹である。
大輔はカラカラと笑いながら、ひらりと飛び膝蹴りを躱す。
「じゃあ、死んで」
「死ね」
そして大輔はイーラ・グロブスを直樹へ向け、トリガーを引く。直樹は幻斬を逆手に持ち、大輔に向かって空を切り裂いた。
「「ッッゥァァゥッッァッッッァゥザァァァアアアアア!!」」
断末魔。それを聞いただけであまりのおぞましさに命すら失ってしまいそうな程の絶叫が響いた。
大輔と直樹の背後から。
それぞれの背後には、小さな闇のウミウシが
今はいない。消し飛ばされたから。消滅したから。イーラ・グロブスから放たれた弾丸によって。幻斬から放たれた魔力体を消滅させる不可視の刃によって。
直樹も大輔もともに今後使うのとマージン以外の魔力を使い切った。
同時に死んだと見せかけて二人を暗殺しようとした
失敗したが。
「にしても、強力な攻撃はなかったね」
「力が強い権能系とかは本体に残ったんだろ。だが、本体に残った魔力量が少ないから、見た感じそれすらも使えてないな」
「まぁ
「それをすると俺らに逃げられるからしたくないんだろうな……」
傷も汚れもない。息一つ上がっていない。先ほどの戦闘がまるで遊びだとでもいうように二人は雑談し、
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公開可能情報
“暗殺術”:暗殺に関連する事を補助する。
“暗殺術[首斬り]”:生物を斬ること、特に首を斬ることを補助し、魔力を刃に纏わせればどんな部位だろうと大きさにかかわらず断ち切ることができる
“銃術”:銃を撃ったりする際に使う技術を補助する。銃で殴ったりするのも補助する。
“銃術[衝波弾]”:込めた魔力量に応じて着弾時に指向性を持った衝撃波を放つことができる。また、その銃弾自体が纏っている衝撃波すらも纏め上げることが可能。
ステータス値
名前:佐藤直樹
種族:人
Lv:673
職業:暗殺者
体力:10648
魔力:6538
筋力:12239
俊敏:17094
精神:15289
防御:6443
魔防:6643
名前:鈴木大輔
種族:人
Lv:648
職業:錬金術師
体力:8208
魔力:16940
筋力:5295
俊敏:6394
精神:18403
防御:6843
魔防:6843
読んで下さりありがとうございます。
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