二十話 祓います
眼前に迫るおぞましい殺意。
隠し通す事を諦めた、もとい面倒になった直樹と大輔は、無数の闇の弾丸と蠢く闇手に軽く右手をかざす。一つの闇の弾が二人の右手に触れた。
「キュシサァゥァァィァァ!!」
すれば、それら全てが消し飛ばされ、宙を浮きながら迫っていた
そして一秒ほど遅れて、世界が震える。プラズマが発生し、空気が焦げ、轟音が鳴り響く。下にあったビルが全て吹き飛び、抉れる。
直樹と大輔は障壁を足場に空中に立つ。
「ほら、俺の右手には
「僕の右手だよ!」
もちろん、右手に力はない。
直樹は、始まりの魔法
大輔は、一瞬で“収納庫”から親指ほどの金茶色の宝石――
つまり、音の壁など軽く突破する超高温の空気の衝撃が放たれたのだ。もちろん、自分に被害が及ばないように細工がされている。
「……」
後ろ向きに落ちながら華麗にビルに着地したプロミネンスはもちろん、ジュエリーたちも唖然とする。
そんなプロミネンスたちを気にせず、直樹は両目を真っ黒に染め、右目を翡翠の星々で輝かせる。
「……チッ。閉ざされてやがる」
「え、これ直樹が閉ざしたやつじゃないの?」
大輔は真っ白に染め、左目を翡翠の星々で輝かせる。
「俺のはもって一日だ。……アイツ、パクりやがった。ってか、
「あ。ホントだ。隔たりが強すぎると思ったら、空間が何重にも連なってる。しかも……やっぱり複雑に絡まってるから無理やり干渉すると吹き飛ぶよ」
「ああ、分かってる。転移はなしだ。ってか、よくさっきの〝天轟〟で吹き飛ばなかったな」
「いや、さっきのでギリギリが超ギリギリになったんだよ。もう後はないよ」
異世界転移のための
そして二人の予想では、どんなに最適に戦っても
だからといって転移で
それ以前に、
先ほどの直樹の〝天轟〟で空間が暴発しなかったのは運が良かっただけだ。
二人は面倒だなと頭を掻き、頑張って魔力消費を二割に抑えようかなと思って、吹き飛ばされた
「待ってください!」
「あん?」
「うん?」
ホワイトに呼び止められた。直樹と大輔は首を傾げる。
「あれを、
「……お前ではアレに勝てないぞ?」
何を阿呆な事を、と言おうとして直樹はやめた。その代わり、挑発するように鼻を鳴らす。ジュエリーたちはホワイトに驚愕した表情を向けていて、プロミネンスは何とも言えない表情をしていた。
「はい。分かっています。ですがDさんたちではなく、私が、魔法少女が倒さなければならないんです」
「大輔でいいよ。もしくは鈴木。それか眼鏡野郎でも可。むしろ眼鏡は嬉しい」
真剣に訴えるホワイトに大輔が茶々を入れる。直樹は大輔の頭を引っ叩き、真面目に対応しろと視線で訴える。
……さっきまでふざけていたのはどこの誰だろうか?
「それはアレが悲劇の産物だからか?」
「ッ。やはり知っているのですか。先ほども魔女と仰っていましたし」
「いや。詳しくは知らない。ただ、怨みの塊なのは知ってるぞ」
直樹は冷徹な瞳でホワイトの薄桃色の瞳を射貫く。殺気が叩きつけられ、体が竦みそうになりながらもホワイトは目を逸らさない。歯を食いしばり、凛と立つ。
直樹はホワイトに感心しながら問う。
「勝てないのに何故戦おうとする?」
「悲しいからです」
「慈悲か? 同情でもしてるのか?」
直樹の体から静かな夜空の魔力が溢れ出る。先ほどの殺気とは比べ物にならない恐ろしい覇気が襲う。まるでそこだけ超重力が発生しているかの如く、空気が重くなる。あまりの重圧にプロミネンスたちは片膝を突く。
だが、ホワイトはその純真な容姿に似合わないニヒルな笑みを浮かべた。
「エゴです。可哀想な存在がいるから、救って
「随分と上から目線だな」
直樹は面白そうに笑った。大輔も興味深げにホワイトを見た。
「ええ。私は傲慢な人間なんです」
ホワイトは可憐に笑った。雪に咲く小さな花だ。
直樹が放つ覇気に片膝を突いていたプロミネンスたちは、ホワイトのその小さくとも凛と咲く笑顔に心を奪われる。自分を叱咤し、立ち上がる。
「それにです。私は
ホワイトはキッと直樹たちを見上げた。
「ですから、私は
決意を告げた。告げる必要はないのだろうが、言葉を口に出して第三者に伝えた方が覚悟が決まる。
「アタシもだ。アタシも戦う!」
「わたくしも戦いますわ!」
「……私も」
「わたしもですぅ」
凛と宣言したホワイトに心を震わせ、プロミネンスたちもザッと立ち上がり宣言する。
「そうか」
直樹はニヤリと笑う。大輔は爛々と目を輝かせる。眼鏡のスチャリと持ち上げ、光らせる。
「なら、少しだけてだ――」
これで二割の魔力消費でここから抜け出せるだろうと内心ガッツポーズした直樹は、ホワイトたちだけで
「大輔っ!」
「分かってるよ!」
真っ黒の目に白の花を咲かせた直樹は空中を蹴り、一瞬でホワイトの隣に立つ。大輔も同様でプロミネンスの隣だ。
二人はそれぞれを抱きかかえ飛び退く。それと同時に、直樹は[影魔]モード・グリフォンを召喚してジュエリーとレインを、大輔は細心の注意を払いながら、異空間庫である“収納庫”から
瞬間。
「シネェェェッッゥ!」
「正気かよ!? ってか正気じゃないからあんな化け物になってるのか!」
「言ってる場合じゃない! 爆発、爆発する!」
「わーってる!」
さっきまでホワイトたちがいたビルの頭上におどろおどろしい闇の門が開き、そこからおぞましい黒の鉄槌が現れ、ビルをペシャンコに潰す。それどころか、周囲一帯に巨大なクレータを発生させ、衝撃波がまき散らされ、プラズマが発生する。熱波が襲い、息苦しくなる。
ビルの周辺が歪んでいて、収束し、今にも破裂しそうなほどの
そんなに俺たちに死んで欲しいかよ、おい! と
直樹は歯を食いしばる。安定化に魔力はそこまで消費しない。だが、精密性だ。分かりやすく言えば、めちゃくちゃ切れやすい細い糸が団子状に絡み合っており、それを解きほぐす作業だ。切るのはもちろん、傷一つ付けてはいけない。
直樹は地球に帰ってきて一番焦っている。
また、空間の歪みで発生した熱風とプラズマは、通常の人間だけでなく魔法少女にとっても有害だ。
直樹はホワイトを庇い、大輔はプロミネンスを抱きしめる。[影魔]モード・グリフォンは影の巨翼でジュエリーとレインを庇い、
空中の障壁の上に立つ直樹と大輔は制服を魔力でコーティングして、汚れがつかないようにする。
熱波に吹き飛ばされないように踏ん張り、頬を焦がしながら苦悶に息を漏らす。黒に染まり白の花を咲かした直樹の瞳から血が流れる。
「んにゃろうっ!」
裂帛の叫びを上げ、血がホワイトの頬に落ちる。
「佐藤さん!」
「直樹でいいぞ」
そして空間が安定した。苦痛に顔を歪ませて目から血を流す直樹をホワイトが心配するが、直樹はニッと笑う。
「今やるぞ!」
「しょうがないねっ!」
「あ、ちょっ!」
「えっ!?」
直樹の呼びかけに大輔は面白そうに笑った。自分と同じくらいの身長のプロミネンスをぎゅっと胸元に抱きしめた後、ぽいっと宙へ投げる。直樹もホワイトを投げる。
「投げます」
「クェ!」
「……え」
「はい!?」
「はひぃ!?」
それに続いて
しかしそんな事で驚愕を晒すなど愚かなこと。
「来い、影の手!」
直樹が影の手――[影魔]モード・ダークハンドを五本、それぞれの魔法少女の足元から現れる。直樹がフィンガースナップをすると、その[影魔]モード・ダークハンドは、五人の胸を貫く。
そして
それぞれのコアが[影魔]モード・ダークハンドの手の中で輝くのを見て、五人は声にならない悲鳴を上げる。
だが、まだまだ終わらない。
「魂魄維持!」
襲い掛かってきた
サラサラと零れるコアの破片を見ながら、五人は変身が解ける! と危機感を露にした。しかし変身が解ける様子は一切ない。五人は呆然とする。
その瞬間、虚空から幾つかの鉱石を召喚した大輔が嗤う。いつの間にか黒の金属で裾が補強されている白衣や、その下に黒のシャツとズボン、金茶色のネクタイを身に纏っていた。ベルトには二種類の弾帯が幾つか垂れ下がっており、二丁の銃が差してある。
灰色の手袋をこれ見よがしに身に着ける。
「[天智]・[叡智]発動!」
大輔が叫ぶ。
それは“天心眼”の
それは“星泉眼”の
幾何学的模様がホワイトたちを包み込む。
だが、これだけでは終わらない。
「[技匠]、[天賦恩寵]発動! [分解錬金]、[連動付与]、[収束錬金]、[融合錬金]、[多重付与]、[錬成錬金]発動!」
それは大輔の十八番。
“錬金術”と“想像付与”の
そして。
「[分配錬金]、[付与分配]、[統合括錬金]、[統合括付与]発動!」
「魂魄同調!」
テンションアゲアゲの大輔がピカーと丸眼鏡を光らせ、直樹がうわ眩しっ、と目を覆いながら叫んだ瞬間。
[影魔]モード・ダークハンドを巻き込みながら、五人の中心にあった巨大な宝玉が五つの小さな宝玉に分かれ、それぞれの胸に溶け込んだ。
「え」
「何だとっ?」
「力が溢れてきますわ!」
「はひ!」
「……溢れる」
五人の胸から光が溢れ出る。大輔の柏で一つでバンッと波打ち、巨大な力を発生させる。全員が固有の光に包まる。
そして弾けた。
「おお、やっぱり潜在能力は高かったらしいな」
「だから、流れるようにスマホを出して写真を撮らない」
「フリだよ」
「それでもだよ」
そこにいたのは、先ほどとは全くもって違う魔法少女。
背中に雪の桜の翼を生やしたのはホワイト。元の薄桃色の衣装を基調とし、そこに粉雪が舞い散っている。眼は新雪のように真っ白に染まり、そこに薄桃色の桜が咲いている。
頭に付いていた薄桃色のリボンは、桜の花飾りへと変わっている。手に持っていたステッキからは、桜の花びらが吹雪く。
紅焔の長髪を揺らめかせるはプロミネンス。長髪はもちろん、深紅のドレスすら凛と燃える炎に彩られている。蒼穹の瞳には小さな炎が浮かんでいる。
片腕だけだった蒼穹の腕輪は両腕に、しかもそこから赤いフィンガーレス・グローブが伸びる。大剣は蒼穹に輝き、ガードには白炎が走る。プラズマ纏う青白い炎が体の周囲から溢れ出る。
ダイヤモンドの翼をはためかせるのはジュエリー。金髪縦ロールはルビーのバレッタで纏められ、腰にはトパーズとルビーのボルトアクションライフルがそれぞれ一本、差している。
右目はルビー色、左目はトパーズ色の美しいオッドアイは輝き、宝石があしらわれたドレスは絢爛豪華に翻る。
大きさの違う雨雲の円環を三つ背負うはレイン。水で作られたポンチョを身に纏い、猫耳だけでなく、水の猫尻尾を生やしている。右手に持っていた水玉模様の傘は嵐を纏っている。
ポンチョのフードから覗く美空色の髪も水となり、生きているが如く蠢く。群青色の瞳には文字通り水の渦が浮き上がっている。
美しい黒髪をまとめるのは細い臙脂の鎖。それは首から胸元を流れ、腰に巻きついている。それだけでなく、同じ鎖があしらわれた黒ブーツを履いている。
それぞれが美しかった。凛と宙を浮かび、先ほどとは比べ物にならないほどの存在感を放つ。
苛烈に攻撃していた
[影魔]モード・グリフォンが
「でだ。お前たち。アレに勝てるか?」
「ここまでお膳立てされたら、負けるはずありません。それに、勝つ負けるではなく、私たちは
「そうか」
凛としたホワイトの返答とプロミネンスたちの表情に、直樹と大輔は満足気に頷いた。そして吹き飛ばされた
「なら、露払いはしてやろう」
「キィィッィィサァァッァァマァァァッ!」
と、直樹がそう言ってフィンガースナップした瞬間、
そして別れた。無数の女の顔が埋め込まれただけの小さな闇の塊と、首を求めるように触手を伸ばし、蠢き続ける巨大な闇。
本体は一目見れば分かる。無数の女の闇、
「張ります」
「ありがとうございます」
薄く光る結界で隔たれられた向こうにいる直樹たちに、ホワイトは頭を下げた。プロミネンスたちも遅れて頭を下げた。
「じゃ、頑張れよ」
「頑張ってね」
直樹と大輔は少しだけ照れたように頬を掻き、空中の障壁を蹴って、
ホワイトたちも顔を上げ、
「ホワイト、号令を」
「……分かりました。
ホワイトはビリリと覇気を響かせた。それに応じて、花吹雪が彼女の周りに広がる。いい演出だ。
「ああ!」
「ええ!」
「はひぃ!」
「……ん!」
そしてホワイトたちは
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公開可能情報
“淵源魔法”:世界の根幹に対して干渉・創造する事の出来る魔法を
“淵源魔法[空間魔法]”:世界の根幹の一つである空間に干渉・創造する魔法を
空間魔法:世界の根幹の一つである空間に干渉・創造する魔法。
空間魔法・〝天轟〟:空間を震わし、強大な激震を与える空間魔法の一つ。空気を震わす衝撃波よりも強大。小さく空間を震わし、共振させることによって一生終わらない空間の振動を作れるが、いずれ大きな揺り戻しで止まる。世界の自浄作用。
“天心眼[天智]”:
“星泉眼[叡智]”:
“錬金術”:金属鉱物に特化するように鍛えている。
[分解錬金]:物質、特に金属鉱物を分解することを補助する。
[収束錬金]:とある一点を起点に周囲にある物質、特に金属鉱物を収束させる。
[融合錬金]:触れ合っている物質、特に金属鉱物を融合させる。融合率などは、本人の腕による。
[分配錬金]:一つの物質、特に金属鉱物を、指定した比率で分配する事を補助する。
[錬成錬金]:物質、特に金属鉱物の操作全般。造形、圧縮、分解、融合。だいたい、最後の仕上げで使われる。
[統合括錬金]:一定時間内に行った錬金工程を、統合し一括で再度行う。すると、格段に強化される。
[技匠]:あらゆる物質、特に金属鉱物に干渉することを補助する。補助率は最強で、物理や魔力的に触れていなくとも知覚さえしていれば物質、特に金属鉱物に干渉できるようになる。また、集中力がめっちゃ上がる。
“想像付与”
[連動付与]:魔力パスで結んだ金属の一つを付与することによって、他の金属鉱物にもその付与を連動させる。
[多重付与]:多重化した付与を可能にする。
[付与分配]:付与した力を同比率で分配する事を補助する。
[統合括錬金]:一定時間内に行った付与工程を、統合し一括で再度行う。すると、格段に強化される。
[天賦恩寵]:これから想像した力よりも一段階上の力を付与できる。
読んで下さりありがとうございます。
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