十五話 当ててんのよ
「あれ? ねぇ、聞いてる? お~い」
「ッ」
最強と言わしめる
ここで機嫌を損ねるのは不味い。特に
「あの
「お、答えた、ありがと。可愛らしい顔して、君って結構胆力があるね。っと、そんな事はおいておいて、あれが最強?」
「はい」
「特一級に分類され、
「特一級っていうのは、何?」
「ええっと、
「へぇー」
次々と情報を漏らすホワイトにプロミネンスたちは、慌てて止めようとするがその前にホワイトが静かに首を振った。ここで逆らっても意味がないと。
それに。
(何か、考えがある?)
ホワイトの眼差しには確かな光があった。プロミネンスたちはそれを読み取った。だから、従順の意を示すために紅茶やクッキーに手をつけながら様子を見る。
「じゃあ、
「……その前に一つだけ質問をいいでしょうか?」
「いいよ。ホワイトさん」
ホワイトは
「Dさんは
「うん。完全な部外者。ただ海辺にいたらこの空間、
あっけらんと言い放ったその言葉に、ホワイトは、では、と疑問を呈する。プロミネンスたちは少しだけ引っかかったように眉を顰める。
「何故、
そしてホワイトの言葉を聞いて、合点がいく。それと同時に一気に険しい表情になり、殺気を叩きつける。
「それは親友から聞いたんだよ。ほら、プロミネンスさんだっけ? 三日前に会ったでしょ、白仮面の男。まぁNって呼ぶけど、Nも僕と同じで三日前に初めてこの空間に迷い込んでね。そりゃあ、驚いてたよ。あと、本物の魔法少女に会えて喜んでた。あ、けど、プロミネンスさんを勝手に撮った写真は消しておいたから。全く、マナーがなってないよね」
「ッ!」
呆れた声音で話されたその内容にプロミネンスは息を飲む。そして、怒鳴るように問いただす!
「ハエレシスとはなんだ! エクソシストとは、陰陽師とは!? 貴様があの白仮面男と親友なら知っているだろう!」
あの戦いの後、プロミネンスにはある疑問が生まれていた。
魔法少女以外にも魔法を使う存在がいるではと。いや、そもそも自分が所属している機関だって、ふんわりとした存在だった。国の極秘組織とか言ってはいたが、それでも詳しくは説明されていなかった。
そんな疑念の元、彼女は現所属の局長、倉敷恵美と、過去所属の局長、杉宮日和にそれを尋ねた。
だが、それは濁された。あからさまに濁された。
今はそれを知る機会。また、機械犬を操る大輔の言葉の真偽を確かめる機会。
「いや、僕もNもあんまり知らないんだよ。そも地球にファンタジーがあるのを知ったのもつい最近だし。でも魔法……いや魔術を使う機関らしいよ。
「ッ!」
出るわ出るわ新情報のオンパレード。その真偽は定かでないが、プロミネンスは息を飲む。ホワイトたちも同じだ。その機械犬が発した内容を戯言と断じようにも、目の前に摩訶不思議な存在がいるのだ。
ホワイトは逸る心を抑えて、真偽を確認しようとする。
「それだけじゃ、DさんとNさんが親友だという証拠はありません。いえ、その前にDさんが
「ねぇ、それ答える必要ある? 質問を許可したけど、真偽の確認は許可してないよ」
「ッ。も、申し訳ありません」
その冷徹な言葉は、ホワイトだけに向けらていたわけではなかった。プロミネンスたちが冷や水を浴びせられたように青ざめる気配を感じながら、ホワイトは慌てて頭を下げた。
機嫌を損ねるのは本当に不味い。人畜無害そうな口調で話すからつい心が逸ったが、目の前にいるのは礼を欠いてはいけないのだ。
「まぁ、いいよ。……あ、でもな――Nには来てもらった方がいいかな。君たちを機関に返さなきゃいけないし」
そういえばと、呟いた機械犬はトルルルルゥと音を立てる。
「あ、N。……ちょ、迷惑電話じゃないから。頭文字、頭文字。そう、僕はD。それでこっちにちょっと人がいてさ。え、うん。異空間を挟んでも連絡できるように……って、今はそれはいいや。ちょっと今から送る座標に来てくれない? あ、やっぱりこっちが門を開くよ。あ、認識阻害は忘れないでね。あ、そうそう、それ。魔法少女。いや、場所があんまり分かっていないし、それに僕は僕で手が離せなくって。え、ああ、魔力資源が見つかってさ。一ヶ月分は……え、それは後? 準備できた? 分かった」
虚空を向いていた機械犬が
「ということで、門を開いてくれる?」
「かしこまりました」
そしてそこから。
「で、なんのようだ? あ、てか、ぷー――ぶべらっ!」
出てきた白仮面を被った黒の甚平姿の男――直樹が、周囲に張っている結界に叩きつけられた。目にもとまらぬ速さで動き、どす黒い光を体から漂わせる
「おい、
「ちょ、重い、痛い。名付け親になんて仕打ち――」
「あ゛あ゛ん?」
「ご、ごめんって、
「当ててんのよ」
「そうじゃない!」
実はこの
そしてこの
なのだが、この
この
と、まぁそれは置いておいて、
ただここで問題が発生した。黒髪黒目。胸の大きさや身長、メイドという趣味は合った。ヴィクトリアンメイド服やモブキャップなどの衣装もほぼ同意見だった。
だが、そのロングスカートの下に履いているニーソックスの色だけは意見が違った。違ってしまった。妥協できなかった。
白と黒。
そんな色の違いで小さな森一つを破壊するくらいには喧嘩し、喧嘩し、そして大輔が最終的に勝った。黒ニーソになった。コイントスで決まった。
しかし納得いかなかったのか。深酒をして酷く泥酔した直樹は、皆に内緒で勝手に名付けをしてしまった。一度設定すると変えられない名付けをした。
プー子と。
大輔たちは激怒した。それでも何とか執り成して、しょうがない、ということになった。二週間程度、誰も直樹とは口を聞かなかったが。娘と息子にすら蔑まれた目で見られ、飲まず食わず五日間土下座してようやく許された。
しかし、過去のデータから再現する疑似的な感情はあろうと、本質的な感情を持っていないはずの
とても酷い名前なので当たり前なのだが。
なので、大輔たちは
「はぁ、
「……かしこまりました」
溜息一つ。直樹への足蹴り一つ。銃へと変形した手でゴム弾を一発放つ。
「
「いや、それはまだあと。それより聞きたいことがあってさ」
「それで、ホワイトさん。
「ッ。あ、はい。
直樹は
それをチラ見しながらも、ホワイトは大輔が操る機械犬に他に何かありますか、と尋ねる。
「……じゃあ、魔法少女とそれ以外に
「生まれた経緯?
「なるほど」
「それと特二級などの
「へぇー」
赤く腫れた手を抑えながら直樹は、感心したようにホワイトを見た。
ホワイトは直樹の事を白仮面の男としか認識できていないため、いや、そもそも印象が薄いので幽霊を前にしたかのように身を
「それじゃあ、魔法少女について話してね? 次は逸らしちゃだめだよ」
「ッ。わ、わかりました」
直樹が感心したのはそこ。二度も流れるように魔法少女というワードをすっとばし、話を逸らそうとしたのだ。仕草などによって自然な流れだったため、意外と油断ならない子だな、と思う。
ホワイトは申し訳なさそうにプロミネンスたちを見た。魔法少女について話すことは、自分のみならずプロミネンスやまた、支部にいる仲間などに迷惑がかかる。
何もできないプロミネンスたちも申し訳なさそうにホワイトを見て、首を振った。
ただ、ジュエリーは。
「魔法少女についてはわたくしがお話しますわ」
「あ、そう。じゃあ、お願い。ジュエリーさん」
今まで飲まれていた自分に喝を入れ、背筋を正し、機械犬に勝気な深紅の瞳を向ける。ホワイトは驚き慌てて口を開こうとしたが、ジュエリーが制した。ここで後輩だけに任せてたら、先輩としての名折れだと。
「魔法少女とは
「
「はい、これの事ですわ」
ジュエリーはそのたわわに実る胸に手を当てる。すると、紅と金に輝く光が溢れ、そこから紅と金が混じり合った宝珠が出てきた。これを破壊されば魔法少女には変身できなくなる。
その危険を犯したジュエリーはワザとらしく、その宝珠を撫でた。
「これを身に宿すことで、わたくしたちは魔法少女に変身することができますわ。そして変身時は身体能力が強化され、二つ、特別な力が使えますの」
ジュエリーは大仰なそぶりをしながら、ルビーの指輪とトパーズの指輪をゆっくりと輝かせる。すると丸机の上に小さな宝石の壁と宝石の弾丸が現れた。
「わたくしの力、≪金剛≫と≪宝弾≫ですわ。魔法少女は各々の装備を通して力を使いますの」
「なるほど」
プロミネンスなら蒼穹の腕輪が≪灼熱≫、大剣が≪直観≫。≪直観≫は大剣が体に触れている限り常時発動している。また、プロミネンスは大剣の小さな欠片を懐に隠し持っている。欠片なので力は弱くなるが、これにより大剣を手放したとしても≪直観≫を使えるのだ。
「また、
「うん? じゃあ、あの黒服たちも魔法少女なのか?」
直樹が思い出したように問いかける。白仮面しか認識できないどころか、印象が薄すぎる直樹に話しかけられてジュエリーは一瞬息を飲む。内心で舌打ちし、渋々と頷いた。
「いえ、彼女たちは元魔法少女ですわ。二十歳を超えると強制的に
「なるほど。身体能力の強化と
「そうですわ」
この情報は渡したくなかった。そんな内心を見せずにジュエリーは美しく笑う。ホワイトたちは紅茶の飲むふりをして何とか、引き攣る頬を隠す。
大輔たちは一応それに気が付いているが、まぁいいや、と次の質問に移る。
「じゃあ、次。君たち、高校生くらいでしょ? 昼間に
「ッ。……昼間には
「ふぅん。じゃあ、どうやって魔法少女になったの? 経緯は?」
ジュエリーは言い淀む。だが、しかし、少しだけ瞠目した後、ゆっくりと話し始めた。
「わたくしのお父様が
「ごめん。それ以上は話さなくてもいいよ。うん。分かった。報酬があるんだね。失った記憶をどうやって回復させるかは気になるけど、まぁ死ぬまで戦おうとしてたから、殉職したらしたで、家族の一生を保証するとかそんな感じかな」
「……そうですわ」
ジュエリーは沈んだ表情で頷く。大輔が操る機械犬は他の魔法少女たちを見る。
「他の子たちも同じ感じかな。もしかしたら復讐心とか正義感もあると思うけど、協力するなら大切な人を助けるとか、お金が手に入るとか。それと現段階でも学費の免除とか、そう生活支援もあるのかな」
「……はい」
ホワイトは沈んだ表情で頷く。プロミネンスたちも同様だ。
「なるほど。自分のケツは少女に拭かせる、か」
「あん? 何のことだ?」
ポツリと呟いた大輔の言葉に直樹は首を傾げた。
「あ、いや。後で話すよ。それより気が付いてる?」
「ああ。こいつらの目的はこれだったらしいな。強かだな?」
「まぁ時間稼ぎされたのは確かだね」
「ッ!」
暗い表情をしていたホワイトたちは息を飲んだ。バレてる。他の魔法少女や元魔法少女が来るのを待っていたのが、バレていると!
だが、大輔たちはあまり気にしない。
「じゃあさ、面倒だけどあっちの方々も一緒に送り返しちゃって。あと、一日くらいこっちに来れないように細工もお願い」
「……元は取れるのか?」
「当たり前じゃん。じゃなきゃ、
「
ホワイトたちは慌てて席を立とうとした。けれど、それは無理だった。
「なんだ、これは!」
ホワイトたちは動けない。影の蛇が体中に巻きつき、地面に縛り付けられる。
印象が薄い直樹はそれを一瞥しながらフィンガースナップをする。
「転移能りょ――え、杏っ!?」
「ゆ、ゆき!?」
「望!?」
「生きてる……の……?」
すると、少し離れた空中に黒渦の転移門が現れ、そこからスーツ服姿の女性や魔法少女衣装の少女数人、黒服サングラスの女性たちが落ちてきた。
突然のことに驚いていたが、しかしホワイトたちを視界に入れた途端、安堵とも驚愕ともつかない歓喜と困惑の声を上げる。
感動の再会。
しかし直樹はそんな事気にしない。
「では、グッバイ。今日と明日は休日だし存分に寝なよ」
もう一度フィンガースナップ。すると、影のグリフォンが数体現れ、全員を鷲掴む。同時に“空転眼[黒門]”で作り出した転移門にホワイトたちを掴んだまま飛び込んだ。
黒渦の転移門が消え、シーンと静かになった。
「終わったぞ。で、何してるんだ?」
「まぁまぁ先にこっちに来て。上手くいけば一ヶ月、いや二ヶ月分の魔力を奪い取れると思うから」
「そうか」
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読んで下さりありがとうございます。
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