第12話 一人で夜中に起きてると変なテンションになる。


 スキルの検証中。ナビゲーション先生マジ有能。



「よ、呼び方は何がいいですか?」


『回答:オプションスキル「ナビゲーション」通称「ナビさん」が登録されています。変更しますか?』


 あ、冗談で言ってみただけなのにな~。


「変更はいつでも可能?」


『回答:いつでも可能です』


「じゃあ、しばらくはそれで。スキルの検証を続けるから質問があった時はよろしく」


『回答:了解しました。待機します』


 ふう……一瞬自己主張の激しい、メインヒロイン枠の人格プログラミングかと心配したが、結構普通でまともだったな。暇な時に詳しく検証することにして、今は他のスキルを試しておかないと。


「さてと、『鑑定』もいいけど、やっぱり異世界は魔法だよな。とりあえずセオリーどおり魔力を感じるところから始めてみるか」


 読んだことのあるラノベでの表現はほぼ同じだ。丹田か心臓辺りに魔力の塊があって、血管に沿って循環させる。

 うわっ。やろうと思っただけでできた。瞑想も座禅も要らなかったよ? 無属性魔法Ⅹってハンパねえ! というより、ボーナスポイントがチートなんだな。


 神爺さんに感謝しつつ、次に進もう。


「魔力、じゃなくて『魔素』を直接動かして……おうふ。見えないのに手の形になってるのがわかる感覚、マジ感動。これって触手にも……なった!」


 いくつか枯れ木を触手で倒したり持ち上げたりしてみた。ラノベ風にいうと『マジック・ハンド』か『サイキック』ってとこか。かなりのパワーと射程距離がある。細かい数値はナビさんに任せて次行ってみよう!


「火属性か光属性がいいかな。詠唱は、なくてもいけると思う」


 男なら誰もが持っている中二心。魔法らしい魔法を使ってみるときが来た。でも中二全開の詠唱とかは勘弁。

 基本情報では詠唱が必要ってあるけど、科学、ラノベからの知識を応用すると必要性を感じないし、神爺さんも明言はしていなかったが俺の予想を否定しなかった。ま、既に無属性魔法で証明したけどな。


 たぶんアレだ、『魔法はイメージ』理論。そうだな、例えれば、この世界はファミレスで、『精霊=魔素』がウエイトレス、魔法使いは客って感じかな。客がお金(魔力)を払って注文(詠唱)すると料理(魔法)が出てくる。みたいな。

 実際注文する時『クリーミーバニラフラペチーノウィズエスプレッソショットトールサイズ』なんて正に呪文のように口にする必要はないと思う。メニューを指差して『これください』で話は通じる。常連さんなら『いつもの!』で済んでしまうかも。


 この世界の人たちは、試行錯誤の結果魔法が使えるようになり、後世に伝えてきたのだと思う。流派で違いはあるのかもしれないが、詠唱の仕方も代々伝わったはず。そうすると呪文が古臭くなるのは当然である。

 そして『決まった呪文を正確に詠唱しなければ魔法は発動しない』とか精神に刻み込まれちゃったんだろう。だから『ためしに適当な呪文で詠唱』しても当人が内心『発動しない』と思ってるわけだから必ず失敗する。そして何より歴史と権威が証明になってるのだろう。誰も反論できない。

 怖いのは、そんな微妙な心理状態まできちんと処理している『精霊』さんたち。ひいてはそのシステムを作ったという代表神。もし記録を残していれば、何年何月何日何時何分誰が何を考えていたのかを知ることができる。神に反逆したら黒歴史が垂れ流されるという天罰が下る。なんと恐ろしい。大概の日本人なら絶対服従だな。


 また思考が脱線してしまった。とにかく、詠唱は適当でいい。イメージだけしっかり『精霊』に伝わればいいのだ。


「ファイヤー・ボール!」 


 これぐらいの発声は精神衛生上も問題なし。思ったとおり火の玉が手のひらを向けた方に飛んでいく。うん、方向、大きさ、速度もイメージどおりだ。俺はチートはもらったけど、チート主人公のつもりはないので、初めての魔法が威力が強すぎたなんてことはない。……安心できたようなちょっと悔しいような……


 後は魔法の発動場所の検証。イメージができれば特に手を翳す必要もないはず。

 成功した。無属性魔法と同じ射程範囲内のどこからでも発射できた。おわー、奇襲し放題だ。これは使える。


 検証として、暗がりの中という条件も考慮してわかりやすい火属性魔法を使用したのだが、実は火魔法に関してはちょっと理解の追いつかない点がある。

 その他の水風土、スキルは取らなかったけど、氷、雷については、小中学生の科学知識で十分理解できた。結局は『分子の運動』なのだ。『火』じゃなくて『熱』なら疑問には思わなかったが、『火』というのは一体なんだろうか?

『燃焼』と考えても『酸素との結合』はわかるが、じゃあ、『何と結合しているのか』という問題が残る。魔素? だったらそこらじゅうに魔素があるんだから延焼するだろ、世界中が。火の七日間になるぞ。

 俺程度の科学知識では思いつかない。まあ、『魔法だから』で済むけど。ナビさんや神爺さんに聞けばわかるだろう。そしてわかったからといって何が変わるわけでもなさそうだ。逆に神界の機密事項に触れてしまうというデメリットがあるかもしれない。もしかしたら『神界にあるガソリンスタンドからガソリンを召喚した』っていうオチかもしれない。

 うん、そういうことにしておこう。


 召喚で思い出したが、『召喚魔法』取るの忘れてた。フェンリルとかいいよね。うち、ペット禁止のマンションだったからモフモフは憧れ、異世界ならスライムも定番だよね。何とかティムできないかな。今度ナビさんに相談しよう。異世界生活、潤いも必要だ。


 また脱線した。一人で夜中に起きてると変なテンションになる。異世界生活一日目だからしょうがないか。

 検証を続けよう。


 その後、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法を試してみたが、所謂『初級魔法』は簡単に成功したのだった。十分、攻撃や生活に応用できそうである。風魔法と無属性魔法の区別ができなかったが、それは文化・習慣の違いということにしておく。異世界といえば中世ヨーロッパ風が定番だからね。地域によっては『五行思想』とか『陰陽道』があるかもしれないし。


 そうそう。一つ新しい(スキルを取っていない)魔法を考えてみた。『創造魔法』は禁止だろうって? そんな大袈裟なもんじゃない。無属性魔法の応用というだけだ。


 創ったのは『生活魔法クリーン』。幽霊を倒せそうな『浄化』ではない。単に身体の汚れを落とす魔法だ。ラノベ読んでて便利だなーといつも思ってた。魔素を使って分子を動かせるなら身体や衣服の汚れくらい簡単に落とせそうと思ってやってみたら、あらスッキリ! 

 今日は暑い中森を何時間も歩いて汗だくの上シャワーもないと来てるから現代日本人として気持ち悪かったんだ。これで風呂と洗濯の問題も解決。たぶんトイレットペーパー問題も! 水魔法で○シュレットも完備。魔法万能!


 そんなこんなで魔法の検証をしていると、いつの間にか辺りが明るくなってきた。夜は焚き火しなければならないほど寒かったが、日中は汗を掻くほど暑かったので、季節は夏なのだろう。地球の感覚でいうと午前5時ごろだろうか。或いは赤道近くか?


 俺は五時間も魔法の検証をしていたらしい。おっと、最後にステータス確認。


 名前 : ケント・ユウキ

 種族 : 人族-普人種

 年齢 : 17

 レベル: 32

 HP : 318/318

 MP :   3/370



 おお! MPが残り3だ! 0になるとどうなるかは一人じゃ危なくて検証できない。新さんの目覚めを待つか。

 一旦検証終わり! あー、楽しかった。



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 新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。


 連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

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