笑う門には衝撃破

武海 進

笑う門には衝撃波

 笑う門には福来る、という諺があるが、今魔物たちには福ではなく不幸が襲っている。


「あはははははははははははははは!」


 俺の隣で大笑いしている相棒のカノンの口から発せられている衝撃破により、魔物が次々と吹っ飛びながら塵へと変わっていく。


 一通り笑い終わった彼女の前にいた無数の魔物の群れは塵の山と化した。


「笑い疲れた。早く帰って休みたい」


 笑いすぎて出た涙を拭いながらカノンはいつもの無表情に戻ってしまう。


 俺と彼女が初めて出会った時も、こんな風に魔物に襲われていた。


 俺は魔物による被害が頻発するせいで暗くなった人々を少しでも明るくしようと人々を笑わせるお笑い芸人をしながら旅をしていた。


 そんなある日、旅の途中森に迷い込んでしまい、魔獣に襲われてしまった。


 そして必死に魔獣から逃げる最中、同じように魔獣に襲われていたカノンと出会い、一緒に逃げることになった俺達は逃げ場のない崖に追い詰めれてしまう。


 このままでは死ぬと思った俺は、最後に偶然巡り合った美少女の笑顔が見たいと思った。


 この世界では誰もがそれぞれ違う能力のスキルを一人につき一つ持っている。


 だから俺は、自分のスキルであるどんな人間でも笑わせることが出来るスキルを使いカノンを笑わせたのだ。


 そこで予想外のことが起こった。


 カノンの持つスキルが笑うと口から衝撃波を放つというもので、俺が笑わせたことでスキルが発動し、魔物達が全滅したのだ。


 その後何故スキルを使って身を守らなかったのか聞いたら、過去に色々あって感情がほぼほぼ死滅してしまい、笑うことが出来なくなってスキルを上手く使えないのだとカノンは答えた。


 俺も危険な魔物から人々を守りたいと思いながらも、人を笑わせることしか出来ないスキルのせいで戦えずに悩んでいたことを話すと、カノンからお互いのスキルが相性良いからとコンビを組まないかと持ちかけてくれた。


 それ以来俺達はコンビを組んで各地を旅しながら魔物を狩っている。


 宿に戻った俺達は、食事を済ませて二人並んでベッドに腰掛けていつもの日課を始めた。


 カノンの為に俺が笑えたり、泣けたりする話をして感情を取り戻す訓練をしているのだ。


 だが、今日も色々な話をしてみたが効果は無いようで、次第に瞼が重くなってきた俺の意識は話しながら途切れていった。



 私の隣で話しながら船を漕ぎ始め、そのまま肩に寄りかかかるように眠ってしまった彼の頭を私は膝の上に載せる。


 今日は魔物達を私のスキルの範囲内におびきよせる為に走り回ってくれたのだから相当疲れていたのだろう。


 よく眠っている彼の頭を撫でながら少し罪悪感に襲われる。


 彼には秘密にしているが、私の感情はそこそこ戻ってきているのだ。


 でもそれを彼に伝えてしまえば、自由にスキルを使えるようになった君に自分はもう不要だと言ってコンビを解散してしまうかもしれない。


 それだけはどうしても避けたかった。


 もう二度と笑うことは無いと思っていた私をスキルを使ったとはいえ笑わせてくれた。


 そんな彼に私は恋をした。


 笑う門には福が来ると言うが、数年ぶりに笑った私には確かに福が来た。


 人を好きになるのがこんなに幸せになるとは思ってもみなかった。


 だからこそこの幸せを私は手放したくない。


 その為ならば彼を騙すことも、それ以上のことをする覚悟もある。


「フガ! 猫が寝ころんだ……」


 眠っている間も私に感情を取り戻そうと、元お笑い芸人してはつまらないギャグを言う彼に思わすクスリと笑ってしまう。


 しまったと思った時にはすでに手遅れで、発動したスキルでベッドのそばにあった水差しが壊れてしまった。


 しかしそれを見て私は改めて思う。


 この水差しの様に私の幸せを守る為、この先も笑いながら邪魔するものを全て排除しようと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

笑う門には衝撃破 武海 進 @shin_takeumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ