魚を振るって成り上がれ!?〜呪いの装備【魚剣】が怨みポイントを溜めて覚醒し、自称神を名乗る怨霊もどきの美少女が顕現しました!?〜

ZUMUIHE

プロローグ 素敵な【魚剣】ライフを


 冒険者になって3年。

 ドラゴンとかを倒すとか、魔王の手下を倒すとか、凄いことはできていないが、生きていく分には問題ない程度には稼げるようになっていた。

 これからも頑張っていけば、強い魔物を倒すことができたり、複雑なダンジョンを踏破するみたいな冒険者っぽいことができるであろう。


 そんな俺であった。


 俺であったのでが……





「ふぁぁぁああああ~……あぁ~頭いてぇ」


 昨晩は久しぶりに酒を飲み過ぎたということもあり、おかげで若干二日酔い気味だ。頭がガンガンするし、体がだるい。


「てか昨日どうやって帰ったんだっけ? ……ひとまず……ここ家だから良いけど……」


 確か昨晩はギルドのほうで報酬を貰って……それからそのまま報酬で酒と料理を注文して……えぇ~と……それからなんやかんやたくさん飲んで、たくさん食べて……


「あぁ~ぜんぜん思い出せん」


 まぁひとまず家に帰ってきているのだから良いか。


 多分ギルドにいた誰かが酔いつ潰れた俺を家まで運んでくれていたのだろう。……もしそれが女性だったらちょっと嬉しいなぁ~なんて俺は呑気に考えながらベッドから起き上がった。


「? ……なんだこれ?」


 起きた俺が見たのは枕元に置かれた見知らぬ剣であった。


 全体的に青い色合いの鞘に納められた普通の剣。ただしどう見ても俺のではない。そもそも俺の使う武器はショートソードだし。


「俺を運んだ人が忘れたんかな?」


 ギルドの方でもあまり見たことがない剣であるが、まぁそれぐらいしか考えられないし、そうなのだろう。


 ……。

 ……。


「ううぅ……頭いてぇ……今日は流石に休むかぁ」


 こんな体調が悪いなんてものではなく、絶不調な状態でクエストに出てみろ。絶対ポンコツな剣を振るうことになり、狩ろうとした魔物に逆に狩られてしまう。それにこんな姿でギルドに行ったら確実に酒臭いって受付のお姉さんに思われる。そんなマイナス印象を抱かれるのはちょっと嫌だ。


「あぁぁ……うん……ひとまず水飲むか」


 俺はそう考えベッドから抜け出した。


 う~ん……にしても酒のせいか、なんだか臭いなぁ。生臭いみたいな、そんな感じの臭さを感じる。



そのときであった。


「うがぁっ!?」


 二日酔いでグラグラである俺の体に突然背後から衝撃が走った。今の俺がそれを受けて立っていられるはずもなく、勢いよく俺は床に倒れた。


「なんだ? ネズミでも入り込んだ……あ?」


 床から起き上がりながら後ろを見るとそこには剣が転がっていた。枕元に置かれていたあの剣だ。

 あの剣がコロリと転がっていた。


「まさかなぁ……」


 俺は恐る恐るといった感じでその剣を手に持った。


「……」


 特に代わり映えのしないごく普通の剣だ。

 強いて何かを言うならば、何だか魚の強烈な匂いがする気がすることぐらいか……。


 その剣を机に置き、俺は再び水を飲もうと歩き出した。


「うがっ!?」


 すると再び背中に衝撃が走った。


 背後を振り返るとさっき机に置いたはずの剣が床に転がっていた。


「まさかこれ……呪いの装備とか、ゴーストとか憑いてる装備か? はぁ……マジかぁ~。ゴーストは完全に専門外だぞ。てかそうなるとこれは綺麗な女の人の忘れ物ではないのかぁ」


 期待していたわけではないが、幻想が崩壊してちょっとだけショックであった。


「にしてもなんでそんなモノここにあるんだ?」


 起きてから時間が少し経ったことでほんの僅かに頭が回転するようになった俺は見知らぬ剣――しかも呪われているか、ゴーストが憑いている厄ネタが我が家に置かれているという異常事態に首を捻った。


 てかやっぱり臭いなぁ。

 生臭い。

 凄く生臭い。

 昨日の俺、一体どんだけ酒飲んだんだよ。


 そしてちょっとした興味本位から剣を鞘から引き抜いた。


「は……?」


 鞘の中から現れたのは禍々しい刀身とかではない。綺麗な刀身でもない。普通の、ごく一般的な剣でもない。


 鞘の中から現れたのは、それはそれは見事な魚であった。


 ……。

 ……。

 何を言ってるのか分からないかもしれないが、本当に魚であったのだ。

 どうやってこの鞘の中に納まっていたのかは分からないが、兎に角魚が出てきたのだ。


 まるで剣のように、本来なら刀身があるはずの場所には白銀色に輝く魚が生えていたのだ。


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


「寝ぼけてるのかぁ……」


 頬を抓った。


 夢ではない現実だ。


「……酔ってんのかぁ」


 刀身を触った。


 ツルツルするようなザラザラするような不思議な感触。


 酔いによる幻ではない。現実だ。


「……」


 俺は魚を鞘に戻した。

 どう考えても入るサイズではなかったが自然ときれいに収まった。


「ふぅ~。一旦水飲むか」


 俺は再び剣を机に置き、水を飲みに――


「うごぉぉぉッ!?」


 行こうとしたらまたしても背中に衝撃が走った。しかも今度は鞘の先っちょが勢いよくぶつかったのか、ちょっとだけ刺されたみたいに痛い。


「あぁ! もう何なんだ!」


 俺は思わずそう叫んでいた。

 ここがもし宿だったら店主に怒られるが、幸いここは自宅。我が一軒家なのでいくら声を出しても問題ない。


「さっきから何度も何度もぶつかってきやがって! これ以上邪魔するならへし折って、聖水かけて、除霊して、ゴミに出すぞ!」


 叫び声と共に床に転がる剣を机に叩きつけた。


 だが剣は突然宙に浮いて俺の腰に引っ付いた。


「はぁ!?」


『装備完了』


 そして腰に引っ付いたと思ったら女性の声が聞こえてきた。音源はどう聞いてもたった今俺の腰に引っ付いた剣であった。


「はぁッ!? どういうことだよッ!?」


『? 装備完了と言ったのですよ』


「は? ちょっと待て」


『では素敵な【魚剣】ライフを』


 俺は嫌な予感を感じ言葉を漏らすが、剣から聞こえる声は俺の言葉を無視してそう言った。


 そしてその声は聞こえなくなった。

 何度も話しかけたが一度も返事が返ってくることはなく、また装備を外すこともできなくなっていた。


「はあああああああぁぁぁぁぁ!?」



 冒険者になって3年。

 ドラゴンとかを倒すとか、魔王の手下を倒すとか、凄いことはできていないが、生きていく分には問題ない程度には活躍できるようになっていた。

 これからも頑張っていけば、強い魔物を倒すことができたり、複雑なダンジョンを踏破するみたいな冒険者っぽいことができるであろう。


 そんな俺であった。


 俺であったのだが、呪われた武器を装備することになってしまった。

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