第8話 苦労人と、宇宙聖女(その6)
まだまだ続くぞ! もうこうなったらやれるだけやったるんじゃあ!
♠ 不安がる宇宙聖女とさわこのルラギリ
近畿エリア大学で哲人達がワチャワチャしてた事などお構いなしに時は流れ、三月中旬、南陵学園の修学旅行は当日を迎えた。
参加する学生らと教師達は、各自大洗=スペースポートへと集合していた。
(これは、学校から送迎バスで出発すると「襲来、宇宙恐竜! 嵐に飲み込まれる林間学校!」事件の二の舞になる為の措置である。賢明な判断と言えよう)
・・・・修学旅行と言うのは、ある程度お決まりのパターンから選んで行われるのが一般的で、それはこの時代でも変わらない。
ただ、地球上の史跡の類は、日本リージョン内および他リージョンでも、天文台などといった僻地にあるものを除き、過去の大破壊によって殆どが失われている。
よって、渡航先は宇宙の別銀河、更にはその内部にある星系惑星にて、過去の外宇宙探査と開拓の歴史となるランドマーク巡りがメイン(姪っ子じゃない方)となる。
その中で最もメジャーなパターンは、やはり何と言っても「アンドロメダ銀河」を目指す航路であろう。
この、誰もが知ってるであろう銀河は、約230万光年離れた地球からでも肉眼で観測できる程巨大で、宇宙大航海時代に於いては一つの到達点であるとされていた。
(ちなみに、秋の夜空にてペガサス座とアンドロメダ座の近くで観測できる)
事実、最も早期に到達、開拓がなされ、その先の宙域への重要な足がかりとなっている他、過去に栄えたであろう様々な文明の史跡が見つかっている等、最早人類にとっては第二の故郷と言っても良い銀河であり、旅の終着点に相応しい場所である。
更には、地球を中心として、この銀河との距離である230~250万光年を半径とする円の範囲は所謂絶対人類文明圏であり、これらを結ぶネットワークの拡充と共に人類は発展してきたと言っても過言ではない。
その探索と発展の足跡を追う事で、人類が歩んできた道のりを追体験するというのが定番となるもの当然の事であろう。
巡り方としては
「カシオペア方面かららせん星雲、たまご星雲、猫の目星雲を経て一旦天の川銀河中心部をかすめる様してオメガ星団へ向かい、そこからりゅうこつ座、カリーナ星雲、かに星雲を経てアンドロメダを目指す」
という、半径1万光年の円をぐるっと一周してからアンドロメダへ向かうコースが主流だ。
ちなみに総航行距離は約470万光年である。
理仁亜ら南陵学園の学生らもまた、世間のお決まりに沿ってこのコースを旅する事となっている。
大洗=スペースポートに集合したのは、気の遠くなる様な距離を航行する宇宙船に乗り込む・・・・
のではなく、その宇宙船に向かう連絡用スペースバスに乗る為である。
前述の通り、470万光年もの距離を航行するのだから、修学旅行の学生らといった大人数を普通の宇宙船に乗っけて旅する事は不可能である。
こういった場合の為に、長期間の航行を可能にする、コロニー並みに巨大な観光用宇宙船が存在する。
元々は、大規模宇宙開拓移民船団用に開発されたものであるが、
「アレ? コレってさぁ~、何か観光? とかに使えんじゃね?」
「・・・・天才!」
と
その全長は何と約60km!
最早宇宙を航行する一つの国といってもよいだろう。
そんなデカさなので、一度地表で建造された後に飛び立ってしまえば、廃艦まで地表に降りる事は二度となく、静止衛星軌道上にて乗り降りする事となる。
故に、乗り込む為には連絡用スペースバス等で地表を離れる必要がある。
尚、このシップを利用する理由は航海の厳しさによるものの他にもある。
そのデカさを利用して、修学旅行する学校をある程度の数にまとめて引き受ける事で、目付を楽にするのが狙いだ。
教師らが他の学校と協力する事で、負荷を軽減出来るのだ。
ついでに、図らずも生徒らにとっても、他の学校の生徒らと交流出来ると言う、双方にとって滅多とない機会が得られりたりする。
よって、この様な方法で修学旅行をするようになったのは自然な流れと言える。
それ以外にも、この時期に旅する一般客への接触を極力避ける為という、割と身も蓋も無い理由もある。
羽目を外しすぎ、普通の観光客に迷惑をかける事がほぼ確定しているおバカさん達を巨大観光宇宙船に隔離している、という事である。
修学旅行の終了をもって、三年間の高校生活が終わる事となる学生らは、これから体験するであろう旅路を思い描き、ほぼ全ての者が
「ニチャァ・・・」
と笑みすら浮かべながら、期待に胸膨らませていた。
この学年を担当するまことら教師陣にとっても、この「常州浮かれ学生」らの目付を最後に、一先ずは教鞭を振るう先達としての責務から解放されるとあって、学生らと旅を満喫するような気分にはなれずに、否応なしに気合が入り緊張していた。
教師をしている限りはまた巡ってくるのであるが、それでも来年は一年生をみる番に戻る為、以降少なくとも三年間は未来を台無しにするようなおバカな行為をする生徒を監視する重責からは逃れられるのだから、無理もない事であろう。
そんな各人の思惑をよそに、宇宙聖女・理仁亜は自らの荷物を詰め込んだバッグをかかえ、これから処刑台の階段をのぼる死刑囚の様に青ざめ、小刻みに震えていた。
・・・・勿論、この一文を読んだ聡明なる読者諸兄においては、
「アレ( ^ω^)? 何で理仁亜が此処で震えよるの?」
と、当然ながら疑問を抱くであろう。
本来ならこの場に居ない筈の理仁亜が居るのだから当然の事である。
故に、こうなった経緯を説明させていただく。
普通であれば、これから修学旅行に赴く学生ら同様に、理仁亜も浮かれていてもいいのだが、もって生まれた
一般人なら何てことない連絡バスに乗り込む事でさえ、理仁亜にとっては命がけの事である。
しかも彼女のみならず、クラスメイトらをも巻き添えにするのだから、震えるなという方が無理であろう。
そうなる事が初めから分かっていたので、これまでの行事同様に、不参加を決めていた理仁亜であったが・・・・。
「体質のせいで事故っちゃって、旅行なんて無理よ!」
「だったら行かなきゃいいでしょ・・・・! 人間の寿命は200年もあるのよ、一週間ぐらい何よ!(女傑理論)」
と、折角覚悟を決めて開き直っておった所に、あろう事か、苦楽を共にした親友らの説得がその退路を塞いでしまったのである。
「高校最後なんだよ!一緒にいこうよ!><」とか、
「貴女抜きの修学旅行なぞに未来など有り得ませぬわ!><」とか
「理仁亜さん」「私達を」「「見捨てないでください!><><」」とか
涙ながらに訴えられてしまっては、流石に不参加を撤回せざるを得ない。
あまつさえ、それを横で聞いていたきらりが、とどめと言わんばかりに
「だーいじょうぶだって、問題ないよぉっ! そう何度も悪い事が起きる訳ないよ! それに、正真正銘、高校最後なんだよ? 皆と一緒に思い出を作ろう、ねっ!? どんとうぉーりんぱ☆!」
と、一見すると不安がる女生徒を宥める教師の様でいて、その実、全く何の根拠もない無責任な説得(?)を繰り出しよった。
勿論、この発言の裏にあるきらりの思惑は
「理仁亜ちゃんを取り合って、男の子たちが熱い下半身の鞘当てをした方が絶対面白いもんね・・・・フフフッ♪ ニチャりんぱ☆」ニチャア・・・・
である。
全く性懲りもなく、駄目な大人丸出しのブレないやっこであった。
逃れようとするも、すばやく回り込まれてしまった理仁亜。
最早進退窮まった。
やむを得ず最後の手段であるリセット技「職員室へ駆け込む」を繰り出すも、必死になって止めなければならない教職員らをして、
「確かに阿賀原の言う通りですな」
「林間学校の時はたまたまだったのかもしれません」
「流石に修学旅行は行かない方が問題なのでは?」
「この時期は警備も普段より増して厳重ですしね」
「だーいじょうぶだって、行ける行ける! 熱い血燃やしてけよ!」
という意見が大勢であり、抜け道に対してしっかりパッチが当たってしまって、完全に藪蛇となってしまった。
そしてとうとう、まことの懸念をも無視し、何を見て「ヨシ!」としたのかわからないままに、校長先生が
「大丈夫だ、問題ない(`・ω・´)キリッ」
とGOサインを出してしまったのである。
・・・・三年間という時間は、あの悍ましき体験(宇宙恐竜襲来事件の事)を風化させるのには十分すぎる時間であった。
或いは、宇宙ジビエミックスモダンによる極限強化の齎す効果が脳にも及び、神経細胞を全て筋肉に変換してしまったのかもしれぬ。
完全に楽観的な思考に支配された彼らに、「最悪の事態」を想定する事は不可能であったようだ。
いずれにせよ、理仁亜が修学旅行を欠席する事は、完全に否定されてしまったのは言うまでもない。
申し訳なさそうに肩を抱くまことに支えられ、他教職員らの暑苦しい激励を浴びながら、ふらふらと職員室を後にする理仁亜であった・・・・。
そうやって周りの人々らの気迫(?)と熱きユウジョウ(??)に押されて来たはいいものの・・・・。
彼女が敬愛し、理仁亜の
理仁亜の
果たして、親友らの思惑が如何なるものなのか・・・・。
ひょっとすると、無意識に自分が彼女らを深く傷つけたりして、その意趣返しを謀っているのであろうか?
疑心暗鬼も手伝い、思考回路はショート寸前。
絶賛大混乱中の理仁亜であった。
そんな理仁亜の心中などお構いなしに、無情にもスペースバスは定刻通り到着し、有りもしない出会いを想像して目をぎらぎらさせながら乗り込むキモい男子達や、最後の一大イベントにはしゃぐ女子達が意気揚々と乗り込み始めた。
待ちに待った修学旅行のスタートである。
当然、理仁亜は林間学校の時同様にスペースバスに乗り込めず、ただその様子をながめるのみ。
ささやかな抵抗というヤツだが、やはり林間学校の時と同様きらりに
「理仁亜ちゃんで最後だよ~! さっ早く乗った乗った! きらりんぱ☆!」
と、奮戦(?)虚しく、強引にバスへとねじ込まれそうになった。
だが、理仁亜も三年の時を経て、守られるだけのか弱いおなごから、自らの力で戦う立派な
これまでに幾度となく
「いえ、やっぱり、止めます・・・・。駄目、乗れない、よ・・・・><」
と明確に拒絶の言葉を口にした。
ここで引き返せば、今この場で自分が笑われて恥をかき、数年の間揶揄われた挙句、同窓会に参加する度に笑い話となろうが、所詮はその程度で済むのだ。
しかし、この場で勢いに流されてしまっては、今日の夕方のニュースが
「巨大宇宙観光船、大破炎上! 修学旅行の学生ら、大半が死傷す!」
という、痛ましい事この上ない記事一色となってしまうのは確定的に明らかである。
なんとしても、クラスメイトを自身の体質から守らねばならない。
己の名誉より学友らの命の方がよっぽど大事なのである。
慈愛の
だがそんな気持ちを嘲笑うかの様に、今この場に及んで、苦楽を供にし、常に味方をしてくれた親友らが、あろうことか
「高校最後なんだよ!一緒にいこうよ!><」とか
「貴女抜きの修学旅行なぞに未来など有り得ませぬわ!><」とか
「理仁亜さん」「私達を」「「見捨てないでください!><><」」
(来羅と楓鼓の二人は先行した隣のクラスが乗るバスからの通信ごし)
とか言って、説得に使った言葉をそのまま裏切りに使ったのである。
これに大ショックを受けた理仁亜は、入学式の後に折角取り戻せたハイライトさんが再び行方不明になると同時に、今度こそきらりの手によってバスへと強引にねじ込まれるのであった・・・・。
(オンドゥルルラギッタンデスカー!!(0W0))
その様子を、MDFに乗って上空から一部始終見ていた哲人は呆れていた。
(集合前の5:30から光学ステルスモードで待機していた。眠い)
まさかとは思うが、さわこらは哲人の事を、理仁亜も含めて学校側に説明しておらぬのではなかろうか・・・・?
急に不安になってきた哲人は、さわこと通信を試みた。
『・・・・さわ吉。私に何か言う事はないか?(#^ω^)』
「う、うぇ!? えー、へへ。えへへ。そのう・・・・哲兄ぃに頼んだから「やった! これで勝つる! 修学旅行完!」ってな感じでこう・・・・やり遂げた気持ちになっちゃって、そのまま忘れちゃってたんだ。てへっ☆」
うわ! コイツ、マジか!? 衝撃の事実に絶句する哲人。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「こっ、高校最後なんだよ! 一緒にいこうよ! ><」
『私に言っても仕方ないだろうが! しかも結果的にそうなってる所が余計に腹立たしいな! 理仁亜を説得する時に何故思い出さなかったんだ・・・・。今からでも遅くはない。少なくとも学年主任の・・・・えっと、代能先生だったか。彼女に報告するんだ。異存はないな? っていうか言わせんが』
「ラジャー! アイサー! /)`;ω;´)」
返事だけは良いのはいつも通りであるが、今回に限ってはてきとーには流せない。
哲人は、意趣返しも兼ね、少し脅して釘を刺しておくことにした。
報連相は大事!
自分だけで判断せず、どんな些細な事でも必ず報告しようヨシ!
『現状学校の協力が殆ど得られないのはキツいな・・・・。君らが利用する観光の業者へは護衛ミッションの話を既に此方から通してるんでまぁ何とかなるが、厳しい遂行難易度になるのは間違いない。そちらでも万が一に備えておいて欲しい。理仁亜のみならず、学校関係者全員の命運は君らにかかっているぞ? いいな?』
「はひっ!? ガ、ガンバリマス・・・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
ようやっと事と自らの責任の重大さを理解したさわこ。
通信ごしでも分かる位に震え声になっている。
自身も含め、数百人の命を預かったのだから無理もない。
少しだけ怒りが収まった哲人はこの勢いだけの猪娘を許してやる事にした。
『やれやれ・・・・。君との通信は開いたままにしておく。連絡は密にしよう』
何故こんなサプライズじみた状況なのか分からないが、何にせよミッションは既に開始している。
こうなれば、最早「可」か「不可」かではない。
「やる」しかない。
ガーディアン時代でも感じた事のない緊張感に眩暈すら覚える哲人。
だがやるしかないと自信に言い聞かせ、通信をいったん終了させようかと思っていたら、さわこがおずおずといった感じで口を開いた。
「わ、ワカタヨ・・・・。ところで哲兄ぃ、理仁亜には言わなくてもいいの?」
『・・・・理仁亜には言わなくてもいい。あの娘の事だ。この事を知ってしまったら、「やっぱりわたし、降ります・・・・皆と一緒には行けない、よ・・・・」と言い、どんな危険な宙域のさなかにあっても途中下車するだろうな。私が居るならそれが可能になるからな。それは君が一番よく分かってる事だろう?』
常に哲人らが帯同している訳ではない為、完璧に理仁亜の体質を抑え込む事は不可能である。
理仁亜でなくても「ひょっとしたら」と思うだろう。
果たして、そんな状況下にあって、彼女が何と言うであろうか。
自らの命よりもクラスメイト達の無事を願う。
理仁亜はそういう心優しきおなごだ。
哲人が居ると分かれば、迷わずその場で途中下車することを選び、共に帰還する事を選ぶだろう。
それが一番安全なのだから。
さわこもまた、そういった場面での理仁亜がどういった受け答えをするのかが容易に想像でき、「ハッ!」とした。
ようやっと腹をくくる気になったようである。
「た、確かにそうだね・・・・。理仁亜なら間違いなくそう言う。分かった、この一件は埋葬分解炉まで持っていって、一緒に跡形もなく溶かされるよ!」
埋葬分解炉とは、亡くなった人を分解してエネルギーとして還元する為の装置の事である。
その際にNAVI=OSと生体ナノマシンに蓄積されたデータも回収され、人類の発展に貢献する事になる。
この世界には無駄な人生等存在しないのだ。
『そ、そこまでしなくてもいい。茨城に帰ったら種明かしでもなんでもしたまえ。兎も角、まずはまこと先生に相談だ。いいな? 以上』
「ラジャッ(`・ω・´)ゞ」
学校の協力が不透明な今、さわこら以外の関係者への発覚してしまうと、学校側の
「部外者の参加は好ましくない」
というスタンスの都合、最悪退去を命じられてしまうだろう。
それはミッションの失敗、ひいては理仁亜の生命の危機を意味する。
理仁亜に対してもまた、こちらの存在を知られてしまえば彼女が途中下車をする事を決定づけて即時帰還となり、本ミッションは存在意義を失う。これにより、
「護衛対象なのに、この両者には絶対に気取られてはいけない」
という訳の分からない状況となってしまった。
まことら教師陣の反応次第では協力もあり得るが、それでも非常にキビしいミッションである。全力で事に当たらねばなるまい。
覚悟を完了した哲人は光学ステルスモードのまま、MDFを人型に変形させてスペースバスの屋根に取り付いて「理仁亜と同行状態」とする事を試みた。
慎重に重力制御操縦をし、なるべくゆっくり着地させたつもりであったが、その衝撃に耐えかねたバスのサスペンションがギシッと左右に揺れていきなり焦った。
だが、気づかれては居ないようだ。
中で歩き回る者でもいたのだろうか?
あの落着きのない担任教師(きらりんぱ☆)がはしゃいでいるのかもしれない。
一先ず安堵するものの、哲人は、ガーディアン時代に遂行したどのミッションよりも高難易度なのかもしれないという事を、今になって改めて実感するのであった。
・
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学生らを乗せたスペースバスは、次々とマスドライバーで宇宙へと飛び立つ。
この事は、大体どこのスペースポートでも起こっていて、春の時期の風物詩であり、中々に壮観である。
スプリングビッグポートシティの潮見=スペースポートでも同様の光景を目にする事が出来るだろう。
ここ大洗=スペースポートにおいても、理仁亜ら南陵学園のみならず、およそ茨城中の高校からなる人々が利用するとあって、一度に何台ものバスがどんどん射出されていく。
そしていよいよ理仁亜らの乗るバスがマスドライバーにセットされた。
理仁亜はというと、もう体の一部といってもいい位に馴染んだ銀河毛玉ストラップを握りしめ、生まれたての小鹿の様にブルブル震えつつ
「どうか、どうか事故りませぬように」
と、ただひたすらに祈っていた。
さわこはそんな理仁亜の様子を見て罪悪感に駆られ、彼女の肩を抱き寄せて励ましてやりたかったのだが、打ち上げの為に体がシートベルトで座席に固定されてしまっていて、一切の身動きが取れない。
自らのやらかしの為に親友を絶望のどん底に叩き落してしまった事に、ただひたすら心の中で
「あたしが言い忘れたせいで、コワイ思いさせてゴメンね理仁亜・・・・」
と謝罪するのみであった。
姿を隠してバスの屋根に憑りついている哲人もまた、車内にて恐怖と絶望に怯える理仁亜を想像し、何が何でも彼女らを守り抜く事を決意した。
『・・・・ここまで高難度の要人警護なんてガーディアン時代でもなかったな。まさか護衛対象からも姿を隠さねばならんとは・・・・。だがもう賽は投げられた。このミッション、必ず成功させてみせるぞ』
『「フフ、そうね。かつて探査機「はやぶさ」をナビゲーションした旧JAXAの研究チームは、度々起こるトラブルを乗り越え、ミッションを成功に導いたわ。彼らも私達も同じ人間。不可能な事では決してない筈よ。・・・・バスが打ちあがるわ。MDFのシステムとリンク、推力とコントロールを同期させるわ」』
『うむ、そうだな。後はやり遂げられるだけのガッツが我らにあるかどうかだな。・・・・よろしくどうぞ!』
各人の思惑を綯い交ぜにしたスペースバスは打ち上げられ、宇宙へと至る。
・・・・こうして、難易度ユニバーサルアルティメットルナティック++のミッションが遂に開始されたのであった。
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無事に打ち上げを終えたスペースバスは、静止衛星軌道上(上空三万六千km)に停泊する巨大観光船団とのランデブーコースを取った。
車内からは、まだそれなりに離れているにもかかわらず、一目でその巨大さが分かる程の船体が四隻、並んで錨を降ろしてるのが見えた。
この巨大観光宇宙船は「ユニバーサル・モビーディック級」と称される、現存する宇宙船種の中で最も大きい艦種である。
実際、その細長い楕円形の船体はマッコウクジラに似せて作られており、宇宙船愛好家の間では「偉大な寝具」等と呼ばれ親しまれている。
グローバルネット上にて、艦体の至る所に砲塔を加える雑コラが良く出回っているが、一体この謎の愛称にどのような意味が込められているのであろうか?
それら四つの巨体に、太陽系内中から集まった修学旅行の学生らを乗せたスペースバスが続々と乗船していく様は、これからの旅への期待をぐんぐん高めてくれる。
そして更に接近し、船体が視界いっぱいに広がって全容が分からなくなる頃に、生徒らの興奮は最高潮に達した。
それは流石の理仁亜も、はしゃぐクラスメイト(と
この船団は「くじら旅行船団」という、長距離観光用の巨大船四隻と、その他随伴艦数隻からなるものである。
名前の由来は、そのまんま所属艦が鯨にちなんだ艦名だから、である。
所属する艦艇は、旗艦である
一番艦「はくげい」以下、
二番艦「こくげい」
三番艦「きんげい」
四番艦「ぎんげい」となっている。
南陵学園の生徒及び引率教師らは、この内の二番艦「こくげい」に乗船する。
理仁亜(とバスの屋根に憑りついた哲人)らの乗ったスペースバスは、こくげいの車両乗船口から乗り込み、ドッキングベイへと進む。
そしてエアロックを抜けて艦内へ入った後、七日間お世話になる拠点を目指してそのまま疾駆した。
入船、入港した後、すぐさまダイレクトに走行が可能。
これがスペースバスの良いところである。(スペーストラックも同様である)
船内は、まるで地球に居るかのような青空が広がっていた。
眼前には高級リゾート地もかくやという位に豪華なビルヂングが。
そしてメインストリート沿いに各種お土産屋がずらりと立ち並び、軒を連ねる様は実に壮観であった。
その光景を見た理仁亜ら南陵学園の一行は、
「果たしてどの高級ホテルに泊まるのであろうか!?」
と、ワクテカソワソワしながらスペースバスの行き先に注視している。
だが、そんな彼らの期待を裏切るかのように、バスは高級な摩天楼を通り抜け、路地裏っぽい横道に分け入っていった。
そして、一目みて
「リゾート・エリアの隅っこやん!」
と分かる、鄙びた木造建築が立ち並ぶ一角に停車した。
あれれぇ~?
と首を傾げ、嫌な予感がギガマックスに達する生徒ら。
ここはこくげい内のスラム。
一流どころの旅籠に押し込まれて寄り集まった弱小ホテルの集まるエリアである。
一行はその中にある、周囲に立ち並ぶ建物に勝るとも劣らない程の寂れ具合を誇る佇まいのホテル、「提灯あんこう」の前に辿り着いた。
バスから降りた生徒らは、衝撃の余りしばらくぼんやりとホテルを眺めた後、開口一番、見事にハモりながらこういった。
「これホテル違う! 旅館やん!」
まことら教師陣にとっては、割と毎度の事なので、クスクス笑いながら文句を言う生徒らを宥めつつ、各自に割り当てられた部屋へと促す。
そうやってワチャワチャやってる内に、美しい女性の声で艦内放送が入った。
「皆さま、本日は「くじら旅行船団」にお越しくださり、まことにありがとうございます。本艦はこれより出航いたします。天井付近にある矢印の向き、艦首方向の隔壁にご注目ください。当船団が誇る巨大観光宇宙船の、ダイナミックな航行をお楽しみ頂けます。それでは、良い旅を!」
・・・・この巨大観光宇宙船は、内部の隔壁がモニターにもなり、任意に航行中の風景を映し出す事が出来る。
化学推進で航行を行う際には、こうやって周囲の情景を映し出す事であたかも宇宙空間を漂っているかのような感覚を味わえるという、巨大観光宇宙船ならではの粋なサービスなのだ。
アナウンスの終了と共に、「くじら旅行船団」が航行を開始した。
いよいよ抜錨である!
一番艦「はくげい」の巨大なスラスターに灯が入る。それに続き、「こくげい」もまた動き出した。
「こくげい」とその僚艦がゆるりと動き始める様に、それまで文句を言っていた生徒らもその光景に釘付けとなった。
教師らはこの事を知っているのでしたり顔である。
中でも、きらりのドヤ顔は腹立たしい程である。お前全然関係ないだろ!
また、余談ではあるが、このスラスターが点火する瞬間、必ずと言って良い位に
「行けッ、はくげい! 我が忌まわしき記憶と共に!」
「核パルスに灯が入りました! 地球に向けて加速!」
等と言ってフザけるヤツが、クラスに一人か二人は絶対に居るものである。
(妄想の中でフッた仮想元カノの事がそんなに怖いのだろうか?)
尚、仮にこの冗談が現実となったとしても、伊達じゃないMDFで押し返したりする前に、地球上にある巨大質量落下物迎撃用兵器である超収束プラズマキャノン、通称エアロガ・ミスミGIIIがドヨノコーマアーイズ♪と放つ粒子の奔流に飲み込まれ、特に人の心の光を人々に魅せる事も無く一瞬で蒸発し、うわ! とドン引きするだけである。
火星、木星、土星、天王星、海王星と・・・・
母なる太陽系内の、慣れ親しんだ惑星たちの脇を凄まじいスピードで通り抜け、エッジワース・カイパーベルトへと至る。
そして、あっという間にオールトの雲を抜け、太陽系外縁部に到達した瞬間、船団は重力航行に入った。
周囲の景色が七色に変化する。
これで、この船は全長60kmの巨体であるにも関わらず、質量はほぼ0となった。
更に、後方にある太陽系の重力波と反発する重力波を発生させ、重力推進特有の、何とも言えない甲高い音と供に推進のエネルギーを蓄え始めた。
「クキィ・・・・ィィ・・・・・ィィン・・・・・・ィィイイイイン!」
最初はわずかに聞こえる程度だった高音が、少しづつ大きくなり、とうとう各人にはっきりと聞こえ、耳が痛くなり始める頃。
今度はアンドロメダ方面の星々が発する重力波と引き合う力を生み出すと同時に、艦体を押し留めていた力を開放した!
「ズドォン!」
物凄い轟音と共に、「くじら旅行船団」が一気に加速。
周囲の風景が一瞬で前方に集中し、背後の景色まで収束したと同時に、サイケデリックな光と共に霧散し、周囲は暗闇に包まれた。
これで「くじら旅行船団」は光の速さを超えた。後は重力波に乗っていれば、半日後には目的地に着く。
何も映さなくなった隔壁は、乗船した時の様に地球の青空に戻った。
ややあって我に返った生徒らは、ウグイス嬢が宣言した通りの迫力に大興奮。
宿への不満など、135億光年の彼方へと雲散霧消するのであった。
―――――理仁亜ら南陵学園の修学旅行は、こうして始まった。
♦ 一日目 7万光年円遊覧航行と「こくげい」内部の観光
旅館「提灯あんこう」。
山奥の秘湯にあるような味のある佇まいが自慢(?)の旅館である。
実はこの旅館、こくげいが就航した時からある、最古参の旅籠だったりする。
見た目こそズタボロボンボンながら、ベテランの板前さんが作る料理は絶品で各種旅ブログや雑誌のコラムが書かれている事もある位に評判がよい。
隅っこという立地を上手く利用し、展望ウィンドウ横に温泉を作る事で、入浴の際に宇宙の絶景を楽しめるのがウリだ。
更に、狭くて収容人数が少ない事を逆手にとって、スタッフ一丸となって宿泊客に手厚いもてなしを心掛けるなど、企業努力を怠らない優良老舗旅館なのである。
何事も見た目だけで判断してはいけないという、いい例である。
始めは戸惑っていた生徒らも、古い木造建築特有の柔らかくて落着きのある雰囲気にリラックスし、
「何だか皆で合宿してるみたいでいいね!」
と大満足だ。
そんな呑気な南陵学園の生徒らで貸し切り状態である「提灯あんこう」であるが、実は一部屋だけ空いており、そこに別の女性宿泊客グループが居た。
「熱き冒険者」のメンバー、雑務担当の
この三人は、本ミッションの現地遂行メンバーとして、先んじて「提灯あんこう」にチェックインし、一行の到着に備えていたのである。
・・・・この新メンバー、古巣蔵智は関西エリア大学の工学科に所属する学生で、機械工学を学ぶ小柄な女性である。
(ただし、その胸は豊満で、人並みの大きさな約呼よりあったりする)
彼女の実家が「古巣総合機械整備工場」を営んでおり、自身もまた幼き頃より機械に慣れ親しんだ生粋のメカニックおなごである。
「宙風をメーカーのサポート対象外になる位、魔改造しても構わんぞい!」
と、(ハゲた)悪魔の如く囁き、それに釣られて入団してしまったうっかりさんでもある。
少々間延びした喋り方をするので、その見た目も相まって、相対した者へのんびりした印象を与える。
だが実際は、理系の学生らしく頭の回転が速く、的確に状況を分析して打開策を具申する事の出来る、頼れるやっこである。
そんな彼女がここに居るのは、理仁亜の
蔵智の手にかかれば、粉々にでもならない限り、大概の故障は修復される。
イチイチ業者を呼んでいては対応不可能である今回のミッションにはうってつけの人物であると言えよう。
約呼が一緒にいるのは、蔵智が普段から頭をぼさぼさのままに放置し、常にツナギ姿であるという、器用さ全振り、圧倒的な女子力の無さをフォローする為である。
(流石に、観光船内をツナギのままウロウロさせる訳にはいかない)
また、約呼は人当たりがよく、そして口が回るので、対人トラブルに対処する要員としての役割を担う。
ミラリィは戦闘力皆無なこの二人の護衛役を行う。
が、本来の役目は他にもある。
さて、この現地メンバーである彼女らの役回りは大きく分けて三つある。
まず第一に護衛対象である理仁亜の動向を見守る事にある。
南陵学園御一行に(こっそり)帯同し、マシントラブルの際には即座に対応する。
それ以外でも、理仁亜がクラスメイトの誘いを断り切れずに艦内車両や連絡モノレール等に乗ってしまったりした際、哲人に知らせる手はずとなっている。
第二の理由は、こちらの存在が教師らに発覚し、万が一にでも学園AIに退去を命じられた場合の措置である。
実はこのミッションは依頼主が約呼&蔵智で、彼女らの観光道中を護衛するのが目的という形になっていて、(結果として)さわこは全く関係ない。つまり
「約呼&蔵智の行く先に、”たまたま” 南陵学園御一行が居るんですよ! ミラリィは護衛です! ついでに透明な苦労人も憑いてるよ!」
という、苦しい言い訳に使う為の建前である。
(勿論、強めに拒絶されてしまえばこの言い訳も通用しないのだが)
実際、長距離の行楽をする際、ライダーに護衛を依頼する人は結構居る。
個人に護衛が憑いていたとしても、何ら不思議な事ではない。
現に、この「くじら旅行船団」にも専属の護衛ライダー達が不測の事態に備え、母艦にて待機しているのである。
宙風もまた護衛船団用ドッキングベイにて接舷し、残りのメンバー共々に待機している。
(勿論
だったらさわこが理仁亜の護衛を依頼すればいいだろ! と思われるかもしれないが、彼女らは学生である。
この場合の保護者は学校側なので、決定権は学園AIにあり、個人の裁量で部外者を招き入れる事は不可能である。
第三に、南陵学園御一行の行く先に賊が出没した際の対応の為である。
スペースローグの中には、マシンのボディを持って市井に潜み、悪事を企てる不届き者も存在する。
機械は想念波を発しないので、危険思想検知にひっかからずに行動出来るのだ。
こういったやっこを発見次第成敗するのがミラリィの役目という事である。
哲人はミッションの大半をどうしてもMDFに乗ったままで対応せねばならず、降りて生身で戦う事が難しい。
この即座に乗り降り不可状態のフォローが出来るのは、哲人に比肩する拳力をもったミラリィしか居ないので、別行動はやむを得ない。
そもそもからお互いに休息が必要だ。
乗り物で移動する時は哲人が、徒歩で移動する際にはミラリィがそれぞれ事にあたる事で、役割を分担し、負荷を軽減するのが狙いだ。
尚、余談ではあるが、スペースローグの自己強化手段は大きく分けて、
「怪しい劇物と遺伝子操作による肉体強化」
「生身の身体を捨てて機械化する」
の二種類しかない。
これ以外の方法で力をつけたスペースローグは未だ存在していない。
(そもそもから、そんな力のある人間は賊になどならない)
これらの手段は、お手軽に人知を超えた力を手に入れる事が出来る反面、どちらの手段であっても極まれば自我が崩壊する事が確約されている。
にもかかわらずこういったリスキーな手段にでるのは、生体ナノマシンが不活性化して全く機能せず、社会的に孤立した存在である彼らにとって、
人間を止めるか
悪事を止めるか
全てを諦めて氏ぬか
の三通りしか選択肢が残されていないからである。
わざわざ難易度の高い生き方を選ぶ、人間が下手くそで、不器用なおバカさん。
それがスペースローグというやっこ達なのである。
南陵学園御一行様は荷物を各々の部屋へ置き、一旦大広間に集まっていた。
点呼を行うと共に、本日の予定を確認し、また「常州浮かれ学生」達へ釘をさす為の注意喚起などを行う為だ。
先ずは学年主任のまことが初日のアイサツから入り、予定を伝える。
その後つらつらと注意を促すのだが、話をしている内につい、羽目を外し過ぎない為のお小言に熱が入る。
そして、それをきらりが
「まことちゃん、長すぎだよぉ~! きらり、飽きちゃった。ダラりんぱ☆」
等といって揶揄ったり、それを見て調子に乗った生徒らが囃し立てたり、ブチ切れたまことがきらりにダークネスまことブレイクを食らわせたりと・・・・。
この場にいる面々としてはいつも通りのやり取りに皆破顔一笑し、終始和やかな雰囲気の中、意気揚々と出発するのであった。
これまで緊張していた理仁亜も、そんな恩師やクラスメイト達を見て、
「今回ばかりは、ひょっとすると何も起こらないかも・・・・?」
と思い、ようやっと肩の力が抜け、愛すべき学友らと共に笑うのであった。
そんな微笑ましいやり取りをさわこの通信を共有して聞いていた哲人らは、高校時代を思い出してほっこりしつつ、各自の役通りを全うすべく配置についた。
この日の予定は、一日目の目的地「カシオペヤ座A」への航行中に「こくげい」内を見学し、到着後にスペースバスにて超新星の残骸が散らばる宙域を遊覧するというものである。
この「カシオペヤ座A」は、もっとも最近に地球へと届いた超新星爆発を起こした恒星があった宙域である。
(と言っても、爆発したのは一万年以上前であるが)
様々な元素で構成された星間物質によって、周囲の星々が様々な色合いで煌めく。
その美しさは天の川銀河でも随一で、人気の定番観光スポットである。
この宙域をゆったり航行し、宇宙の車窓を満喫しようというのが、一日目のメインイベントである。
哲人は打ち上げ時同様に光学ステルスモードのMDFにて帯同し、ミラリィ達はその足で一行の後を追う。
・
・
・
南陵学園御一行様は
「くろくじら観光見学線」に乗車する為である。
楽しそうに談笑しながらモノレールを待つ生徒らを、婦人会の集まりであろうか、一般観光客の老婦人達(といっても、見た目はおねーさんだが)が
「アラ、修学旅行の学生さんたちよ」
「楽しそうね! 微笑ましいわぁ。ウフフ!」
「私達にもあんな時代があったわねぇ、懐かしいわぁ」
などと言いながら、ほっこりしながら眺めていた。
だが、その後ろに紛れて待機する約呼と蔵智は、ほっこりする処では無かった。
それどころか、この和やかな時間を破壊せしむる事が無いようにせねばという使命感で眩暈すら覚えるのであった。
ただ、ミラリィだけは珍しそうに辺りをキョロキョロするばかりであった。
(生まれて間もないのだから仕方ないとはいえ、コイツ、本当に大丈夫なのかな?)
「こくげい」内には、内部で宇宙船を運用する乗組員や、各種プラントで作業に従事する者達が利用する連絡用環状モノレールの他に、これに並走する形で、艦内の主要施設を一通り見渡せる見学用環状モノレールが存在する。
それがこの「くろくじら観光見学線」である。
(ちなみに艦内従業員が利用するのは「艦内設備巡回線」で、上り及び下りの他、何故か各停と急行、快速がある。開発担当が鉄オタだったのだろうか・・・?)
その巨体故、地表に降りる事がない巨大観光宇宙船は、その活動を続ける為に艦内で物質が循環する環境を整える為の施設が多数ある。
それらが働く様子を見て回る事は、修学旅行的にも大変意義のある事であるのだ。
また、重力航行中は光の速さを突破しているせいで、船外に広がる宇宙の景色は何も見えなくなってしまう。
その間の退屈しのぎの意味合いも兼ねたサービスとしての側面もあったりする。
さて、目的地の「カシオペヤ座A」までは約2時間程である。
各停でゆるりと一回りする頃には到着するだろう。
・
・
・
モノレールの待ち時間を利用して、さわこはこっそりまことにミッションの事を通信で説明した。
それを聞いたまことは、早速哲人への通信を開き、スニーキングミッションへの承諾と学校側のスタンスを伝えた。それは以下の通りである。
1.学園側は当ミッションに一切関わらないし、協力もしない。
2.学園側の引率教師にそちらの存在が発覚した場合は退去を命ずる。
3.但し、まこと及びかえで、わかさはそちらの存在を秘匿及び黙認する。
要は、
「勝手にやる分にはいいんじゃね? まこと達は知らんぷりするし!」
という事である。
実質主任クラスの教師達のみの協力ではあるが、これでミッションの難易度が
ユニバーサルアルティメットルナティック++
↓
ユニバーサルアルティメットルナティック
位には緩和された。
少しだけ気持ちが楽になった哲人は、お礼を言うと同時に、宇宙オリムピック代表時代の、彼女らの活躍を誉めるリップサービスをしておいた。
(これを聞いたまことは、「あの時頑張って良かった!」と思ったという)
その後、まことと二、三言葉を交わしていると、哲人と通信している事に気づいたかえでが横から「わちきも話す、わちきも!」等と詰め寄るのを押し留めながらまことが話す様子が聞こえたりして、哲人は『ンフッ』と苦笑した。
これなら拒絶はされまいと、グループ接続に切り替えた後、かえでとわかさにもお礼を言っておいた。
(そして浮かれる主任教師達。教師は出会いが少ないのであろうか・・・・?)
そうこうワチャワチャやっている内にモノレールが到着したようだ。
まことは名残惜しそうに通信を切断した後、かえでと共に、何となく横に居たきらりの脇腹を高速でプニプニしながら生徒らを引率してモノレールへと乗車した。
きらりはお菓子をもりもり喰らいながら
( ^ω^)?キョトン
としていた。
哲人は、生徒らと、居合わせた一般観光客及びミラリィ達が全員モノレールに乗り込んだのを確認し、
「ヨシ!」
とMDFで指差してから屋根に憑りついた。
・
・
・
観光見学モノレールは順調に、各駅停車でゆるりと走り続けた。
途中のハイソな高級ホテル前や、お土産屋ストリート前の駅からも同様に観光客らが乗車するなど、かなりの盛況っぷりだ。
このモノレールは単線の為、乗車しない方の側面が総ガラス張りとなっており、そこから施設内の風景を眺める事が出来る様になっている。
(勿論、その素材は「クリボゥメタル」で出来ており、その手触りはおなごの肌の様に柔らかく、そしてその硬さはまるで鋼みたいで、コイツはやるかもしれないと思わせる程にクッソカチカチという頑丈さである)
列車は旅客エリアを抜け、いよいよプラントエリアに到着した。ここからが施設観光見学のスタートである。
乗客の眼前には、工業地帯の大工場もかくやという位の本格的な作業風景が飛び込んできた。
宇宙船の中に広がる現実的で無機質な光景に、乗客らは息を吞む。
農業・畜産プラントでは牧歌的な牧場で牛たちが悠々と草を食んでいる様子や、そこから一転、まるで精密機械でも扱うような清潔な工場で各種農産物が栽培される様を。
工業プラントでは、艦内の各所から集められた部品や機材がオーバーホールされ、新品同様になって送り返される様子が窺えた。
中でも、作業用のbot達やマシンアームが定時に交代する際、全く作業ラインの動きを止めずに一瞬で切り替わる様は、圧巻だった。
その熟練した行進パレードの様な一糸乱れぬ動きに観光客は釘付けだ。
理仁亜もまた、自らの体質を気にすることも無く、さわこらクラスメイトらと共に歓声をあげ、この旅を満喫していた。
だが、ミラリィ達はそんな観光客らを尻目に、周囲を警戒していた。
現状は何事も無いが、万が一もあり得ると思うと、彼らと共に車窓を楽しむ気にはなれなかった。
そんな一団を乗せたモノレールは化学プラントに差し掛かった。
化学プラントは、艦内から集積された不要物や廃棄物を分解し、新たな物質に再構成する分解炉がある場所である。
性質上、流石に剥き出しのままでは少々問題があるとの事で、このエリアの施設だけは隔壁にて周囲と隔絶されている。
当然、モノレールもトンネルに入る事になる。
天井の高さはモノレールが入れるだけしか余裕はない。
やむを得ず哲人はMDFを航空機形態に変形させ、トンネルの出口へと移動した。
同時に、車内にいる三人に通信で警戒を呼び掛けた。
『モノレールがトンネルに入った。やむを得ず離脱した為、現在理仁亜が孤立状態になっている。トンネルを抜けるまではせいぜい15分程度だが、警戒を厳とせよ!』
「(`・ω・´)ゞ」ビシッ
「了解です!」
「らじゃ~だよ!」
車内の三人に緊張が走る。
観光客は皆、車窓にて展開される物質循環の作業プロセスに夢中だ。
当然、全員一方向を向いている。有体にいって、隙だらけである。
「何か仕掛けるなら、何時する? 今でしょ!」
賊ならそう思うだろう。
トンネルに入って5分程した頃である。
突然、ミラリィが肩をピクリと動かすと同時に、その五つに分かれた五色の髪の毛が「ブワッ!」と広がった。
更には、いたずらっぽい笑みを絶やさなかった表情が一転、その拳力に相応しい、宇宙戦士の
それを見た約呼が
「何ぞ!? Σ(・□・;)」
と吃驚していると、隣にいた蔵智が約呼の袖をくいくい引っ張りながら
「・・・・約呼ちゃん~、何かねぇ~、ふる~いマシンの匂いがするお。とっても嫌~な匂いだねぇ。どーやっても直せそうにない位だよぉ」
と言った。
常人には計り知れない感覚だが、どうやら蔵智には機械の”匂い”を判別する嗅覚があるらしい。
彼女はその優れた感覚を使って、これまでに幾度となく不明とされていた故障の原因を突き止めている。
ミラリィもまた、succu=bus達「一途なる戦乙女」に備わった危険察知能力を発揮し、車内に潜む外敵の存在を感じ取ったのだ。
特にミラリィはこの能力に優れていて、普通のsuccu=bus達が「何となく」感じる程度なものを、敏感に探知する事が出来るのだ。
「一途なる戦乙女」達は、自らの主のみならず、その周囲にいる縁者をも守り、それらを害する全ての悪を憎む強い意志をもつ、慈愛と正義感に満ちた存在である。
当然、守る対象は、理仁亜とそのクラスメイト達、更には無関係である善良な一般観光客らも含まれる。
今のミラリィからは、ここにあるささやかな平穏を自らの欲望や快楽だけで脅かす様な輩は何人たりとも許さぬ、といった気迫を感じ取れるであろう。
約呼はこの不思議な仲間の新たな一面を目の当たりにし、その迫力に押されてごくりと唾を飲み込んだ。
だが、事態を思い出して気を取り直し、蔵智のナビゲーションのもと、モノレールの連結部へと向かった。
・
・
・
連結部分は、自動販売機やらトイレやらがある休憩車両でもある。
普段なら人々が談笑する場所であるが、今現在、乗客は車窓に夢中であり、この場は無人のはずである。
にもかかわらず、一角でメンテナンスハッチを開いて頭を突っ込み、ケツだけを突き出して何やらゴソゴソやってるやっこが居るのが見えた。
何だコイツ、こんな所で一体、何してやがるんですか!?
そう思った約呼がすぐさま宇宙犯罪者犯例アーカイブへ照会を試みると、秒でデータが返ってきた。
それを共有していたムリフェル(あらかじめ合体していた)が即座に分析、この不届き者の目論見を詳らかに語る。
「「ふむ、おそらくこのやっこは「ラビッドボマー」と言う賊でしょう。過去に、リニア列車に一定以下のスピードに減速すると爆発する爆弾をしかけ、乗員乗客を恐怖に陥れた上で車両を爆破し、人々を殺める事を繰り返していた不届き者です。ただ殺生するのみならず、人々が怯える様を眺めて悦に浸る、下種な快楽を得る為だけに手の込んだ仕掛けを施す等と! その所業は万死に値します、氏ね!」」
・・・・どうやら中々の大物が網にかかったようである。
そして今まさに爆弾を仕掛けている真っ最中なのであろう。
それにしても、白昼堂々と悪事を働くとは、随分と手馴れた賊である。
こうやって過去にも同様の手口で犯行に及んでいたに違いない。
満場一致でここに成敗が確定した。南無阿弥陀仏!
さて、どうやって料理してやろうかと約呼が考えていると、ミラリィがついっとケツだけ賊に近づくと、徐にその口を開いた。
『「ねぇ、おにいさん。そこで一体何してるのかしら?」』
アレ? ミラリィちゃんって喋れたの!?
と吃驚したせいで、ミラリィを止めるタイミングを逸してしまった約呼。
(これはまだ喋るのが下手なミラリィに代わって光無比女命が喋っている。ちなみにミラリィと光無比女命の音声は同じであるので、違和感はあまりない)
ケツだけ賊は、特に警戒する訳でもなく、また見つかったせいで飛び上がって逃れようとする訳でもなく、悠々と作業しながら自らの行いを自慢げに語り始めた。
「キシシ。これはなぁ、とっておきの花火を仕掛けてるのさ。それも、このモノレールがちょびっとでもトップスピード(142km/h)から減速したら10秒後に爆発するっていう、俺っち自慢の特別製なんだぜ!」(`・ω・´)ドヤァ・・・
今度は、
何でコイツ犯行のタイミングを見切れるのに、今発見されてる事はまるで気づけないんですか!? しかも自供までしおった!?
と驚く約呼。
『「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、「ラビッドボマー」ってひょっとするとおにーさんの事だったりするのかしら?」』
「ほう、良く知ってるな! 左様、泣く子も走って爆ぜる花火職人、「ラビッドボマー」とは俺っちの事よぉ!」(`・∀・´)エッヘン!!
『「へぇ。なら氏になさい」』ドスッ
「キシッ!?」バッタリ
あ、やっぱこいつアホだ。
約呼が思う間もなく指先一つでダウンするキシ賊であった。
さて、今ミラリィが突き入れた指突は「ノーザンライトフォーム」の、触れた者を一瞬で麻痺させる「パラライズ・スタブ」という基本の技である。
・・・・「ヴァルキリー・アーツ」。
これは「一途なる戦乙女」らが生まれながらにして持つ戦技である。
触れた相手の生体機能を狂わせる「ノーザンライトフォーム」
強力な拳力でもって相手を破壊する「サザンクロスフォーム」
という二つのフォームがあり、更に「サザンクロスフォーム」には
速さで相手を圧倒する「イーグルスタイル」
流麗な動きで見る者を魅了する「スワンスタイル」
一点突破の集中打を得意とする「クレインスタイル」
幽玄な動きで相手を翻弄する「ヘレンスタイル」
特殊な歩法であらゆる攻撃を無力化して戦う「フェニックススタイル」
がある。
彼女らはこの悪と戦う為の力の、どれか一つを持って誕生するのである。
これらの、それぞれに特色のある2つのフォームと5つのスタイルのうち、各々が持つフォーム、スタイルで敵に立ち向かうのだ。
・・・・この様に、本来ならば、succu=bus達はその身体能力に合致する一つのフォーム及びスタイルしか持つ事はない。
だが、ミラリィはなんと2つのフォームと5つのスタイル、その全てを行使する事が出来る例外的存在である。
実はこのお調子者は、宇宙でも指折りの宇宙戦士だったりするのだ。
尚、イルマをはじめとする戦闘能力皆無の「二色」の者達にはどの能力も備わっておらず、拳でもって戦う術を持つ事は殆どない。
(ごく稀に拳力を持って生まれてくる例外もある)
何はともあれ間一髪、爆弾を仕掛ける前に確保する事が出来た様である。
白目を剥いてごろりと転がるキシ賊。その口からは
「ヴェ、ヴェブブ・・・・ピガー。ビビビ・・・・」
と電子音を発していた。
やはり機械のボディを持つ賊であったようだ。
その構造は若干古いものであるらしく、ピクピク痙攣する度に
「ウィッ!」
「キュイイン!」
「ミュイーン!」
とか言う感じの、アクチュエーターとモーターの駆動音が聞こえてくる。
・・・・「ノーザンライトフォーム」が生体機能を狂わせる拳であるのは前述の通りだが、その性質上、生物にしか効果がないとされている。
そのロジックは攻撃を突き入れる際にエネルギーを注入し、細胞の働きを暴走させる事によるものなので、当然機械には影響を及ぼさない。
だが、ミラリィはその拳力と技量でもって、普通のsuccu=bus達の数倍の威力を持つエネルギーを瞬時に生み出すと同時に、繊細なコントロールで機械の電気信号をも狂わせるような性質を持った一撃を放てるのである。
結果は御覧の通り。
マシンのボディを持つ賊ですらそのワザマエからは逃れられず、一撃のもとに昏倒させられてしまうのだ。
キシ賊の企みを粉砕した正義のおなごらは、このツキジに転がる冷凍マグロめいた、不届きなるやっこをひっくり返し、そのツラを覗き込んだ。
即座に宇宙銀河連邦警察の犯罪者データベースへと照会がなされる。
・・・・宇宙のおバカさん、スペースローグには等級がある。
レベル1:まだなりたての、ショボいザコ
レベル2:何らかの手段でもって力を得た強ザコ
レベル3:それなりの力を得て更生が難しい犯罪者
レベル4:かなりの強化を得た宇宙暴れ重犯罪者
レベル5:自我が崩壊した宇宙暴走大害獣
レベル2まではまだ更生の余地があるのでギリギリ人間扱いしてもらえるが、レベル3になると更生が見込めず、お上の通達次第で殲滅もやむなしとなる。
レベル4以上は、もうお上への申請すら必要なく、発見次第即時殲滅である。
「「ふむ、どうやらこのやっこは「ラビッドボマー」で間違いないようですね。宇宙銀河連邦裁判所は、この不届き者をレベル3のスペースローグと断定したようです。同時に処刑が確定。よって、沙汰を下します。・・・・蔵智、頼みましたよ」」
「ンフフゥ~、この蔵智にお任せあれ~! ・・・・フンフンフン♪ ちょいちょい! ヨシ! これで完了だよぉ!」
蔵智は、キシ賊の持っていた工具を利用し、このやっこのボディに何かを仕込んだようだ。
残像が見える程の凄まじいスピードで、あっという間にキシ賊のボディが分解、再構成されていった。
ついでに、開いたメンテナンスハッチから見える範囲全ての点検と修繕を行い、キシ賊の痕跡を完全に消し去ってから、封をした。
(さらに、コヤツが持っていた工具も没収された。結構珍しいものだったようで、手にした蔵智がニヨニヨしていた)
そして最後に「ヨシ!」と指差し確認してから、「ガラッ」と整備用乗車扉を開ける蔵智。
と同時に、ミラリィがキシ賊を化学プラントの連絡通路まで「ドガッ!」と蹴り飛ばした。
ゴロゴロズッシャア!
と激突し、身体中が変な方向に曲がった状態になって通路に転がるキシ賊。
これを見て、色々驚いて思考がピンボールになっていた約呼が思わず叫ぶ。
「アレ!? そっちの扉って開くの!? しかも走行中なのに!?」
「「わたくしがロックを解除しておきました。あの愚か者へ沙汰を下すのに必要なものでしたので」」
「あ、そうなんですか。・・・・ハッ!? っていうか逃がしちゃって大丈夫なんですか!? 賊なんでしょう!?」
今更になって慌てる約呼。流石にもう遅いと思うのだが・・・・。
そんな約呼を蔵智がぽやぽやと宥めた。
「約呼ちゃん、あのやっこはもう、爆ぜてるからぁ。放っておいても大丈夫で問題ないよぉ」(*'ω'*)
「(`・ω・´)キリッ」ダイジョウブダ、モンダイナイ
「えっ、そうなんだ? えーと、どうやったの?」
「「あのやっこには、今までの悪行に相応しい罰を与えておきました。これまでにあの者が無辜の民らへ与えた恐怖と絶望を、そっくりそのまま味わってからニフルヘイムへと落ちるでしょうね、フフフ・・・・」」
更には、無表情であるはずの彼女が、ここに来て恍惚とした笑みすら浮かべている事が、より一層の恐怖心を煽る。
そんな
「えぇ~? そっくりそのままってどういう事ですか?」(;^ω^)?
「「フフフ・・・・本来なら誰にも看取られる事のない哀れな罪人の最後を、我らで見届けてやるとしましょう。・・・・この監視カメラの映像を御覧なさい」」
このカメラのデータを如何にして引っ張って来たか聞くのが怖くなった約呼は、とりあえずその事を脇に追いやり、一目見て人間じゃないと分かる恰好で通路に転がるキシ賊にフォーカスした。
・
・
・
ミラリィの脚によってモノレールから弾き飛ばされたキシ賊は、通路に
ゴロゴロズッシャア!
と叩きつけられてから、およそ90秒後に再起動した。
「ウィウィミィン! キュッ! キュッ! クィイン! マゥンサ!」
変な駆動音を発しながらキモい動きで立ち上がりよるキシ賊。
慌てて辺りをキョロキョロ伺う。
そして、ほんの一瞬ではあるが、一目で見て
「あ、げにこれいとゆゆしwww」
(あ、マジでコイツ超やべぇwww)
と分かる、あの恐ろしいおなごが居らぬ事を確認すると、ヨシ!と何もない所を指さしたあと、ニチャァ・・・と笑みを浮かべながら
「キシシ・・・・。何を思ひしやは知らねど、この我追ひいだすばかりに済ますとは、随分とお優しいおなごなりぃ。かかる事に我が改心するとも思ひきやぁ? さる訳なからむ! 花火は未だありぃ、次の便を待ちていで直しには!」
(キシシ・・・・。何を思ったかは知らんが、この俺っちを追い出すだけで済ますとは、随分とお優しいおなごだぁ。こんな事で俺っちが改心するとでも思ったのかぁ? んな訳ゃねぇべした! 花火はまだあるんだぁ、次の便を待って出直しじゃあ!)
と、誰に言う訳でも無い独り言をツイートしながらモノレールのラインに飛び移ろうとした、その時である。
このどうしようもないやっこの眼前に
0 km/h < 142 km/h 09.78s
という、どこかで見たことのある数値とタイマーが表示され、刻一刻とカウントダウンが進んでゆく。
「はて、見覚えがあれど、これ何の数字なりきやな?」( ^ω^)?
(あれ、見覚えあるけど、これ何の数字だったかな?)
と、首を捻って考えた。そしてタイマーが5秒を切ったあたりで
「つい日ごろに見し思ひ出が・・・・すは!」
(つい最近に見た記憶が・・・・あっ!)
と己に仕掛けられた”処刑方法”に、ようやっと気づいた。
「かの小娘共、この我に花火を仕掛けき! 何て天魔やうなる発想をするおなごらなり! ゆゆし! 兎に角走らざらば我爆ぜぬ!」
(あの小娘共、この俺っちに花火を仕掛けやがった! なんて悪魔的発想をするおなごらなんだ! やばい! 今すぐ走らにゃ俺っちが爆発しちまう!)
何故か先ほどから、言語装置の調子が悪く、発する言葉が全て古語に変換される程に混乱する有様となっている。
(ミラリィが放ったパラライズ・スタブの影響であろうか?)
だが自己修復を試みる暇などない。今すぐ142km/hまで加速せねば、この愚か者の余命はあと5秒である。さあ、走るがよい、持てる力の全てをもって!
キシ賊はフルパワーで走り出す。
しかし流石は機械化ボディ、何とかカウントダウンが0.98秒になった時に142km/h以上に加速する事が出来たようである。
タイマーは元の10秒に戻った後、動かなくなった。
が安心はできなかった。
所詮は隠密仕様、全力での連続駆動は想定していない。
必死こいて走る内に、両足のアクチュエーターがいよいよ軋みを上げ、衝撃吸収用のシリンダーは摩擦熱でオーバーロードした。
人口スキンから煙を吹き出し、油が蒸発する嫌な臭いを撒き散らす。
だが、この由々しき事態の打開策を考える間もなく、走ろうとする意志とは裏腹に徐々に足が動かなくなり、遂には減速し始めた。
そしてとうとう、カウントダウンが再開される。あと9秒。
「あなや! 何故なり! などか我がかかる目にあうんなる!」 あと7秒。
それは己が今までやってきた事そのものである。
インガオホー、自業自得とはまさにこの事。
「我がされば何しきといふなり!」 あと5秒。
爆弾を仕掛けましたよね? あっ、今は貴方が爆弾ですねwww
「をう、をうをう! 誰か、誰か我を助けよ!」 あと2秒。
以前に自らが手にかけた人々がどうなったかを想像してみるといいだろう。
かの人々に救いはありましたか?
「うたてし、死ぬまじ! 死ぬまじきぞー! 死に たわ!」 0! CABOOM!
ゴウランガ! 南無阿弥陀仏! キシ賊は閃光と共に爆発四散した。
その様子は、後続の観光モノレールにいる乗客らに目撃された。
かなり派手な爆発であったが、場所が場所だけに通常作業の一環であると思われた様だ。
特に騒ぎにもならず、寧ろ花火めいた演出によって観光客を楽しませた程度で済んだ。
・・・・全力で疾駆したキシ賊は、作業中のbot達の間を走り抜け、化学プラントの真っ最中へと突っ込んだ。
この先にあるのは分解炉である。
キシ賊は泣き喚きながらそこへ向かってフルパワーでダイブし―――――
その真上でカウントダウンが0となり、断末魔と共に汚ぇ花火となって爆ぜたあと、分解炉にばら撒かれたのち分子レベルにまで分解されて素材となり。
そのボディは、艦体を支える資材として再構築された。
そして何事も無かったかのように、他の資材共々作業用bot達の手によって梱包、積み付けがなされ、搬出用リーチbotによって保管エリアへと出荷されていった。
・・・・こうして、一人の賊が
後に、以前にキシ賊であった資材は右舷の片隅にて補修の為に使用され、「こくげい」が退役して廃艦処理される日まで、見事にその巨体を支え切ったという。
・
・
・
モニターの映像を一部始終見ていた約呼は、余りに壮絶な”処刑”にドン引きした。
・・・・はっきしいって、見ない方がよかったかもしれぬ。
そんな約呼とは裏腹に、蔵智とミラリィは腹を抱えて大爆笑。
「うわぁ、エグい、えげつない! ムリフェルさん、えげつない! いや、ムリつない! とんでもない処刑方法を思いつきましたね!」(´;ω;`)ウゥゥ
「「フフフ・・・・わたくしが言った通り、あの愚か者が過去に犯した罪をそっくりそのままお返しできたでしょう?」」(`・ω・´)ドヤァ・・・
「うん、そうだねぇ。これで亡くなった人も、みんな喜んでると思うよぉ」(*'ω'*)
「(*´Д`)ソウダネ」(便乗
「う、うーん? せやろか? ・・・・まぁ、いっか!モノレール警護作戦、ミッションコンプリート! ってね! ヨシ!」ビシッ
約呼はもう考えるのを止めた。
そうこうしている内にモノレールはトンネルを抜けた。
車内にいる観光客らは迫力のあるプラントの活動する光景に興奮し、互いに感想を言い合うなどして盛り上がっていた。
まるで賊など居らぬかの如く、何事もなく楽しい旅行のひと時がそこにあった。
ミラリィ達は、見事に賊の手からこの平和を守り抜いたのである。
ややあって哲人の乗るMDFが再び屋根へと憑りついた。車内にちょっとだけ「ギシッ」という音が響く。
と同時に、哲人は車内にいる三人に通信を繋いだ。
『おお、皆無事の様だな。大丈夫か? 賊が現れたと聞いた時は肝が冷えたぞ』
「(`・ω・´)キリッ」ダイジョウブダ、モンダイナイ
「あんなやっこ、ボク達がやっつけてやったもん。ねぇ~!」
「ええ、何とか・・・・わたし見てただけですけど。あっ、”処刑記録”見ます?」
約呼はつい先程の恐怖体験を共有する相手を作るのに必死である。
哲人は、約呼に送り付けられた動画を見てみるみる血の気が引くのを感じた。
『こ、これは・・・・なんとも凄まじいな。相手はおバカさんとはいえ、少し同情するよ。とはいえ、たったの15分でこの有様か。やはり理仁亜の体質は底知れぬ。より一層の警戒が必要だな。皆、この調子でよろしくどうぞ!』
「「「おーっ!!」」」
更に結束を固めた「熱き冒険者」の面々は、初となる成功に慢心することなく、兜の緒を締めるのであった。
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その後の日程は特に何事もなく、順調に消化された。
スペースバスに乗り換えた一行(とその屋根に憑りつく哲人)らは、「カシオペヤ座A」の宙域をゆったりと遊覧し、美しい恒星の瞬きを楽しんだ。
見る場所が変わると七色に変化する光の乱舞に生徒たちはため息をついて見入る。
理仁亜達もまた、この美しい光景を演舞で表現できぬものか?と車内で身振り手振りを交えながらの議論に熱が籠る。
そしてその「横から見たら変なダンスを踊るような様」をクラスメイトに揶揄われて赤面するなど、楽しい旅のひと時を過ごした。
(クラスメイトらも、理仁亜が元気を取り戻して嬉しかったようである。尚、きらりはお菓子をもりもり喰らうのに夢中であった。この駄目な大人にとっては星よりお菓子である)
哲人も、ガーディアン時代には忙殺されて殆ど意識を向ける事の無かった宇宙の景色に囲まれ、精神が癒されて行くのを感じた。
古の超新星が生み出した美しい七色の煌めきは、ほんの一時ではあるが、この無骨な武人からキビしいミッションの事を忘れさせてくれるのであった。
・・・・こうして、修学旅行の初日は無事に過ぎていくのであった。
つづく
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