うれSHOW TIME!

杜侍音

うれSHOW TIME!


「バイーン」

「って、それウーパールーパーやがな!」


 ある二人がステージの上に立ち、漫才を披露している。彼らのネタに会場は大盛り上がり。今のところ一番笑いを掻っ攫っている。


 ここは高校の体育館。文化祭の一企画〝笑いまSHOW TIME!〟というお笑いコンテストの真っ只中である。

 人気お笑い芸人がこの高校出身ってことから始まったこのコーナーは、今年で記念すべき10回目である。

 毎年、色んな奴が出ている。クラスの人気者がノリで出てみたり、一矢報いようと隠キャが出場したりと、とにかくキャラクターや出る背景は様々。

 だが、過程は関係ない。ここで一番笑いを取ったやつが正義だ。そいつがその後の学生生活で持て囃されることになるので、みんな必死に取り組んでいる。


 ──まぁ、アタシは人気になりたいというか、一人の人に笑ってもらえればそれでいいんだけどね。

 さっきからモノローグで語っているアタシは嬉野うれしのすい。アタシも相方のともちゃんと一緒に出場する唯一の女子高生コンビだ。

 出番は次なんだけど……ぶふっ! も、もう耐えられない‼︎


「あはははは‼︎ あはっ、あは、ひぃー! あはははっ‼︎‼︎」

「翠、笑い過ぎ〜」

「だっ、だって、ウーパールーパハハハハハッ‼︎」


 アタシはメイクが取れるのも気にせず、涙を流すほどに大爆笑していた。

 彼らのネタが面白いのはもちろんだけど、度が強めの色眼鏡も入ってるとは思う。アタシはボケ担当の穂積ほづみ君が好きなのである。

 彼とは同じクラスで、よくつるむグループの一人。彼の相方のつつみ君と一緒に二人はお笑いコンテストに出場した。

 穂積君はとにかく面白いことが好き。芸人のネタとかよく動画サイトで見てるし、劇場にも足繁く通うほどのお笑い好き。

 以前、好きな女の子のタイプも「おもしれー女が好き。女芸人とか最高だよな」と言っていたので、芸人にはさすがになれないけど、今回のコンテストでアタシがおもしれー女ってところを見せたい!

 という名目で、友ちゃんと一緒に出場したのであった。ちなみに友ちゃんだけはその辺の理解を全部している。


「ウーパールーパーなので、水分補給します」

「いや喋らんやろ、ウーパールーパー!」

「テレパス」

「テレパス⁉︎」


「あひゃっ! あひゃひゃひゃひゃ‼︎」


 どっかんどっかん会場を爆撃しているけども、その中で一番被弾しているアタシの笑い声が大きく響いている気がした。


「「そう! 俺たちはつつみづみ! どうもありがとございました〜」」


 二人による三分のネタが終わって、彼らは舞台下手に退場した。


「いーひっひっ! ひっ、ひぃっ‼︎」

「翠マジ笑い過ぎ。はい、次わたしたちなんだから行くよ」

「わ、わかってるって……あははっ」


 次はアタシたち〝ギャルギャル〟の番。

 一生懸命練習したんだ。絶対ステージでウケて、穂積君におもしれー女と思わせる!

 そう意気込んで、舞台上手からステージに上がろうとし──違和感を感じた。


 ……濡れてる。え? 濡れてる??


 パ、パンツが……濡れてる⁉︎


『続いてのコンビは〜、こいつらだー‼︎』


 え、待って。漏れてる。嘘っ⁉︎ 笑い過ぎて、も、漏らし……


「何してんの? 呼ばれたんだから行くよ」

「えっ⁉︎ う、うん、わ、分かってるって‼︎」


 完全にアタシのパンツは濡れている。じわりと温かいものが股の間で広がっている……。

 ヤバイヤバイ! このまま出て行ったらお漏らししたってバレる‼︎ 全校生徒の前で、しかも大好きな穂積君の側で!

 辞退する──いやいや、それだと怖気ついたみたいになって醜態は隠せても、穂積君からは良いように思われない!


「翠?」

「行くっ! 行くから!」


 ……出たのはちょっとだけだ。パンツが濡れた程度で脚まで伝ってはいない。

 このままバレずに行けるか……⁉︎ いや、行くしかない‼︎


「「どうもー‼︎ せーの、ギャルギャルです!」」

「はい、拍手ー!」


 意を決して、舞台へ出るととてつもない拍手と歓声の大雨が降り注いだ。

 さっきまで穂積君たちが盛り上げたことで、次はどんな面白いネタが見れるんだろうと注目度とハードルが上がりまくってる。

 それにアタシたちの名前を叫ぶ声も聴こえる──まぁ、自分で言うのもあれだけど友達多くて人気者だからなぁ。だから何の躊躇いもなく出場したんだけど。

 だからこそ、漏らしたのバレたら学校生活終わる‼︎ いやぁぁぁ‼︎


「いやー、わたしたちまだ高校生やからさ、バイトしたことないやんか。んで、バイトといえばコンビニやから店員やりたいねんけど、客やってくれる?」

「……あ、ふぇ?」


 ……や、ヤバイ! もうアタシに振られて自分のセリフの番だって気付かなかった!

 普段人に見られるとかは慣れてるんだけどさ、今のこの状況で、しかもステージに立つアタシをみんなは体育座りで下から見ているわけだから、スカートの中が覗かれてるのかもしれないと思うと集中できなくて……


「……いや、なんちゅう顔してんねん‼︎」

「ふぇ?」

「ふぇ? ちゃうわ!」


 ……なんかウケてる。

 どうやら、アタシの羞恥と絶望が混じった変顔がめちゃくちゃ面白いらしい。ま、まぁ? 一応学年で1、2を争うくらい? 可愛いですから? ギャップ萌えってやつ??

 それにしても友ちゃん凄いな。わざわざ関西弁で話せるようにネタも練習してきたのに、今も完全なアドリブをすごく的確にノリ良くツッコんでくれてる。


「──なんや、顔のパーツ集中し過ぎてケツの穴みたいになってるで⁉︎」


 ケツの穴みたいになってんの⁉︎ それはヤダ!


「なんや緊張しまくっとるんかい。台本持ってきたろか」

「いるかもしれなくなくなくない」

「いるやろ、それ」


 でも友ちゃん、ありがとう……!

 アタシもアドリブで小ボケして、練習してきた本編に入る。ネタに集中すれば濡れてるとか気にせず──


「いらっしゃいませー」

「あぁっ⁉︎ あ、あぁ、あぁいっ⁉︎」

「ちょいちょいちょい、何事⁉︎」

「と、トイレ貸してください‼︎」

「劇的な登場過ぎるやろ」


 あぁっ⁉︎ そういや漏れそうな客役じゃんアタシ⁉︎ てか、天下の女子高生がよくこのネタしようと思ったよね⁉︎


 ……あ、ヤバイ……意識したら尿意が……!

 さっき、途中で止めちゃったわけだから既にアタシ専用のダムは決壊してる……! いつ続きが来てもおかしくない! 

 ……あ、も、もうダメだ……こんなの、我慢できない……‼︎


 ──はっ⁉︎ あ、あれは⁉︎


「お、お客様ぁ⁉︎」


 アタシは穂積君がさっきのネタで使用して、その場に忘れて帰ったペットボトルの水を股にぶっかけた。

 穂積君が飲んだ水がアタシの下半身を伝って流れていくのと合流するように──アタシ原産の水分も放出した。


「ふぅ……もう大丈夫です。スッキリしました」

「演技に体張り過ぎだろ」


 ペシンッと頭を叩かれて、またもや予定にない言葉でツッコまれた。

 置き忘れた小道具を活かした一つの即興演出として会場は笑いで溢れたし、アタシの股から液体が溢れ出したこともバレることはなかった。


「あ、これ後で拭いといてー」

「自分が拭け」


 そりゃ、できたら自分で拭き消したいよ!



「──もうええわ」

「「どうもありがとうございましたー」」


 三分後、ネタが終わってアタシらが退場した後、スタッフとして駆られた生徒がモップですぐに拭き取っていたことを確認していた。

 ほんと、ごめん。見知らぬ子。君が女の子でまだ良かったよ。

 ……あとで、あのモップ回収しに行かなきゃ。


「おう! おつかれーす!」


 舞台下手に降りると、穂積君と堤くんが拍手で出迎えてくれていた。


「いやぁ、面白かったよ! 女子で出てんのは嬉野たちだけだからさ。めっちゃ嬉しいし、ネタもほんまオモロくて好きだったよ!」

「え、ほんと⁉︎」

「おう。すまんな、俺小道具忘れとったのにめっちゃ上手いこと使ってたよな。これタオル。俺のやけど使ってないから、拭くのに使いなよ」


 面白いって言ってくれるなんて、しかも穂積君からタオルも貸してもらった。ネタも好きって、好きだって! 嬉しいぃ‼︎


 ──あ。


「……はぁ……おーい、まだ拭ききれてないぞ」


 友ちゃんがそう言ってくれたお陰で、アタシはうれションしたことをバレずに済んだ。

 ほんとドッと疲れたけど、やり切れて良かった。それに今日のこの快感はなんだか新しい扉が開きそうだ。


 ──失敬な! 失禁する方じゃないからね⁉︎ 人前でネタを披露することが嬉しいって意味だからね⁉︎

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うれSHOW TIME! 杜侍音 @nekousagi

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