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中田もな

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 ツーとトンで表される音が、狭い部屋の中に響く。俺はヘッドホンを耳に当て、無機質な記号の一つひとつを、頭の中で解析した。

「材料……、人参、玉ねぎ……、じゃがいも、鶏肉……。ああ、なるほど。これは、多分、チキンカレーだな」

 打ちっ放しの白い壁は、飾り気のないほどのっぺりとしている。幾重にも重ねた布団の上では、鼠と同じ色をした俺の愛犬が、わふわふと寝言を言っていた。

「卵を用意して……、それをドーム状に……? 中からルーが、出てくるように……?」

 この文章の送り主は、俺のかつての学友だ。暇を持て余した俺たちは、アマチュア無線で交信し、くだらない近況を語り合うようになった。家族の誰が何をしただとか、政府の何をどう思うだとか、そんなことを喋りまくった。……そしていつか、学友の些細な提案で、暇潰しに考えた食事のメニューを、モールス信号で送り始めるようになったのだ。

「くそ、信号が速すぎるな……」

 発想力が豊かな彼は、信号だけでは全く伝わらない創作メニューを、ツーとトンだけで表そうとする。しかも彼は、複雑なレシピのときに限って、やたらと速くキーを打つのだ。

「……まぁ、とりあえず、作ってみるか」

 彼が送って寄こしたメニューを、俺が手元で再現する。料理ができたら、答え合わせ。次の日は、俺がレシピを考えて送り、彼が台所に立つ……。こんなことを、俺たちは随分と前から、延々と繰り返していた。

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