第三集 新しいクラスと新しい顔

  4月1日 10:00 1年5組教室


  0点だと?本気で言ってんのか?なにをどう計算したらそんな結果になるんだ?


  「根元先生、この点数について説明が欲しいんですが…」


  「なんのことだ、成績ならみんな正当な評価を受けてる。」


  「正当?誰が見てもわかる実績の正当評価が0点ということですか!?」


  「あぁ、その通りだ、何か問題でも?」


  問題だらけだわ、どう頑張っても0点なはずはねぇ。


  「仕方ない、では答えてあげよう。丑崎さん、お前があの力を使ったからだ。酒呑童子の力はとても危険だ、あんな危険な力がもし他の生徒を傷つけてしまったらお前はどうするつもりだった?そんな気遣いの出来なかったお前には点数は与えられん。これで納得したか?」


  納得出来るわけねぇだろ、あの技は妖魔にしか使ってねぇし、他のみんなを傷つけるなんてありえねぇ。


  「そんなことあるわけねぇだろ!確かにこの力は危険だ、使うのも躊躇うくらいにな。だけど俺はちゃんと制御できてるんだ、その結果みんなを助けることができた、それなのになんでこんな点数に!」


  「そうよ、そんな危ない真似をこのバカが出来るわけないでしょ。」


  誰がバカだって思ったら鬼寅だった。


  「お前、俺に関わらないんじゃないのか?」


  「私はこの教師のやり方が気に食わなかっただけよ。勘違いしないで。」


  あーはいはい、そうすっね…


  「鬼寅さん、お前は理解出来てないかもしれないが、酒呑童子の力は今も昔もずっと恐れられている力だ、そのような力の持ち主もいつ暴走するか分からない、だから今回はこれを機に彼をこのクラスに置いて監視させてもらう。」


  「なに?」


  このクラスで監視だと?つまり俺はこのクラスのままってことか?


  「ではみんな席についてくれ、これから新しくなったみんなのクラスを発表する。確認が済んだら、解散で結構だ。」


  そんなの事前にネタバレされたようなもんだからもう帰ろ…いや、一応同じクラスになるやつくらい、眺めてくか。


  …


  知ってるやつ羽澤と細矢君しかいねぇ…あと最初にいた6人のうちの何人かだな…あんま覚えてないけど…

 

  新しいクラス分けは、2組→5組の順で成績が劣っていく。つまり俺は最下位のクラスだ。ちなみに鬼寅は2組だった、さすがお嬢様。それよりなんで細矢君がここなんだ、もっと上でもおかしくないはずなのに、ちょっと声掛けてみるか。


  「同じクラスになれたな、細矢君。」


  「は、はい、よろしく、お願いします。」


  「それよりもなんで細矢君がこのクラスなんだ?もっと上でもおかしくないだろ。」


  「い、いや、僕は自分を守ることしか出来ないので、た、多分それが原因かと…」


  「守ることも強さのうちだろ、細矢君が助けてくれなきゃさっき鬼虎に殺されてたとこだったしよ。」


  実際細矢君が守ってくれなきゃ教室ぶっ壊れてたしな、あの盾とそれを支える細矢君は凄い。


  「ぼ、僕は、大したこと、してないですよ、全部、この盾のおかげです…」


  「その盾、見た感じだと普通の盾に見えるが、何か他とは違うのか?」


  「は、はい、この盾は、僕にとって、とても大事な物なんです、お、おばあちゃんの、形見なんです。」


  「あ、ごめん…」


  「い、いえ、もう昔の話なので、大丈夫です。」


  って言う割には結構泣きそうな顔だ、それほど大事なものなんだろ。


  「俺も同じだよ。この大太刀、おじいちゃんからもらったもんなんだ、俺には勿体ないくらいの物だ。」


  背中に背負ってた大太刀を細矢君に見せた、改めて見ると本当に凄い業物だ。


  「で、では、お互い、託されたもの同士ですね。」


  「そうだな。」


  細矢君が笑顔になった、俺も同じような過去を持つ相手に会って嬉しい限りだ。


  「じゃあまた明日、これからもよろしくな。」


  「は、はい、よろしく、お願いします。」


  「もう敬語はいいよ。普通で大丈夫だ普通で。」


  「う、うん!わかった!」


  そう言いながら、俺は教室を後にした。


  正直もうクラスには期待してない、つまらない1年生生活に決まってる。はぁぁ…どうしてこうなったんだか…


  「あの根元、ぜってぇ許さねぇからな、いつか絶対見返してやる。」


  こうして高校生活1日目がやっと終わった、早く帰って風呂入って寝たい、疲れた、童子切も抜いたから余計疲れた。


  そういえば、酒呑童子が言ってたあいつが引くほどの悪意ってなんだったんだろうか。気にはなるけど、今はいいや…


 帰宅後、俺は風呂に入ってすぐに寝た、あまりにも疲れたから何もしたくなかった。


  4月2日 8:25 通学路


  登校中はやはり注目の的、昨日あんなことあったから仕方ないか…


  4月2日 8:30 1年5組教室


  そして教室前、はぁ、もう入りたくねぇなぁ…ここから地獄の1年間…こんなところで暮らすことになんて…もういいや、諦めよ。


  教室に入った瞬間、俺を見るや否や、4人の生徒が俺に向かって走ってきた。待て待て、殺されるんか俺…


  「「昨日はどうもありがとうございました!」」


  「え?」


  なんだなんだ、何もしてないぞ俺。


  「昨日は助けていただき、ありがとうございました!」


  「私たちがここに居られるのは、あなたのおかげです!」


  「是非お礼をさせて!」


  なんだなんだこれ、一夜経ったら人気者に昇華したのか俺。


  「いや待て待て待て、急にどうした、昨日俺が何かやったのか?」


  もし助けたというのが昨日鴉天狗達を倒したことを指すなら、当たり前なことをしたまでだからそこまで感謝される筋合いはないのだが。


  「昨日は、鴉天狗から助けていただき、本当にありがとうございました!おかげさまで命拾いしました!申し遅れました、僕は歌田梁(うただりょう)といいます!」


  「松田千尋(まつだちひろ)です!」


  「俺は村上健太(むらかみけんた)!」


  「南江遥(なんえはるか)です!」


  「「これからは、どうもよろしくお願いします!!」」


  なんか、凄い弟子ができたって感じがする。けど全然よろしくないよ、俺なんも出来ないから!


  「あ、あぁ、これから同じクラスですし、仲良くしましょう…あと敬語は要らないですからね!」


  思わず敬語が出てしまった、あはは…

 

  そう言うと4人は「わかった!」って言って自分の席に戻って行った。


  俺も自分の席に戻るか、お、歌田君席後ろじゃん、せっかくだしちょっと話すか。


  「席前後とか奇遇だな、改めてよろしくな、歌田君。」


  「こちらこそよろしく、丑崎君!」


  「歌田君はなんでこの学校に来たの?」


  「僕は、そうだね、妹を守るため、かな。」

 

  「妹?」


  「そう、小さい頃にいろいろあったから妹は妖魔が怖くて、話が出る度に怖がっててね。だから決めた、妹を安心させるために僕が妖魔を倒すって。」


  立派なやつだ、俺なんて行けって言われて来たようなもんだからな。


  「凄いな歌田君は、守りたい相手のために頑張れるのは。」


  「そんなことないよ、本当に凄かったら5組にはいないよ…」


  気持ちは理解できる、本当はもっと上に行きたいのだろう。ただここは実力で全てが決まってしまうから、認められなければ下に落とされる。それをわかった上のことだろうか、歌田君も凄く悔しそうにしていた。


  「わかってるんだ、僕の実力だとこの学校に入れたことすら奇跡だった。でも入れたからには頑張るよ、実力なんて、いくらでも伸ばせるんだから。」


  やっぱり凄いやつだ、この学校のシステムはまだよく分からんが、ここにいるやつらも、もしかしたらもっとちゃんと評価されるべきかもしれない。そして例外はあるけど3年間同じクラスで過ごすって言ってたか、例外ってのがどういう場合が当てはまるのかがも気になる。ただ基本は変わらないと思っていてよさそうだ。


  「丑崎君、どうかしたかい?」


  「ん?いや、なんでもない。」


  ちょっと考えすぎたか、とにかく、俺に対する評価を改めさせてやらないとな。クラスなんてどこでもいいけど、あの0点だけは許さないからな。

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