ダウナー系美少女ギャルに告白したらフラれた。諦めずに何度も告白したら彼女になった。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1話 ギャルに告白したらフラれた




 「白城しらき朝陽あさひさん、君の優しくて実直な姿に惚れました! 僕と付き合って下さい!」



 誰もいない放課後の教室。茜色の夕日が差す空間には高校の制服に身を包んだ二人の男女が向き合っていた。


 男子がしているのは告白———腰を曲げて、手を差し出しながら言葉を紡いでいる姿を見れば一目瞭然だろう。短くも真摯な言葉に想いを乗せた彼が真剣な表情で見つめる先には、一人の少女が立っている。


 しばらく無言のままひたむきな視線を向けていると、彼女はようやく口を開いた。



「…………あー、ちょっと待って。確か隣のクラスの、えーと」

「はい、堅持けんもち直輝なおきです!」

「あー、そうそう。キミがあの真面目クンねー」



 こちらがハキハキと話す一方、朝陽は気怠げな口調のままつまらなそうな表情を浮かべている。じろりと見つめる視線には、まるでまたかと言わんばかりのうんざりとした感情が見え隠れしていた。


 様々な噂が飛び交う彼女だが、どうやら告白慣れしているらしい。


 まず簡単に彼女の容姿を説明するならば———白城朝陽はダウナー系ギャルである。

 髪は染めていないので艶やかな黒髪ロングだが、スタイルが良い彼女は制服のブレザーや白いワイシャツを胸元の白い肌が見える程着崩している。スカートの丈だって他の女生徒と比較すると僅かに短いし、耳たぶには複数のピアスの穴が開いていた。


 性格はとてもクールで一匹狼気質。隣のクラスなので詳細な交友関係は不明だが、教室では基本一人で過ごしているみたいだ。噂の内容もあるのだろうがその容姿や気怠げな雰囲気から、一般の生徒などは声が掛けづらくて近寄り難いのだろう。


 それによくよく見ると、朝陽はうっすらと化粧をしているようだ。元々端正な顔をしている美少女なので、それらは彼女の魅力をさらに引き立てていた。


 そんな彼女だが、眉を顰めながら溜息をついて言葉を続ける。



「成績優秀、遅刻欠席一切無し、曲がったことが大嫌いで他人が困っていたら迷わず助けようとする…………そんな真面目クンがウチに告白? 正気?」

「はい、本気です!!」

「……はっ、おもしろー。そんな冗談、真面目クンも言うんだー。まさかウチのウワサ知らない訳じゃないでしょ?」



 面白い、と口にしながらも朝陽の目は全く笑ってはいなかった。にへら、と笑みを浮かべながらも、寧ろ突き刺すような冷たい感情さえ渦巻いている。


 確かに、直樹の知る限り朝陽に関して良い噂はほとんど聞かない。女生徒から無理やりお金を巻き上げているとか、悪い男とつるんでいるとか、更に言えば夜遅く街を出歩いて援交しているだの根拠のない話が数多く流布されている。


 こうして直輝が朝陽と言葉を交わしたのは初めて。直輝自身は今まで気にしたことなんてなかったが、彼女の印象は噂によって多くの生徒に根強く浸透しているのが現状だ。



「はい、知っています。でもこれから君のことを少しずつでも知っていけたらと……」

「———あのさぁ、メンドいからはっきり言いなよ。ウチとヤりたいってさ」

「え……」



 思わず戸惑いの声が漏れるが、彼女は不機嫌そうにそっと視線を下にそらすと指先で髪先をくるくると巻き始めた。



「もうウンザリなんだよね、こういうの。正直に言えばウザい。どーせヤりたいだけのくせして性欲を隠して好きだの付き合ってだの愛してるだの好き勝手に言っちゃってバッカみたい。……ウチには、恋愛とかしてる暇なんてないってのに」

「? それはどういう……」

「ま、とにかく要件がそれだけなら、迷惑だから今後一切ウチに関わらないで。じゃ、さよなら」

「あっ、ちょ……っ!」



 やや強引に会話を打ち切ると、朝日は身体を翻す。


 直輝は手を伸ばしながら朝陽の背中に呼びかけるも、彼女は歩みを止める事なくそのまま教室を出て行ってしまった。所在なさげな手をゆっくりと下ろすと、朝陽が去って行った扉の方へ視線を向ける。


 教室には、直輝一人が残される。



(……恋愛とかしてる暇なんてない、か)



 向こうへ振り返る一瞬、彼女はこういった告白に心底うんざりしてるような表情を浮かべる以外にどこか悔しげな感情が見え隠れしていた気がした。

 おおよそ想像はつくが、言わないということは何かしら彼女なりの思惑があるに違いない。



(……………………)



 ———しかし、それはそれとして。たった今朝陽にフラれた直輝の心の中にはとある感情が芽生えていた。


 それは怒りとも、或いは悔しさにも似た何か。



「気に入らない」



 直輝は唇をギュッと噛み締めながら先程の朝陽とのやりとりを振り返る。思えば、百点を取れるテストでたった一問だけ間違ってしまった時でさえ、こんな気持ちにはならなかった。


 別に彼女の冷めた態度が気に入らなかった訳ではない。一世一代の告白をしたというのに終始冷たい視線を向けられたのはとても悲しかったが、あの悪い噂が蔓延る中で抑えきれずに告白してしまったのは自分の落ち度だ。高校で接点を持とうとこれまで散々考え抜いて告白した結果なので、勿論告白自体に後悔はないが。


 では何故こんなにも気持ちが落ち着かないのか。

 その答えは、既に自分の中で見つけていた。



「他の男子と一緒くたにされるのは、



 そう呟いた直輝は伊達メガネを外すと、きっちりとワックスで七三分けに固めていた髪をくしゃくしゃとほぐす。

 ワイシャツ襟元を締めていたネクタイをそっと緩めると、窓ガラスに映った自分の鋭い瞳を見つめ返しながら、言い聞かせるように言葉を紡いだ。



「俺は諦めねぇからな、朝陽」



 どうして高校二年生の堅持直輝が、悪い噂の絶えないダウナー系ギャル、白城朝陽に好意を持ったのか。


 あれは、高校に入学して約半年が過ぎた辺りの出来事だった。




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