第7話
「では、サガとルーシー。達者でのう」
「待って」
「達者に出来る訳ないだろ」
継承の間に戻ってきた大神官は、魔王退治に旅立つ二人を見送って二人の身を心の隅でいつも案じながらも自身は何気ない日常に戻ろうとした。
だが、その大神官をサガとルーシーが引き留める。
「この状態で魔王退治の旅に出てどうしろってんだ!?」
「私は剣なんて使えないし、サガは事案なんですよ!?」
ルーシーは剣術など習ったことがないし、サガは癒しの力を行使するには手のひらが分厚すぎる。
「うむ。それなんじゃが……二人で助け合って困難を乗り越えるのじゃ!」
「乗り越えられるタイプの困難じゃねえだろうが!!」
丸投げしてこようとする大神官に、太陽の剣を突きつける。
「ほら、お前もなんとか言ってみろ!」
『モウ駄目ポ……』
充電切れの伝説の武器もこう言っている。無理なのだ。
「光の力」で太陽の剣が抜けるだけの剣術未経験の聖女と、「浄化の力」をその屈強な肉体に宿しても絵面が事案にしかならない勇者では、魔王を退治できるわけがない。
「うむ。では、こうしよう」
大神官は声を低めた。
「そもそも、こんな事態になったのは全てそこな女神の仕業じゃ」
儀式の間、逃げないように柱に縛り付けて猿ぐつわを噛ませ、少しでも動いたら頭上の風船が割れて賞味期限一ヶ月切れの牛乳が降り注ぐように罠を仕掛けておいたおかげで大人しくしている女神アルテミジアを指して言う。
「つまり、悪いのは女神。それが紛れもない事実じゃ」
「じゃあ、国民に真実を話して女神を八つ裂きにしよう」
「いいえ。神に普通の武器は効かないわ。それよりも汗っかきの熱血体育会系大学生とアニオタゲーマー38歳無職男とパチンカス56歳日雇い労働者とアパートの一室で暮らして貰いましょう。期間は全員が正社員になるまで」
「むー!!」
聖女の考えた刑罰がなかなかにえぐい。
「確かにそれもまた一興……しかし、女神には他に使い途がある」
大神官がニヤリと笑う。
「そなた達二人は女神を連れて旅に出るのじゃ。そして、そこそこ強い魔王の部下をみつけたら、女神を餌にして逃げてこい。命からがら逃げ帰ってきた勇者と聖女はやっとの思いで故国へ辿り着き、こう説明するのじゃ。「女神アルテミジアが裏切った。奴は魔王と通じており、勇者と聖女に力を与えた振りをしていたのだ」と」
「おお!」
「なるほど!」
「むー!!」
この方法なら、民衆の怒りは女神アルテミジアに集まる。
裏切り者の女神を倒すため、と鼓舞して兵を鍛え、聖職者達の法力を強化する。そして、皆で魔王を倒すのだ。
「わかった。その作戦で行こう」
「ええ。異論はないわ」
「むむー!!」
今この場で女神に発言権はないし、神には人権もない。
今後の方針が決定し、勇者と聖女は魔王退治の旅に旅立った。
ぐるぐる巻きした女神を引きずりながら。
***
「今すぐ私を解放しなさい、愚かな人間共よ! 神にこんな真似をして天罰が……っ、痛っ、ちょ、ちょっと、擦れてる擦れてる! 女神が擦れてるよ! 女神虐待反対! 女神愛護団体に通報して!!」
縄でぐるぐる巻きにした女神を引きずる勇者サガ・ハルミヤは、傍らの少女に声をかけた。
「そろそろ休憩しようか」
「休憩して女神を解放しなさい! 女神がこれ以上傷だらけになる前に!」
話しかけられた聖女ルーシー・ホロウスターは笑顔で応えた。
「大丈夫よ、もう少し進みましょう。なるべく早く国から離れないと」
勇者と聖女はアハハ、ウフフ、と笑い合い、街道を進んでいく。
「後ろ暗いことをしているから人目などが気になるのですよ! 今すぐ女神を解放すればもう悩む必要はなくなります! 女神に自由を!」
こうして始まった勇者と聖女とポンコツ女神の珍道中。
果たして勇者と聖女は秘密を守ったまま魔王を倒すことが出来るのか。
そして、女神の発言権が復活する日は来るのか。
今はまだ、誰も知らない。
終
おれが聖女で、あいつが勇者で。〜不本意ジョブチェンジで詰んでる魔王退治〜 荒瀬ヤヒロ @arase55y85
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