「々」
九々理錬途
「々」
※同じ場所で転ぶ。
文字にすると大したことでも無いのだが、当事者からしてみれば迷惑極まりない話である。
私が転ぶその場所。
玄関から出てすぐの場所だ。
本当に玄関の横滑りの扉を開き、跨いで出た瞬間に、何も無いのに何かに足が引っかかり前のめりになるのだ。ちなみに玄関から家内に入るときはスムーズに入れる。転ぶことは無い。
ここまで徹底的に出る時にだけ転ばしの刑を仕掛けて来るということは、もしや何かの呪いなのではなかろうか。恨まれることも人間、永く生きていれば自らの自覚の無い恨みを買っている可能性だってあるだろう。
しかしそれにしては地味だ。
……いや、地味ではない。
致命傷だ。
膝を強かにコンクリートに打ち付けた。
反射で着いた掌に小石が食い込んで水玉模様の内出血痕ができた。
眼鏡が吹っ飛んで柄が曲がった。
閉め忘れた鞄から中身が全て飛び出した。もちろん弁当も飛び出た。
大量の古本を売りに出掛けようとした時は見るも無惨、語るも爆笑な状態になった。因みにCDも数枚あったのだが、ケースから飛び出て地面に屍の如く横たわっていた。現状を見た私の脳裏には、畑を荒らすカラスを近寄らせない様に、不要なCDを吊るす作業に勤しむ亡き祖母の姿が横切った。
なので、毎度裏口から家を出る必殺技を使うしか無い。
裏口は狭い上に灯りが無いので本当は避けたい。
私を恨むなら訪問して来ていただきたい。
丁重に対応をすることを約束する。
お茶と菓子も出そう。
座布団も新調したものを出す。
なので、すっ転ばすのを止めていただきたい。
それが駄目なら、同じ場所ですっ転ばすというローテーションだけでも良いので止めて頂きたい。
呪いの他に何か要因はあるだろうか?
誰か教えてくれないだろうか。
そっと出ても靴が真横に滑って前のめりになる。
滑って後ろに倒れることが無いのが実に不可思議なのだが。
本格的に本気で全力で転倒したこともある。本気で、 本当に痛い。
年齢と共に内出血などの怪我の治りも遅くなる。歳は取りたく無いものである。しかし歳は仕方が無いとして、転倒だけは回避したい。
そもそも何故私は玄関を出て秒速で転倒するのだ。私が一体何をしたというのか。もしや呪いの……
※繰り返し
「々」 九々理錬途 @lenz
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