それは困る
話が脱線したけど、本線はクソ親父の跡取り息子が亡くなり、エッセンドルフ公爵家の跡取りがいなくなったところになる。その後は子どもが出来ていないんだよな。
「やり過ぎたんちゃうか」
「若いころからあまりにやり過ぎるとインポになるって言うんじゃない」
それはもうイイ。そうなると公爵家の分家の伯爵家から跡継ぎを迎える事になるそうだけど、
「見たでしょ、ウィーニスよ」
今は摂政でもあるそうな。カールはどうしたんだろう。
「やり過ぎたんちゃうか」
「やり過ぎると干からびるって言うじゃない」
知らんわ。とにかく序列としてデューゼンブルグ家のウィーニス伯爵が最有力候補だそうだ。じゃあ、そのまま公爵になりゃいいじゃない。
「それがね、ウィーニスも成り上がり者なのよね」
「ああいう世界ではとくに嫌われるわ」
どうもナイトから始まってわらしべ長者式に伯爵になり、さらに摂政、ついには公爵を狙うみたいな感じだそう。
「それがね、わらしべ長者はラッキーの積み重ねだけど、ウィーニスは自分でわらしべ長者にしてるらしいのよ」
どういうこと。
「ライバルの蹴落としや」
えっと、カールの子どもの病死も。
「そこまではわからん。そやけどデューゼンブルグ家に不審な死が相次いでるしし、カールが病床に伏せたのもそうやとまで言われとる」
「カールは単なるやり過ぎで違う気もするけど」
クソ親父はどうでもよいけど、それって陰謀、
「真相はわからないの。わからないけど、そういう噂がエッセンドルフ公国の中に広がり定着してるぐらいかな。成り上がり者はどこでも辛いものよ」
どうも空気としてウィーニスを公爵にしたくない勢力がいるぐらいで良さそう。
「そこで目を付けられたのがユリよ」
迷惑だ。理由としては継承順位一位どころか、唯一の正統継承者になるらしい。ウィーニスも実力者みたいだけど、こういう時の血統は絶対だってさ。それって、もしユリがエッセンドルフに行ったりしたら、
「即座に子爵で、すぐに侯爵になって公太女になる。カールが退位したら公爵様ね」
公爵になるのはなんとなく魅力的だけど、なったらなったで大変そうだ。だってだよ、言葉遣いなんてもちろんだろうけど、テンコモリの礼儀作法でガチガチに縛り上げられちゃうじゃない。
「それが貴族の暮らしよ。そこで生まれ育っていれば普通だろうけど」
「それだけやない。ウィーニスも健在やから、わらしべのターゲットにされるやろな」
そんな堅苦しい貴族の暮らしも、命を付け狙わるのも嫌だ。
「それはわかるけど、エッセンドルフの国民はユリアを救世主のように思ってるかもよ」
これも気になるけどユリアじゃなくてユリなんだけど。そしたらお母ちゃんが、
「ユリの漢字は友梨亜じゃない。読みはユリにしてるけど、エッセンドルフに行った時にユリアって呼んでもらえるようにしておいた」
ユリアも日本の名前にありそうだけど、ヨーロッパでは古い名前でローマ時代の前からあるそう。ちなみに英語ならジュリアになる。でもおかしいよ。おかしいと言うかユリも字が読めるようになってから疑問だったけど、友梨亜は普通に読めばユリアなんだよね。
「ああそれ、出生届を出す時に『ア』を書き忘れたの」
忘れるな! つうか受けとる方の市役所の係の人も気づけよな。それでもユリアとも読めるから、もし何かの時にエッセンドルフと関わる事があればユリアと名乗れるようにしてたとか。そういえば第二外国語をドイツ語にさせたのも、
「備えあれば憂いなしって言うし」
なに考えとるんだ、この母は。それでもウィーニスがユリを殺そうとしたのは間違いない。だってクルマから撃って来たもの。
「違うと思うよ」
「いくら外交官特権があっても、白昼の神戸市内での発砲は問題になるからな」
だったらあれはなんだって言うの。
「モデルガンやろ」
「他のクルマの排除ぐらいなら役に立つでしょ」
どうしてモデルガンって言いきれるのよ。
「高山の時に出てこなかったじゃない」
「本物のピストルが出てきたら、コトリもチャンバラで遊んどれんかった」
ピストルがなくとも幾らでも始末する方法があるじゃない。山に埋めるとか、海に沈めるとか。
「ヤーさんでもそんな古典的な手法はあんまりやらへんそうや」
「山に埋めたって出てくることはあるし、海に沈めたって浮いてきたり、漁船の網に引っかかったりもあるからね」
じゃあ、どうするのかと聞いたら、
「一番エエのは溶鉱炉にポイやろな」
「化学薬品工場で溶かすのもありって聞いたけど」
どっちもゾッとする。
「ウィーニスだって日本で殺す気はなかったと見てる」
「エッセンドルフまで連れて行くやろけど、殺しまでやらんやろ」
でもユリがエッセンドルフに行ったっら、ウィーニスが公爵になれないじゃない。
「それやけど、日本の皇室と違って辞退って方法があるんよ」
だったら辞退する。これでエッセンドルフと縁が切れるじゃない。
「それがやな。次期公爵の決定は貴族会議の承認がいるねんよ」
「そうなの。辞退も貴族会議で表明しないとならないみたいなの」
それってもしかして、ウィーニス以外にもユリをエッセンドルフの招き入れ、公爵にしようとする勢力がいるとか。
「いないんじゃないかな。あんな小さな国だから、そもそも日本って国がどこにあるかも知っているか怪しいし」
「ウィーニスも嫌われてるけど、イエロー・モンキーが好かれてる訳でもあらへんからな」
ギャフン。これって、もしかして、ウィーニスに捕まってもエッセンドルフに観光旅行になっただけじゃ、
「そこまで甘いかどうかは疑問や。貴族会議の席上でユリが公爵を受けたらウィーニスの野望は頓挫する」
だからお母ちゃんは人質に欠かせなかったのかもしれない。でもさぁ、でもさぁ、ユリが日本に居て知らん顔をしていればウィーニスが公爵になって終わる話じゃない。
「そうはいかんようになっとるんや・・・」
勘弁してよ。ウィーニスがわざわざ日本に遠征してきたのは、エッセンドルフが日本にカールの隠し子がいるのがわかったからだって言うのよ。
「そりゃ、そうや。ウィーニス言うても、たかが五万人の国の摂政や。個人的な調査でユリを見つけられるかい」
なるほど国としてユリを見つけたから、ウィーニスも乗り込んで来たってことか。えっ、まさか、それって冗談でしょ、
「その辺がはっきりせんとこがあるけど、国として正統後継者のユリを見つけてもたら、ユリが正式に辞退せん限り、ユリは侯爵、つまり公太女とされてまう可能性は残る」
辞退もなにもしなかったら、
「それはわからん。あの国にとっても異例の事態になるからな」
うぇ~ん。エッセンドルフまで行って、貴族会議とやらに出席しないとこの話はケリがつかないとでも言うの。ここでお母ちゃんが、
「もしユリが公爵になれば私はどうなるのでしょうか」
「立場としたら公太妃だと思うけど、こういう場合の規定はなさそうな気がする」
「わかりやすい方法なら、今からカールと結婚したら丸くおさまりそうやけど」
まさかお母ちゃん、今さらカールと、
「まさか。やり過ぎて干からびてインポになった男に魅力は感じないよ」
そこかよ。
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