いざ高山へ
朝風呂浴びて、朝食だよ。さすが飛騨で朴葉味噌が付いてる。
「鮎の一夜干しをこうやって炙って食べるのは演出ね」
朝から鮎なんて贅沢だけど、美味しい。朝からテンシュン上がる感じかな。朝の清々しい空気を吸い込んで出発。コウさんも一緒だけど、
「小坂まで素直に戻るの?」
「そやな今日は無難にしとく」
小坂ってどこかと思ったけど、昨日登った飛騨小坂ももはな街道を下って行くことになったんだ。それにしても標高千八百メートルもあるとはビックリした。通年営業って聞いたけど、こんなところを冬によく登ってくるものだと感心するしかないよね。バイクじゃ絶対無理だと思う。
下りのワインディングと格闘の末に四十分ぐらいかかって、最大の難所はようやく終了。後は国道四十一号まで戻り高山へ北上になった。
「まずは朝市ね」
「行かんでどうする」
行く気かよ。今日の予定も聞いたんだけど、
『もちろん高山観光』
『午後はコウさんとセッション』
あのぉ、ユリは、
『こういうものは成り行きが多いけど、ちゃんと考えてある』
高山まではコウさんも一緒にツーリングだ。高山で一旦分かれてコウさんは関係者と打ち合わせになる予定で良さそう。そうそう高山観光の注意としてコトリさんは、
『高山へのツーリングで注意しとかなあかんのはバイクの駐輪場が少ないことや。つうか殆どあらへんねん。その上やけど道が狭いからとにかく渋滞しやすい。バイクやから適当に駐められんこともあらへんけど、観光客がテンコモリおるから悪さをされかねへん』
それもあって朝食は七時にしてもらって、七時半出発にしたで良さそう。これだったら九時頃には高山市街に入れる予定だとか。そうやって走ってると、
「あったあった、日産の見える交差点を右に曲がるで」
「高山市街って書いてある方ね」
ここでコウさんとは暫しの別れ。ユリたちは高山線を跨いで、
「高山駅の方に行くの?」
「ここは真っすぐでエエはずや」
この時間でも混んでるな。とにかく高山はバイクで行くところではないと書いてあるぐらいだって。でもクルマが便利とも言えないそうだけど、駐車場問題がやっぱり難儀だそう。市内の渋滞もね。えっとえっと、次の道路案内は直進が高山陣屋で、左に曲がったら国道一五八号になってるけど。
「この信号も真っすぐや」
「らじゃ」
さすがは古い街並みね。この辺は観光地じゃないはずだけど、それでも高山って感じがするもの。
「次の角、左や」
さてここからどうするのだろう、
「バイク可の駐車場があるみたいだよ」
「ホンマや。でも今日はアテがある」
左に見える立派な建物は高山陣屋って書いてあるけど、まずは通り抜けるみたい。後から回るのかな。
「赤い欄干のある方にな」
「宮川ね」
市街地は見通しが利かないけど、コトリさんはよく間違わないよね。橋を渡ると人も多いな。どうも高山観光の中心でもある三之町の南の端みたい。でもここも通り抜けて、突き当りを左に入るみたい。
でもなにこれ。えらく狭い。一車線でもギリギリじゃない。バイクでも前からクルマは来て欲しくないな。これは道というより路地みたい。
「突き当たって左や」
「らじゃ」
たしかにバイクでもクルマでも来るとこじゃないかも。高山観光するんだったら、高山泊りがベストかもしれない。
「あっ、ここ右」
「らじゃだけど、出口って書いてあるよ」
コトリさんはチェーンの無いとこから入り込み、
「料金は」
「ここはタダや」
市立図書館の駐車場だから二輪はタダなんだって。よくこんなところ知ってたな。穴場は穴場だそうだけど、全部で十五台ぐらいしか駐められなくて、バイク乗りには有名だからすぐに満車になるんだって。
駐輪場から坂を下って行けば三之町に出るらしい。この辺だけでも雰囲気はグッドなんだけど、
「ここから北側が上三之町、南側が下三之町や」
「どうするの」
「そやな下三之町を見てから二之町上がって、上三之町にしょうか」
これがかの有名な高山の街並みだ。時間はまだ早いけど、観光客も多いな。
「ユリ、土産物は朝市に行くからな」
上三之町を抜けると広い道に出て、左に曲がり橋の手前を北に上がると、
「宮川の朝市ね。やっと来れたよ」
ユリもだけど二人は土産物をどっさり買い込んでた。赤かぶ漬け、朴葉と味噌、飛騨ラーメン、さるぼぼ、一位一刀彫・・・これをすべて宅配にして、
「今回はゴッソリ送らないと怒られるよ」
「だいぶ働いてもらったしな」
飛騨牛もクール宅急便で手配してた。これから高山陣屋と思ってたのだけど、
「仕方ないよね」
「すべては予定通りにはいかんのがツーリングや」
宮川を渡ってしばらく歩くと美容室に。
「ステージがあるからな」
貸衣装もやってる店みたいでコトリさんはセットにかかったのだけど、
「ユッキーさんは?」
「ジャンケンに負けたから今回は裏方だよ」
しばらくすると大きなワゴン車がやってきて、
「ユリ、おいで」
タクシーみたいだけど、
「今日は貸切にしといたから」
えっ、いくらするんだよ。そこから連れて行かれたのが和楽器屋。どうも注文がしてあったみたいで、
「エレキ三味線ですか」
「アンプ付きのスピーカーも頼んどいた」
てことは三味線でピアノとセッションするとか、
「ヨーロッパの人が主賓だから和風が入ると喜ばれるはず」
そうかもしれないけど無理あるな。美容室に戻ると、
「わたしたちも着替えるよ」
出て来たのがどこぞの制服。コウさんが演奏するホテルの制服だそうだけど、なんのためだろう。そうこうしているうちにコトリさんのセットが出来上がったんだけど、
「どうや、格好エエやろ」
なんじゃこれ。ド派手と言うか、これって花魁とか。
「モチーフはな。そやけど本気で花魁装束にしてもたら身動きできんようになるから、そこは考えてもうてる」
「ヨーロッパ人相手だから、これぐらいで良いでしょ。どうせあの連中にとって日本はフジヤマ、ゲイシャ、スキヤキだもの」
つうか、それでもここまでやるか。それにだよセッションのためにセットやメイクぐらいはわかるけど、ド派手な貸衣装を整えて、エレキ三味線やスピーカーまで買うのはやり過ぎでしょ。セッションって言っても一曲か二曲だろうし。
「その瞬間にすべてをかけるのがアーティストや」
「手を抜いたらコウに悪いし、日本の恥」
そこまで手を入れる方が異常だし、別にアーティストじゃないはずだ。ワゴン車に乗り込んでホテルの駐車場に停めたらコウさんと連絡を取り、最終打ち合わせをしてた。
「サプライズ風にするから、出番までここで待機になる」
ここでって思ったけど、コトリさんとユッキーさんはエレキ三味線の調整に余念がないみたい。
「そうそうユリにはね・・・」
どうもセッションの時にはコトリさんとユッキーさんは別行動になるみたいで、ユリはコトリさんと一緒のようだ。
「人手がこれだけしかいないから協力してね」
ユリはスピーカーを抱えてコトリさんと一緒に会場に入る役目で良さそう。昼食はワゴン車の中でサンドイッチだってさ。
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