犬山散歩
翌朝は朝風呂から始まり、お食事処で朝食を七時半から取って八時過ぎには出発。飛騨に向かうのなら関が原からだよね。まずは国道三六五号で関が原を目指す。インカムも調整したから、
「あそこじゃない。伊吹山ドライブウェイって書いてある」
伊吹山に寄り道するヒマなんてないから、反対側に右折して国道二十一号に入った。国道二十一号は関が原からは関が原バイパス、大垣からは岐大バイパスになって、岐阜市の南側を抜ける四車線の道になってた。十時も過ぎた頃に
「ここ曲がるで」
「あいよ」
変なところで曲がると思ったら着いたのはバイク用品店。
「リュックじゃ肩凝るで」
「とりあえずだから、これで我慢しといてね」
助かった。荷物も増えてたからリュックは辛かったんだ。バッグをリアシートに装着して再び出発。今週の天気予報は微妙だったはずだから雨具はって聞いたのだけど、
「それは心配あらへん」
「二人が行けばいつもツーリング日和」
たしかに晴れてるけどイイのかな。全部払ってもらってるから文句も言えないけど。混んでるところもあったけど、岐阜を抜けたら各務ヶ原だ。
「あそこって航空自衛隊の各務ヶ原飛行場ね」
ここには、かがみがはら航空宇宙博物館があったはずだけど寄るのかな。
「やっぱり犬山城よね」
そっちか。ユリも行った事ないのよね。へぇ、川を渡るのだけどライオン橋って言うんだ。そしたら左側に見えるのが、
「白帝城こと犬山城や」
あんな川の傍にあるんだ。橋を渡り終えると突き当りを右に曲がり、犬山城第一駐車場って書いてある方に登って行く。
「わざわざ駐輪場に停めなくとも」
「バイク乗りのマナーや」
駐車場から歩きになってまずは猿田彦神社から三光稲荷。ここを抜けたら松の丸門跡に出て石段が続いてる。
「コトリ、あの辺の建物も残ってたの」
コトリさんによると昔から残っているのは天守閣だけで、後は再建ですらない模擬建築物だそう。それでも雰囲気だけでも味わえるから良いと思う。本丸に入ると天守閣を目指すのだけど、地下と言うか石垣の間から入るみたい。
「日本最古の天守閣や」
「こういう天守閣は好きよ」
コトリさんによると天守閣は時代が下るほど単なる塔になるそうだけど、古いものは屋敷の上に望楼を設けた名残があるとしてた。
「要は天守閣の中にも生活スペースを設けるスタイルや」
ユリも姫路城に行ったことがあるけど、見た目は格好良いけど、中は薄暗い倉庫みたいだったものな。
「大きさもこれぐらいじゃないと無理があったのかもね」
なるほど採光の問題かも。防御施設だから大きな窓を作れないのか。姫路城も暗かったものね。
「最上階は赤絨毯なんだ」
成瀬家時代にはそうだったらしい。それと犬山城の特徴である回り縁も、他は高知城ぐらいしか残ってないらしい。
「これ必要じゃない」
天守閣の機能はあれこれあるけど、やっぱり見張り台よね。どこから敵が攻め寄せて来るか監視する役割はあるはず。その時に三百六十度グルグル回れる方が便利そう。三階の窓だけど、
「花頭窓って言うんやけどオシャレやろ」
お寺なんかにありそうな窓なんだ。赤絨毯が敷いてあったり、オシャレな窓があったりして軟弱そうな印象もあるけど、犬山城は何度も攻防戦が行われて、落城したこともある歴戦の古強者だそう。
「そういう意味で珍しい方ね」
合戦を潜り抜けた天守閣は実用性問題もクリアしてるってことよね。
「本物の白帝城より迫力あるよ」
中国に本家の白帝城があるそうだけど、本来は百六十メートルの山頂にあったそうだけど、三峡ダムが出来て百メートルぐらい水没して迫力が落ちたんだって。
「これからどうするの」
城下町の見物だって。
「犬山城も来たことあるけど、やっぱり変わってるわ。前に来た時は天守閣しかあらへんかったもんな」
いつの話をしてるのだろう。それはともかく登ってきた道を下りて、本町通りをテクテクと。
「最初はそうは思わなかったけど、この辺に来るとなかなか風情あるね」
「振り向いてみい」
本町通りの先に天守閣が見えた。へぇ、こういう見え方をするんだ。なんか格好がイイじゃない。本町通も歩いて行くと店屋さんが増えてきて、ここで食べ歩きをするつもりらしい。まずは、
「飛騨牛握り、穴子とうなぎも」
「エビとサーモンも全部三人前で」
全部炙りなのか。昨夜の近江牛も良かったけど、飛騨牛も行けるじゃない。つうか、牛肉の握りなんか初めてだよ。
「こっちにもあるよ」
「わさびとしょうがとニンニクを三貫ずつ頼むわ」
やっぱり炙りか。これもなかなか。次は串焼きの焼きおにぎりか。
「三本下さい」
ハート形の焼きおにぎり、守口漬け、丸い焼きおにぎり、奈良漬けの順番になってるじゃない。
「串に刺してあるのがアイデアね」
焼きおにぎりに漬物は最高。歩いていると目に付くのが田楽のお店。まさかまだ食べるとか、
「女が何言ってるの」
「これぐらいオードブルにもなっとらへん」
女だからそんなに食べられないのじゃない。との抗議なんて聞いてもくれず、
「へぇ、甘辛みそ、山椒みそ、柚子みそはわかるけどピザ風はおもしろいね」
田楽は豆腐を串に刺して味噌をつけて焼いたものが始まりだそう。これのバリエーションが広がって串に刺して焼く料理全体を田楽と言うようになったんだって。ちなみに焼くのではなく煮る田楽も出来たそうだけど、
「煮込み田楽ね。でも、それはおでんになってる」
そうだったんだ。そう言われてみれば串に刺したおでんはあるものね。おでんは置いといて田楽イコール串焼き料理で良いかと言えば、
「焼き鳥は田楽とは言わんな」
「そうだよね。やっぱり味噌焼きが田楽じゃないかしら」
大元はそうだったかもしれないそうだけど、出された田楽料理も道明寺湯葉にはしそ梅肉なのよね。そんな細かいところはともかく美味しい。この野沢菜の菜飯にお吸い物に犬山茶が合ってる。
田楽料理を食べてユリのお腹は限界も良いところだったけど、あの二人組はまだ満たされないみたいで、
「この手毬鮨綺麗じゃない」
「三人前下さい」
死ぬ気で詰め込んだけど、この匂いは、
「手毬鮨食べたら五平餅や」
「近いけど犬山団子ってなってるよ」
「玉五平三本と犬山団子三本と五平餅三本下さい」
お前ら大食い大会か。
「ツヤツヤに焼けてるし、この甘さがたまんない」
「そやな。ほいでもちゃんと甘いのも欲しなって来た」
マジかよ。
「甘いものは別腹やんか」
「デザート食べてないじゃない」
抹茶のチーズケーキだ。
「和紅茶って美味しいよ」
「お抹茶の紅茶バージョンかな」
ケーキのほうは分厚い抹茶の下がレアチーズになってるよ。
「ウエハースの代わりの最中もシャキシャキして楽しいよ」
ユリは悶絶してた。これだけ食べたのに、
「ちょっと早めの昼飯やったけど、腹八分にしとこか」
「女の子の量だからね」
どこが! 昨日からよく食べるのは知っていたけど、ここまで来ると化物だ。あれだけ食べて、よくあんなスタイルを維持できてるのか謎だ。ユッキーさんなんて、あれだけの食べ物がどこに入ったのか理解できないよ。
「ユリは遠慮してるね」
してません。
「奢りやないから遠慮したらアカン」
だからしてないって。
「また来たいね」
「見どころ増えとるもんな」
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