東への旅

 話は遡るけど次のロング・ツーリングの計画を考えてた時や。


「ユッキー、なに見てるんや」

「国道一六三号」


 国道一六三号は梅田新道を起点に津まで続く道や。道としては悪うないが、


「そうなのよね国道一六三号までの道中が一苦労なのよ」


 その辺は早朝出発で回避したとして、津からどうするねん。


「津から鳥羽まで行ってフェリーで伊良湖はどうかと思ったけど、津から鳥羽も遠いし、伊良湖岬に渡っても次の展開につながらない」


 ユッキーが行きたいのは信州。クルマ、いや中型バイク以上なら名神から中央道で一日で行けるんやが、とにかく原付の下道ツーリーングやんか。名古屋に出るだけでも一苦労やねん。


「伊賀で国道二十五号に入ったら四日市から桑名に行けるけど・・・」


 桑名から国道二五八号で北上すれば大垣には行ける。国道二五八号は四車線の整備もされてる道やけど、信州行くのやったら大垣に行ってもしゃ~ないんよ。信州目指すんやったら名古屋市内を突破して国道十九号に入らなあかん。


「このルートだけど、ナビで大垣まで二百十キロ、国道十九号で多治見まで二百三十キロ。この辺で一日目が終わっちゃうのよね」


 そうなる。下道ツーリングつうか原付ツーリングで一日の走行距離の目安は二百キロから二百五十キロぐらいや。これだって走り続けて五時間から六時間ぐらいはかかる。高速の二倍以上の時間がかかるもんな。


「それにだよ多治見あたりから二日目を始めたとして、ビーナスラインの入り口まで百七十キロで、ビーナスラインだけで七十キロぐらいあるじゃない」


 ビーナスラインの終点の美ヶ原高原美術館辺りがツーリングの限界になってくるんよ。


「これじゃ馬籠も妻籠も寄れないよ」


 寄ればビーナスラインは翌日になってまうけど、


「美ヶ原高原美術館から松本に行って、穂高のあたりに泊まったりしたら、帰るのにもう一泊必要になっちゃう」


 なんか苦心惨憺してビーナスラインを走りに行くツーリングになってまうもんな。それもツーリングと言えばそれまでやけど、


「信州は遠いね」


 そういうこっちゃ。信州も見どころが多いし、走ってみたい道、泊まってみたい温泉も多いんよ。そやけど原付ツーリングやったら、信州に行くだけで往復で二泊必要になるねん。そやから四泊しても観光できるところは限られてまうんよな。


「それと信州に行くまではまだしも、帰りがツマラナイ」


 それは確実にある。ツマランというよりウンザリやな。また名古屋突破して大阪横断せんとアカンからな。とにかく東に行くには原付ツーリングでは限界がある感じや。


「信州は棚上げね。その代わりに飛騨ならもう少し余裕が出来るんじゃない」


 信州の西隣が飛騨や。飛騨と言えば、


「仮面の忍者赤影!」


 あのなぁ、誰も覚えとらんて。あのテレビドラマって、


『豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、琵琶湖の南に金目教という怪しい宗教が流行っていた。それを信じない者は恐ろしい祟りに見舞われるという。その正体は何か。藤吉郎は金目教の秘密を探るため、飛騨の国から仮面の忍者を呼んだ…』


 そりゃフィクションやからどんな設定にしてもエエようなもんやけど、信長が義昭担いで南近江の六角氏を粉砕して上洛したのが一五六八年や。一五六九年は元就の要請で秀吉は但馬に出兵しとるし、一五七〇年は金ヶ崎の退き口から姉川や。さらに言うたら志賀の陣に参加しとる。


「でも姉川の後に横山城の城代になってるじゃない」

「北近江やぞ」


 小谷の浅井氏に対する最前線や。そんなに忙しい秀吉を南近江の邪教調査に使う余裕が信長にあるかい。


「それでも使いそうなのが信長だけど」

「あっさり皆殺しにするわ」


 赤影の話はさておき、信州と飛騨を分けてるのが日本アルプスになるけど、


「あの辺は秘湯の量産地みたいなとこ」


 そうやな。そうなると一日目は神戸から出て滋賀泊まりになるけど、


「彦根城ぐらいは見れるよ」


 久しぶりやな。それに飛騨も回れるけど、そう言えば伝統的街並み保存会議やってたよな。あれも最初は国内だけやったけど、今は海外参加も増えとるし、


「今は国際会議になってるじゃない」


 エエ悪いは別にして、保存会議と言うより観光会議になっとる。まあ、街並みを保存するためには観光地になってゼニ落してくれんと困るからな。


「観光地化しすぎる批判もあるけど、観光客が来なければ古い建物は壊されるか、街ごと廃墟になりかねないものね」


 そういうこっちゃ。そやから海外参加が増えとるんや。狙いもずばり日本からの観光客の誘致や。参加することで知名度が上がり、観光客が増えたとこも多いからな。


「今回はエッセンドルフ公国も参加だって」


 なるほど日本人観光客もウィーンやザルツブルグまで足を伸ばしても、


「そうなのよエッセンドルフを素通りしてスイスに行っちゃうのよね」


 オーストリアとスイスの間にある国やから途中下車観光に組み込んでもろおうやろな。三国巡りのパック・ツアーぐらいに育てたいのが狙いやろ。観光客と言えば、


「ついでに中国に行ってアピールするとか」

「それは無いみたい。あの国はマーケットとして魅力的だけど、あれこれ問題多いのよね」


 日本人観光客も不評を残した時代もあったけど、今は中国人観光客がそういう部分はあるもんな。もちろん全部やないけど、例外とは言えんとこがある。いずれ良くなると思うけど、


「それもあるだろうけど、中国人観光客の目的は観光もあるけど、買い物がメインの層がとにかく多いじゃない。そういう点ではエッセンドルフは魅力に乏しいの判断もあると思うよ」


 そっちは確実にあるかもな。日本人ならエッセンドルフの観光だけを楽しめるけど、中国人には魅力が欠けるかも。


「その辺は海外旅行で求める感覚の差だと思うよ」

「あははは、日本は貧しかったからジョニ黒三本だったとか」

「そんな時代なんて誰も覚えてないよ」


 それこそ仮面の忍者赤影が放映されていた時代やもんな。今から考えたら貧しかったよな。とにかく1ドルが三百六十円もしたから、お土産物買うのも大変やったぐらいや。

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