コンビ(お笑い・コメディ)

しょうわな人

第1話 とあるコンビの風景

 俺は今、個室である病室のテレビ画面を真剣に見ていた。


 画面では俺の相方である川西よしきが一人で、とあるお笑い芸人を集めてトークする番組に出ていた。


『いやいや、ちゃいますって! 僕はやからやのうて、僕の相方がやからやったんですって!』


 そのはちゃうぞ、よしき。今日はお前の狂ったを、笑いに変える為に突っ込んでくれる先輩も後輩もおれへんから、スベるぞ。


 俺が思った通りによしきのしゃべりはスベり、スルーされた。


 いつもがちゃうと言うてるのに、それが分からへんのか、よしきは一人だと笑いをとれない。大先輩であるシミーズの源さんと同じやけど、源さんは良くも悪くも、それが芸風だと周りから見られているし、長年やっている所為か、実際に芸風にまで昇華されていた。


 そんな事を考えながら俺は今日も病室で過ごしている。あと二時間もしたらよしきが見舞いに来てくれる。俺はその時に言うべき言葉を考えていた。


 コンコンとノックの音がして、俺の返事を待たずに扉が開いた。


「やっちゃん、足の具合はどうかな? 骨はもうくっついた?」


 よしきが入りながら俺にそう言う。


「アホー、そない簡単にひっつくんやったら、入院してへんわ!」


「アハハハ、それもそうやね。それで、ゴメンなぁ、今日もスベってもうたわ」


「かめへん、かめへん。せやけど、いつも言うてるけど、あのはタイミング悪いわ。もう、ワンテンポ遅らせたら良かったんや」


「そうかぁ…… やっぱり僕一人やったらアカンなぁ。やっちゃん、はよう治してーや」


「コラコラ、俺かてはよう治って欲しいわ。いうか、杖突いてでも舞台に立ちたいけど、ココのヤブがアカンって言いよるしなぁ」


医師せんせいの事をヤブなんて言うたらアカンで、やっちゃん。他の病院やったら足、切られてたんやで」


「まあ、そらそうなんやけどな。せやけどな、俺がもう杖突いて歩けるって言うてるのに、百年早いわ! なんて言うんやで、今から百年経ったら足無しの幽霊やっちゅうねん!」


 そこまで会話をしていたら、扉のところで看護師さんが笑っていた。


「ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけど、聞こえてきちゃって。お二人ともさすが漫才師さんだわ。面白くてずっと聞いちゃいそうになるの」


「そりゃ、どうもおおきに。最高の褒め言葉ですわ」


「さあさあ、それじゃあ早くお二人が舞台で揃うように、私も頑張って仕事しますからね。先ずは検温からです」


 その看護師さんが入ってきた時からピタリと喋るのを止めるよしき。散々聞かれてるんやから、今更やでと思いながらも、一目惚れしたようやし、しゃあないかとも思う。

 そして、一通りの検査を終えて看護師さんが出て行ってから、よしきがブハァーと大きく息を吐き出した。


「ああ、危ない、死ぬトコやったわ。やっちゃん、今日も白石さんはキレイやねぇ。僕も白石さんに見てもらえるんなら、入院したいわ」


「このアホ、二人で入院なんかしたら会社をクビになってまうわ!」


 そう、ウチの会社は働かざる者養うべからずの精神で、実際に俺が番組の企画で足を複雑骨折した時も、局から見舞金や補償金が出なかったらクビやって言われていた。ゴッツい会社やで、ホンマ。


 俺達二人は今時の他の漫才師と違い、あの伝説のコンビ【かなこい】を目指していた。そう、しゃべくり漫才では今見ても笑いがこみ上げてくる、【西山かなし】師匠と【横川こいし】師匠だ。

 お二人ともコンビ名などつけずに活動されて、お客さんから【かなしこいし】や【かなこい】などと呼ばれだして、それがコンビ名のようになっている。


 俺とよしきはお二人に憧れていたから、コンビ名は付けてない。【川西よしき】と【山川やしろ】でしゃべくり漫才をやっていた。

 けれども漫才だけでは食べていけないし、若手故に使ってもらえるなら体を張ったロケにも行かなければならない。

 それでも徐々に漫才もウケ始めていた矢先に俺のケガである。よしきには本当に悪いと思っている。ピンでマネージャーが取ってきてくれた仕事を、何とかこなしてくれているよしきには、頭が上がらないのだ。


 せやから、看護師さんに一目惚れぐらいは許そう。せやけど、いい加減に気がつけよ、白石さんの左手薬指の指輪に。


 まあ、が悪いのが、よしきの良いトコロでもあり、悪いトコロでもあるんやけどな。

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コンビ(お笑い・コメディ) しょうわな人 @Chou03

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