ちょっとした勘違い

蓮宗

第1話

俺が何でコメディって呼ばれてるかって?…あだ名ってさ、結構しょうもないとこから付くし、無駄に定着して忘れられないしで厄介だよなー…って、はいはい、はぐらかさねぇから、悪かったって。後でお前の話も聞かせろよ?


今だと英語って小学生からやるんだってな。俺ん時は中学入ってから、初めてあの楽譜みたいなヘンテコなノートにABC書くとこからスタートってくらいでさ、舌を上顎に付けるようにだの、ちょっとだけ舌先噛むようにだの頭も舌もこんがらがってたのは覚えてる。


夏休み明けに、カナダからやけにテンション高い女の人が来てさ、英語に親しめって英語の時間英語の先生と一緒にいることになったんだよ。確か…オリビア先生って言ったっけな。俺らの名前頑張って呼んでくれんだけど、微妙に巻舌だったり言えてなかったりで俺らが英語に苦戦するみたいに、先生も日本語発音しにくいんだな、なんて急に親近感覚えたんだよ。


最初こそアルファベットの発音練習をひたすら繰り返せとかだったのも、自己紹介を自分で考えて発表しようって宿題が出るくらいにまできてさ、さて何て言おうって放課後教室で悩んでたんだ。お笑いが好きだったからそれは入れときたいなって思いはしたんだが、肝心の単語が分からなくて他のことにしようかって考えた時にたまたまオリビア先生が廊下歩いてんのが見えてさ、教えて貰えたんだ。ただ、日本語があまり得意じゃねぇ先生に必死に一人ツッコミしたり、笑って見せたり、お笑いって言葉を伝えようとしたんだけどなかなか大変で。頷きながら真面目に聞いてはうーんって悩んだ先生がチョークで黒板に「Comedy」って書いてくれたんだ。……オチが分かってきたなって顔してんな?まぁ、ここまできたらあと少しだ、ねぎま食って待っとけ。今なら読めるって、バカにすんな、…まぁ、その当時のお馬鹿さんな俺はな、伝わんなかったかー、って思いながらも笑顔でお礼言って、せっかく先生が教えてくれたし、間違ってはないしってそのまま自己紹介に使うことにしたんだ。


で、次の日の英語の時間、俺の番になった。まずは黒板とこに行って自己紹介の文を書いてな、それから読んで、さらに日本語の意味を言って終わりっていう一人5分もあれば充分な簡単な発表だったんだ。オリビア先生見てなって思いながら「Ilike Comedy.」って書いて「アイ ライク コメデイ」って自信満々に言った。で、「俺給食だと米の日のが好き」って言ったとこで、英語の先生が耐えきれずに吹き出した。やー…その後授業にならなくなって、先生には怒られるし、何が起きたかわかってなかったオリビア先生も説明聞いて爆笑してるしで、本当に凹んだわ。帰って辞書引いてたら絶対こんなことにならなかったんだ…しかも給食とかどこにも入ってねぇし意訳もいいとこだよな。おい、お前…肩震えてんぞ。


だから俺の中学ん時のあだ名は、コメデイ。ったく、こんなおっさんになってまでまだいじってきやがる。ほら、次はお前のあだ名教えろって。

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