お笑い
もと
三月の青い空、その上の
雲よりもっと高い所、そこには神様が住む町があります。
光り輝く住宅街、木漏れ日の公園、オープンカフェ、スーパーマーケット、コンビニ、本屋、八百屋、魚屋、金物屋。
毎日が平和な日曜日のようです。
白い布を上手いこと巻いてる彫りの深い神様も、前を合わせるタイプの着物をまとう神様も、全裸の神様も、異形の神様も、闇の神様も、みんな仲良く暮らしています。
が、この町で一人、眉間にシワを寄せ手を合わせる不機嫌そうな神様が、ほら本日もまた、本日もまだか、と指をさされています。
空中に座禅を組みながら、声だけは笑い続けている変わり者の神様です。
こういうトンチキな雰囲気を持つのは大体が東洋の、主に日本の神様だと指をさされています。
トンチキ神様は気にする様子も無く、黙ったかと思えば、ふとまた大声で笑い声だけを響かせます。
「何してんのかな?」
「さあ、何でしょうね」
「もう百年ぐらいやってんじゃん?」
「彼は気まぐれですからね、私達とは思考回路が違います」
「あの人、何の神様なの?」
「『笑い』の神様ですよ」
「え?! あんな怒ってんのに?」
「怒ってはいないみたいですよ。話しかけても普通ですから」
「話できんの? してこよっかな?」
「アナタは『好奇心』の神様でしたか、なるほど、面白いかも知れませんね」
「え、そういやキミは何の神様?」
「『楽』の神です。特に何の仕事もしません」
「なにそれウケる」
「ウケますね」
『好奇心』と『楽』の神様は連れ立って、『笑い』の神様の元へ向かいます。
ちょうど笑い声が止んだ所でした。
ここぞとばかりに話しかけてみるのは『好奇心』の神様。
近くの白いベンチから、その二人をニコニコと眺める『楽』の神様。
『笑い』の神様が天気の話をしています、良い天気ですねと言われたからでしょう。話しかければ普通だというのは本当なのでしょう。
そうでしょう、そうだったのでしょう。
何か閃いたのか、何か悪い物でも食べたのか、何がキッカケかは誰にも分かりません。
『笑い』の神様は突如として、『好奇心』と『楽』の神様を吸収すると地上へ投身してしまいました。
あっという間も無く、どの神様も動けないままに事は済んでしまいました。
「やれやれ、これは
「どれどれ、どうなるか」
「いよいよ、待ってました」
神様の町の神様達は特に助けに行く様子も無く、地上を映す大型ビジョンに注目しています。
各種様々の神様達がワクワクしている感は否めません。全裸の神様などはとても分かりやすく興奮しています。
地上に落ちた『好奇心』と『楽』を含んだ『笑い』の神様は、人間の赤ん坊として生まれています。
神様達からすれば
地上で奮闘するその男は不器用で、選ぶ道はことごとく険しい物でした。
それが中年になる頃には仲間も増え、人間からも動物からも笑われ愛される芸人、コメディアンと成っていました。
大型ビジョンは『笑い』の神様の人としての
神様達はワイワイガヤガヤ、「今のもう一度」「新作はまだか」と『笑い』の神様のネタを楽しみ、味わい、批評し、笑います。
気付けば『笑い』の神様の人間姿も老年、それでもネタは進化します。老いてからこそ出来る事にもストイックに挑みます。
神様達がコーヒーも紅茶もビールも飲み終わり、おかわりを注ごうとした時、食事にでもしようかと腰を浮かせた時、しかしそれは唐突に終わりを告げました。
『好奇心』と『楽』を吐き出した『笑い』の神様が空へと帰って来ました。
「うわー、面白かったー!」
「散々な目に遇ってしまいましたね」
「散々?」
「仕事で笑い過ぎて、仕事が楽し過ぎて、せっかく綺麗な人間に囲まれていたのに子孫繁栄をする間もなくて散々でした」
「そこ?! ソレはまあ別に、恋はソコソコしたからイイじゃん?」
「物足りませんよ」
「じゃあさ、もう一回『笑い』の神様と地上に行こうよ!」
「無理ですよ、ほら」
「え?!」
「また百年か千年か分かりませんが、しかめっ
「えええ、つまんないの!」
「待ちましょう。また私達を連れて行って貰える様に『楽』でも極めましょうかね」
「キミの『楽』は『
「ええ、そうですよ。言ってませんでしたっけ?」
「ウケる」
「ウケますね」
白いベンチに座る神様二人。
大声で笑う神様一人。
前回は、前前回は、前前前回は、どの神様と地上に行ったのか。
次はどの神様を連れて行くのか。
前回も、前前回も、前前前回も、なかなかどうして今回も面白かったな。
大型ビジョンの前は料理と飲み物、まだまだ『笑い』の神様の話題で持ちきりです。
その中から我こそは、白いベンチに向かって猛ダッシュするのは全裸の神様。
コラコラ待て待てキミは何の神様かと止める神様達。
阻止出来たのか、はたまた。
おわり。
お笑い もと @motoguru_maya
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