終-3 一言余計な男の末路
恐らく変わったのではなく、元々あった彼女本来の気質が表れたのだろう。月英は、大于の『剛気なのだよ』という言葉の真の意味を理解した。
なるほど。これはあまりにも凜々し過ぎる。
しかし、何故かここで万里の持病の癪が疼いた。
「にしても、この距離で外すとは……もしかして、お姫様は弓が苦手だったりします?」
万里は、門扉の近くに立つ木と門との間で視線を往復させ、ニタリと意地悪な笑みを向ける。木の幹には一本だけ矢が刺さっており、的にしていたのであろう事が窺えた。
「まあ! 根っからのお姫様ですし仕方ありませんよね。琅牙族でも守られる側だったでしょうし、なんならオレが弓の使い方でも――」
「ギョエッ」
変な声がしたと思ったら、唐突に万里の目の前に、ぼとりと空から何かが落ちてきた。
足元に視線を向ければ、地面で鳩が痙攣しているではないか。
次に亞妃を確認すれば、天に向けた弓を下ろすところだった。
それが何を意味するのか。
「ふふ、ご安心くださいませ。峰打ちですわ」
はたして、弓に峰打ちという概念はあるのだろうか。
それよりも、本当に飛ぶ鳥を射落としたのであれば恐るべき技倆である。
万里は足元の鳩と亞妃とを、「え」「は」などと訳の分からない声を漏らしながら、交互に見遣っている。
「そういえば、ウジウジした女というものは、とぉっても根に持つ方が多いんだとか。侍女から聞きましたわ」
なぜそれを今言うのか、と万里は思った。
なぜ、飛ぶ鳥を射落とす神業を見せた今なのかと。
「それで……内侍官様は、わたくしのことを何と仰っておりましたかしら?」
万里の背中で冷たいものが流れ落ちた。
「……ヤベェ」
「多分やばいのは、万里の寿命だよ」
「え」
月英は無言で万里に向けていた視線を、地面でのびている鳩に向けた。恐らく彼は、そこに含められた、あれやこれやの意味を察してくれたのだろう。
万里はじわりと膝を折ると、無言で地面に
一言多い男の末路を、亞妃と月英は憐れみの目で見下ろしていた。
◆◆◆
「――あははっ、そんな事があったのね。全く、昔からあの子は一言多いから」
円窓から上半身を覗かせた春廷は、万里の芙蓉宮でのしでかしを聞いて、転げ落ちそうなくらいに大笑いした。
「本当だよ。あの一言余計なのは一生治らないんじゃない? だって帰り道でも『やっぱり女は怖ぇ』とか言ってるんだもん。もう救いようがないね」
「兄としてもあの子の将来が心配になるわ」
二人は呆れに肩をすくめ、顔を見合わせて苦笑した。
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