1-6 この国での名は
★とても短いので、十分後に次話更新します
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亞妃――それが、
風に飛んでいってしまいそうな天女の羽衣のように軽い羽織りに、ヒラヒラと足に絡む柔らかい襦裙。
亞妃は甘えるように腕に沿う着物の袖を、わざと手を振って揺らしてみた。
薄絹でも全く寒くはない。向こうでは、今頃はまだ毛皮を纏っていたというのに。
それに、
後宮という場所に連れて来られ、まず最初に思った事はそれだった。
青と白、茶と緑。それが亞妃の知る色のほぼである。しかし、ここ後宮は、軽く首を巡らしただけでも様々な色が目に飛び込んでくる。
赤だけでも、光るような赤、夜を混ぜたような赤、若葉に映える赤、移り変わる赤、と数え切れないくらいの色が存在していた。
「目がチカチカしてしまいますね」
とても大きく、強く、美しく、そして調和した国。
馬の背に乗せられ、駆け回った北の大地とは何もかもが違う。
住む家の形も、身に纏う衣も、髪型も、化粧も、女人に必要とされるものも、扉の向こうに咲き始めた花の色も、葉の形も、土の香りも、空の高さも、耳に聞こえる鳥の囀りすらも――何もかもが違うのだ。
予想すら出来なかった程の知らないものばかりに囲まれ、亞妃は自分達が『狄』と呼ばれる理由が分かってしまった。
「亞妃」と、自分の名を呟いてみた。
唇に指を沿わせ、もう一度同じ言葉を呟く。己の口から出たというのに、まるで音だけが上滑りしているようで、ちっとも口に馴染んではいなかった。
それでも、今後はずっとそう呼ばれるのだ。
「わたくしは…………亞妃」
亞妃は耳を塞ぎ、瞼を閉ざした。
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