笑いの向こうで俺は泣く

@aqualord

第1話

今日、妻の浮気が確定した。


依頼していた興信所から、調査の結果を報告したいので事務所まで来てほしいとの連絡が昨日あった時に、事務的な口調の中に労るかのような言葉が混じっていたので覚悟はしていた。


いや、もっと前、興信所に頼んだときから覚悟はしていたのだ。


普段は化粧っ気がない妻が、見たこともない化粧品を買ってきた。

夜、人待ち顔でスマホを抱えて離さなくなった。

昼間に出かけて帰りが遅くなることが何度もあった。


私は浮気を疑い、密かに妻の鞄をあさった。

出てきたのはお笑いライブのチケットの半券くらいだった。


私が仕事から帰宅して、ビール片手にリビングのテレビで好きなお笑いの動画を見ていたときに、妻が寄ってきて訳知り顔で業界の内輪話を話していた記憶があった。


そのときは、妻はお笑いにはまっただけだと自分を無理矢理納得させた。


興信所の報告書にあった写真で、にやけ顔で妻と一緒にホテルに入っていったのは、その動画に出ていた最近売れ始めた若手芸人だった。


所定の料金を払い、私は報告書を手に家に帰ってきた。


今日も妻は家にいない。

今日もその芸人のライブがあるのだという。


写真が撮られたときは、ライブの後、楽屋を出た少し先でその芸人は妻と落ち合い、ホテル街に向かったのだという。


電気を消したリビングで、何も映さないテレビを前に私は涙が流れるに任せた。


やがてこの芸人は、適当にみそぎとやらを済ませ、妻も、私の涙も笑いのネタとして消費しながら、またのし上がっていくのだろう。

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